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偽パイロット詐欺で2000万円被害「自殺未遂をしました。元の生活には戻れない」女性の涙の訴え(前編)

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
イラスト提供:榎本よしたか

「私に人を見る目があって、マルチ商法の誘いをきっぱりと断っていれば、2000万円を失うことはなかったかもしれません」

この誘いをきかっけに、10代の頃から貯金していたお金をすべて奪われ、さらに多額の借金をして被害に遭った40代女性の恩田さん(仮名)は、悔しそうに話します。

しかし彼女はマルチ商法で多額のお金を失ったのではなく、同級生だった男性から詐欺をされて、大金をだましとられたのです。彼女に嘘の投資話を持ちかけた男は、2022年の8月1日、沼津署に詐欺容疑で逮捕されて、起訴されています。男の名は、亀井裕貴被告です。

偽パイロット詐欺事件として報道

亀井被告はJALの副操縦士をかたり、詐欺事件を起こしたとして「偽パイロット詐欺」としてテレビなどでも報道されましたので、ご記憶の方もいるかもしれません。

昨年末、恩田さんは刑事裁判にて、自らの辛い気持ちを乗り越えて、証言台に立ちました。

「私は自殺未遂をしました。もう、元の生活には戻れません」と震える声で話します。

「お金をだまし取られて、姿を消されて、辛い思いをしました。お金を取り戻そうと民事裁判を起こそうとしても行方が分からなかったので、テレビ番組に連絡して探してもらってようやく見つかりました。しかしその後にまたもや姿を消してしまいました。そして告訴状を出して、ようやく逮捕になるまで、5年ほどの歳月がかかっています。私の資産すべてをむしり取り、経済的にも、精神的に破綻して、自殺行為を何度もしました、うつ病と診断されて、今も、社会復帰できずに、つらい毎日を過ごしています」

時に涙をにじませながら証言しました。

なぜ、多くの人が男のパイロット話を信じたのか

亀井被告は、どのような手口を使い、彼女から金をだまし取り続けたのでしょうか。

2016年の春にFacebookをきっかけに久しぶりに連絡を取り合うと、男から「食事でも行こう」と誘われます。お店で会うと、亀井被告は「JALの副操縦士をしている」と名刺を見せてきて、さらに「自分の会社(投資会社)をやっている」との話をします。

なぜ、パイロット話を信じたのでしょうか。

その理由について「日頃から、フライトに関する具体的な話を出してきて『ブリーフィング』『スタンバイチケット』といった、職業ならではの航空用語も頻繁に口にしていました。そうした話を聞いて私を含めた多くの人が、彼の偽パイロット話を信じたのだと思います」と恩田さんは話します。

自分はマルチ商法の成功者「トリプルダイヤモンド」と話す

その頃、彼女通っていたエステサロンの韓国人女性Aから「S」というマルチ商法に誘われます。マルチ商法では他人を誘うことで儲かるようになっていますが、彼女はよくその仕組みを理解していないまま、気に入った「S」の商品の写真を投稿したりしていました。すると、亀井被告はそれをみていたようで、次のように切り出します。

「書き込みをみたよ。実は、自分もアムウェイ(マルチ商法業者)で成功しているから詳しく聞かせてよ。自分はトップクラスの実績を出して、トリプルダイヤモンド(アムウェイでは上位クラス)なんだ」と男はいいます。

驚いた彼女は、その場で女性Aに電話をすると、彼女も「話を聞きたい」といってやってきて、さらにもう一人のマルチ商法の関係者も加わり4人で話をすることになりました。

亀井被告は、女性Aの下につく形で「S」というマルチ商法を始めることになります。まさに男はマルチ商法の話題を利用して、彼女に近づいてきたのです。

すべてが嘘

裁判では、すべての嘘が暴かれます。

弁護士から「(投資)会社の経営はしていたのか」の質問に対しては「していません。会社もありません」と答え「パイロット(JALの副操縦士)は?」の質問には「やっていません」と返します。さらに「マルチ商法で成功していた事実(トリプルダイヤモンド」)は?」と聞かれて「成功もしていません」と答えており、彼女に話したこと、すべてが嘘でした。

しかし当時の恩田さんは、まさか同級生だった男性が自分に嘘をついていると思わず、亀井被告とともに、マルチ商法に向けての活動に参加します。

「S」の会合で東京に行った時のことを恩田さんは話します。

「彼と高級ホテルのロビーにいると、支配人が出てきて、彼がJALのパイロットであることを知っていて、丁寧に挨拶をしていました」(恩田さん)

言葉巧みにだます人は、首尾一貫とした嘘をつき、詐欺の種を色々なところにまくものです。

男は恩田さんに「自分と結婚したら、生活には困らないよ」などと言い寄ってきました。亀井被告は結婚詐欺的な手法で金を引き出そうとしたとも考えられます。

FX投資の話をもちかける

半年ほどたったある日、亀井被告は彼女に詐欺の魔の手を伸ばします。

「自分が経営してる投資会社に金を預けて運用すれば」と言い、彼女からFX投資の名目で500万円を受け取ります。今回の起訴はまさに、このお金をだまし取った容疑です。

なぜ彼女はお金を出してしまったのでしょうか。

恩田さんは「それまでに色々なトラブルがあって、本当に親に苦労をかけてきました。親に恩返しをしたい。それで感謝の気持ちとして、200万円位を渡してあげたい」という本音を亀井に話してしまいました。すると「500万円で運用すれば、700万円にできると思う」という話になっていったそうです。

さらに「亀井からは『今のタイミングじゃなきゃだめなんだ』といわれました。そして期限を決められて、焦らされました。自分自身も何か新しいことを始めなければならないという気持ちもあり、そこに付け込まれたように思います。翌日、銀行の封筒に500万円を入れて、亀井被告に渡しました」(恩田さん)

両親への恩返しをしたいという彼女の優しい気持ちを利用して、お金を詐取したとみられています。

裁判で、亀井被告は恩田さんへの詐欺行為は認めていますが「500万円を出してほしいとは言っていない。彼女が自分自身の意思でそれだけの大金を持ってきた」と主張しており、この点についてだけは争う姿勢を見せています。

彼女はそれを聞いて「この期に及んで、金額を言った言わないの、細かい話で争ってきていて、本当に反省もしていない態度に、あきれています」と話します。

詐欺の発覚を防ぐために、配当金を振り込む

500万円の入金後、約13万円、約20万円の2回が入金されます。この入金について、亀井被告は裁判で「(詐欺の)発覚を防ぐために振り込んだ」と話しています。

「実際に、配当があったので安心してしました。しかしその後は、投資の配当はまったくありません。幾ら催促しても入金がありませんでした。当時、個人名での振り込みで、会社名義ではなかった。ちょっとおかしいなとは思いましたが…」(恩田さん)

ここは詐欺に気づく大事なポイントの一つだったかもしれません。こうした違和感はとても大事になります。

恩田さんは「振り返れば、いつの間にか、亀井にマインドコントロールされるような形で、お金を次々出させられていたように思う」とも話します。優しく、人を疑うことをあまりしてこなかった彼女から、亀井被告は、さらに1500万円をだましとっていきます。(後編に続きます)

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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