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文化庁による解散命令の請求が、合同結婚式の前と後では大きな違いも 旧統一教会問題の重大局面の可能性

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

2月16日、立憲民主党を中心した旧統一教会問題の国対ヒアリングが開かれました。阿部克臣弁護士より「今年5月7日に、韓国にて合同結婚式を統一教会は行う予定があります」との話があり、小川さゆりさん(活動名)からは、教団の2009年のコンプライアンス宣言後に行われていた、正体隠しの伝道についての赤裸々な実態報告がありました。

旧統一教会が行っている合同結婚式は、祝福といわれています。

人間始祖アダムとエバ以来、人間は原罪を持って生まれており、祝福を受けることにより、サタンの血統から神の血統へと生みかえられる。そこから生まれた子供は原罪のない神の子になると教えられています。「原罪を清算して、救いの道に至れる唯一の道が合同結婚式」と教えられるため、信者らは教団の祝福を受ける条件をえようと、必死になって伝道とお金集めの献金活動をします。

5月7日の合同結婚式では多くの信者が渡韓する恐れ

阿部弁護士は「2002年に合同結婚式への参加強要の違法性の判断が、東京地方裁判所から出されました。判決では『婚姻の自由を侵害する違法があった』と結論づけています。今回も合同結婚式に参加させられることで、違法性が認められる可能性があります。今度の合同結婚式はコロナが明けた後でもあり、昨年2月に行われた祝福よりも大規模になることが想定される」とし、過去には先祖解怨が行われた際に、信者が現金を韓国に持っていったという話もあり「今回も、信者らが多額の現金を持って、渡韓する可能性もある」と警戒を呼び掛けます。

合同結婚式に参加するにあたっては、祝福献金が必要です。実をいいますと、この2002年の判決の原告の一人は筆者です。1992年の合同結婚式に参加するにあたっては、140万円の祝福献金が必要でした。国対ヒアリングの取材をしながら、よもやこの場で自らの過去の判決が話されるとは思ってもみませんでしたが、いずれにしても、合同結婚式が多額のお金を集めるための場につながることへの懸念が高まっています。

教会改革推進には欺瞞的要素の指摘

さらに阿部弁護士は、教団の示す「教会改革推進の内容には欺瞞的要素がある」とも指摘します。

「消費者庁の発表した『年度別相談件数』について『当法人に関する最近の相談は、全体の中では数(2~4)%とかなり少ない』と言っていますが、2009年のコンプライアンス宣言以降は、霊感を使った露骨な(壺、印鑑などの)物品販売はせず、信仰を持たせたところで多額の献金をさせる方法に手口を変えてきました。窓口への相談のハードルが上がっているわけです。全国霊感商法対策弁護士連絡会がまとめたもの(2022年9月13日現在)によると、2009年以降の被害が7億円もあります。清平での先祖解怨は今も呼び掛けられており、この教会改革には期待できません」といいます。

コンプライアンス宣言は本当に徹底されていたのか?

旧統一教会の2世信者だった小川さゆりさんは「昨年9月5日に開始された旧統一教会に関する電話相談では、5日で1000件を超える相談があり、(教団の活動が)著しく公共の福祉を害していることがわかります。新たな被害者が生まれないためにも、統一教会の解散についての議論を続けて早急に対応してほしい」と話します。

そして2009年に発表されたコンプライアンス宣言が、教団内部では徹底されていなかった実態が、小川さんの経験から明らかになりました。

「旧統一教会は2009年のコンプライアンス宣言で勧誘活動方法の改革(勧誘目的の明示)を主張していますが、私自身、高校3年生だった2014年1月頃から2015年頃にかけて、愛知県の名古屋市周辺で、土日に宗教団体の勧誘であることを告げずに行う、正体を隠した勧誘活動をさせられました。アンケート用紙をもって、先輩信者とともに駅前で通行人に声をかけていき、勧誘した人を『GL文化センター』というビデオセンターに連れて行きます」

その時、スタッフルームには「伝道実績」と書かれたボードもあったと話します。

他の元信者も2012年頃にも正体隠しの勧誘活動をしていると証言

筆者は96年に教団を脱会しましたが、その時と何も変わらない勧誘活動が、コンプライアンス宣言後も平然と続けられていたことに驚きます。

すでに2012年頃まで活動していた元信者への取材でも、信者時代に内部ではコンプライアンス宣言など聞かされておらず「街頭で『手相を見ています』と通行人に声をかけて、旧統一教会という正体を隠して、ビデオセンターに誘いこむ活動をさせられていた」と証言しています。

小川さんのケースにより、この元信者よりもさらに後になっても、正体隠しの伝道を続けられていたことが明らかになりました。

ちなみに、筆者が取材した元信者の活動場所は名古屋ではありませんので、全国で広くコンプライアンス宣言後も、正体隠し伝道が行われていた可能性があります。

90年代の筆者の信者時代は、伝道に出る際には「祈る」「歌う」などの気持ちを高揚させるための出発式なるものを行い、今日伝道する人の数を一人一人に口にさせてから出発します。小川さんの時も、同じように円陣を組んで、目標人数を決めてから、街頭勧誘に向かっていたそうです。

こうした話を聞くたびに、2009年のコンプライアンス宣言がいかに外部向けのものであったかがみえてきています。それが、全国霊感商法対策弁護士連絡会に寄せられた7億円もの献金被害の数字に表れているといえます。

信者の家庭・親戚への被害は深刻

母親が信者として活動するなかで、ご自身も家族として多額の献金被害を受けたVtuberデビルさん(30代元2世)からは「信者の家庭・親戚の被害」が提起されました。

土地や建物がいつの間にか担保となり、自分が家に入れたはずの生活費も、親戚たちが貸したお金も、生命保険や遺産も「先祖のため子孫のため」という理由で、信者である母親によって献金される。家族を騙す形で間接的に献金されたお金を取り戻すことが難しい状況を訴えます。

旧統一教会の元2世の柴田さん(仮名・40代女性)も2009年以降に、母から「お金を貸してほしい」と言われて渡しました。その理由は「生活費のため」との説明でしたが、その後問いただすと、献金などのために信者や周りの人に借りていたお金を返すために、子供に嘘をついていたといいます。

今後も、信者を持つ家族の被害が続くことが想定されるだけに、一刻も早い文化庁による解散命令請求が求められるところです。しかし、議員からの「いつ行う予定なのか」の質問に対して、文化庁は「2月7日に(3回目の質問権行使の)回答を受けて、精査をしている段階」と述べるにとどまっています。

合同結婚式までに解散命令の請求が出るのか、出ないのかで大きな違いも

立憲民主党の山井和則議員は「もし5月7日の合同結婚式までに解散命令の請求が出ることがなく、その後に出されたとすれば、解散命令請求しなかったために、信者の家族が反対したにもかかわらず、信者が合同結婚式に参加してしまって、お子さんが生まれる。そして子供たち(宗教2世、3世)から『何で、あの時止めてくれなかったの』と言われてしまったら、どうするのか。2009年に教団の出したコンプライアンス宣言に騙されずに、もし文化庁から解散命令請求が出ていたとすれば、小川さゆりさんが自殺まで考えることも、橋田達夫さんの息子さんが亡くなることもなかったかもしれない。これは推測であるけれども、これだけの(金銭的)被害も出なかったかもしれない」このまま解散命令請求が出ずに、合同結婚式が行われてしまうことへの危惧を話します。

小川さんも「教団によって被害者が生み出され続けている。人を幸せにするのが宗教のはずです。不安なく(宗教を)信じられる日本であってほしい。そのためにも、解散命令の請求をしてほしい」と訴えました。

すでに多額の献金で困窮している信者が合同結婚式に参加すれば、借金を重ねることで、信者を持つ家族や親族に新たな被害をもたらすことにもなりかねません。

文化庁からの旧統一教会への解散命令の請求が、合同結婚式の前に出されるのか。それとも、その後に出されるのか。それによって、被害の結果が大きく違ってくるかもしれないという、重大局面を迎えているといえます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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