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4年間騙され続けて、すべてを失いました。「はっきり言って殺したいほど…」被害女性の赤裸々な告白

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「はっきり言って殺したいほどの気持ちです。4年間も騙され続けて、子供が欲しい夢、お店を持ちたい夢、すべてを奪われました」

40代女性は、マッチングアプリで出会った男と結婚を前提に付き合い同居して、1000万円以上のお金を騙し取られました。その大半が借金です。男から返済されたお金は約50万円だけで、自己破産しかない状況に追い込まれています。

「男のことを思い出すたびに、悔しさ、おぞましさ、様々な気持ちが吹き出してきて、夜も眠れなくなります」苦渋の表情を浮かべながら、話されます。

詐欺容疑での逮捕報道

4月25日、福島県警郡山署により知人男性に融資話などをもちかけて、388万円を詐取した疑いで50歳の男が逮捕されました。その男は、菅野将人容疑者です。

388万円詐取か男逮捕(福島民報社2022/4/26)、詐欺容疑50歳逮捕(読売新聞社2022/4/26)など各社から報道がありました。

冒頭の被害女性から金を無心し続けたのは、「まさにこの男です」と彼女は指摘します。しかし、この事件は別な人物への詐欺容疑での再逮捕です。この男による被害は彼女だけではなかったようです。

今回、逮捕された事件にも少しかかわってきますが、どのようにして女性は、お金を騙し取られたのでしょうか。

男との出会いはマッチングアプリ

「マッチングアプリで出会って付き合い始めた頃、菅野は会社の経営をしており、1億円の資産を持っていて、父親も会社を経営していると話していました。初めて会った日に免許証を見せてもらい、住んでいるマンションも会社も伝えられた場所にあり、それに父親も本当に会社を持っていましたので、信じてしまいました」

騙しを行う者は事実に嘘をまじえてくるものです。ちなみに「1億円の資産」というのは嘘ですが、その他は本当です。

出会ってから半年が経った頃です。

「父親の経営する会社がファクタリング会社にお金を借り、自分が連帯保証人になっていて、4000万円の見せ金が必要になった。なんとか3800万円集まった。あと200万円が必要なので、貸してもらえないか」と話します。

彼女自身、ファクタリングや見せ金の意味はよくわかりませんが、彼との将来の結婚を考えていたので「大変な状況なら」との思いで、200万円を貸してあげました。

これを機に、男は女性との心の距離を詰めながら「父親が金を返せず、自分の銀行口座も止められていて、お金が引き出せない」「愛車のジャガーが勝手に売り飛ばされた」と様々な嘘を弄して、彼女からお金を借り続けていきます。

彼女が次々にお金を渡した理由とは?

「なぜ、そんなにも頻繁にお金を出してしまうのだろうか?」そう思われる方もいるかもしれません。そこには、同情心を煽る嘘をついていきたことがあります。

「とにかく、気をひくのがうまかったです。毎日、電話などで話していた、父親が入院した話など、日々のたわいのない会話にこそ、詐欺の布石がありました」

ある時、男は「父親が入退院を繰り返して、母も倒れた」と話します。心配する彼女に対して「父親が危篤になり、看護していた妹がそれを苦に自殺した」と言います。

さらに「父親が過去に犯した有印私文書偽造の罪で逮捕され、母親もその罪を知っていたとして逮捕されて自殺してしまった」など、立て続けにトラブルに見舞われている話をしてきます。その後、父親も「獄中死」しますが「保険金が入るので、借金を返せるから」ともいわれて、貸したお金の返済を先延ばしされます。

「父親が度々、倒れて入院をしたという話を事前に聞かされていたので、妹さんや母親が死んだ話を私は信じてしまっていたのです。というのも、私の傍で電話をかけて、妹の死や、母親の死を聞いた様子で『そんな泣いていても分からないよ』などとリアルな会話をして誰かを慰めている姿をみせることもありました。今、思えば、あれは一人芝居のエアー電話だったのですね。ほんとうに演じるのが上手かったです」(40代女性)

後でわかったことですが、父親も妹も皆、今も元気に暮らしているそうです。

彼女が別れようとすると、男は……

「毎日の生活のなかで、お金の話ばかりするので、別れようとしたこともありました。すると今度は自分が『脳梗塞で倒れた』『手足がしびれている』と言うのです。私は病院にも付き添いました。あまりに心配してしまい、一緒に住んだほうがいいのではないかと思い、同居するまでになりました。ある時『自分も自殺する』など言いだして、私が止めたこともあります。今思えば、嘘ばかりをついていました。数えあげたらきりがありません」と女性は吐き捨てるように話します。

女性の優しさにつけこんでいたとすれば、決して許せないことだといえます。

同居している間は彼女がすべてのお金を出します。もはや彼女の貯金は尽きていました。「お金がない」と言うと、男は消費者金融でお金を借りてくるように話します。

「それを拒否したこともあります。すると、今度は眼鏡を投げつけてくる。ドアを蹴りあげる。近くのモノに当たり散らして、威圧するような行動をとってきて、精神的な暴力を受けて怖い思いをしました。彼の支配下に置かれたような形で、お金を出すしかありませんでした」

同情心と恐怖心を煽られながら、彼女はお金を出し続けました。

騙されたと気づいたのは、男の失踪!?

最終的にどこで、被害に遭ったことに気づいたのでしょうか?

昨年10月のこと。男は東京に出張に行くと言って出ていきます。しかしその後、パタリと連絡が途絶えます。

彼女は、この失踪に顔面蒼白となりました。

「お金を借りたまま逃げたのか!」

すぐに警察へ相談に行きます。しかし、被害届は受理できないと言われます。

こうした騙しの行為に慣れているこの男は、警察がすぐには動けないようにする手を様々に使っていたと思われます。

彼女から、お金を借りる際には、必ず借用書を書きます。最初に貸した200万円の時も、父親が連帯保証人となった借用書を彼女に渡しています。また50万円ほどだけですが、一度だけ、お金を返しています。長年の経験から、こうした事実を積み上げることで、簡単には詐欺容疑での捜査が及ばない画策をしていたとみてよいでしょう。

突然の失踪でしたが、部屋には、男の荷物が残されていました。

「そこには女性名義のアパートの契約書がありました。勇気を出して、そこに載る番号に電話をして『菅野将人を知っていますか?』と尋ねたら『何をされたんですか?』と逆に聞かれました。それをきっかけに、彼の数々の悪行がわかってきました。どうやら、電話をかけた女性もマッチングアプリで菅野と出会い、お金を騙し取られているようでした」

この女性の紹介で、彼の元仕事先の関係者にも連絡をしてみます。

「すると、社員にも給料を払わずに会社をたたんでおり、いかにお金にルーズだったかを知りました。他にもお金を取られた被害者もいるようで、私自身もお金を騙し取られていることを確信しました」

後日、捜査関係者から連絡が

彼女は検察庁にも被害相談をします。すると翌日、捜査関係者から「彼は病気でも事故でもありません。現在、福島県に来られない状態です。お察しください」との答えが来ました。「何かの容疑で逮捕されたのだろうか?」そう彼女は思ったそうです。

しばらくして、警察から連絡があり「菅野将人を再逮捕することになったので、現場検証に立ち会ってほしい」と言われます。

それが今回、報道された知人男性への詐欺容疑です。

「私に対して、菅野は同居しているマンションは自分で購入したものだと言っていました。しかし調べてみると、それは嘘で、ここは賃貸マンションで家賃はずっと滞納したままで、もう出ていかざるをえない状況でした。それで最近、『新しいアパートを借りよう』と言って、不動産屋に連れて行かれていた理由がわかりました。そんな状況にもかかわらず、知り合いの男性には『2年間、相場の家賃よりも安く住まわせてやるから、お金を先払いで払ってほしい』と持ち掛けて、騙し取った件もあるようです」

彼女は知る限りの情報を警察に伝えて、現場検証に立ち会います。

新事実が発覚する

ここで、彼女はある事実を知ります。それは……。

今回「再逮捕」の報道ですが、菅野容疑者はすでに別件で逮捕されており、郡山署に移送されてきていたという事実でした。

「どうやら都内で特殊詐欺の『受け子』を数件行って、逮捕されていたようです」

なんと、男は詐欺グループの指示で、キャッシュカードや現金を受け取る「受け子」にまでに手を染めていたというのです。

彼女は出会いの時を振り返ります。

「出会った当時は、菅野は周りを気にして、びくびくしている様子で、微笑むことすらありませんでした。しかし私が200万円を渡したときに、初めて彼の口角が上がったのを見ました。あの表情は、私を騙せる人だと思っての微笑みだったのでしょうね」と、怒りに満ちた様子で話します。

何気ない仕草のなかに、騙しの兆候は表れるものです。しかし愛情が深まってしまうと、相手の真の姿がみえなくなってしまうことがよくあります。それゆえに、できるだけ早い段階で相手に対して抱いた疑問は、第三者に相談するなどして確かめることがとても大事になります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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