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登録のしやすさ=詐欺リスク マッチングアプリで詐欺被害があいつぐ背景を解説

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
国民生活センター発表のロマンス投資詐欺への啓発資料より

ロマンス投資詐欺の手口を数多く取材するなかで、昨年度も多くの被害が寄せられており、増加傾向を実感していました。しかし警察が積極的に被害届を受理しないこともあり、具体的な被害傾向は、これまであまりはっきりしませんでした。

しかし今回、国民生活センターから「ロマンス投資詐欺が増加しています!-その出会い、仕組まれていませんか?-」と題して、”出会い系サイトやマッチングアプリ等に関する年度別相談件数”の発表があり、昨年度のロマンス投資詐欺の増加ぶりが明らかになりました。

国民生活センター発表のCCJにおける相談件数
国民生活センター発表のCCJにおける相談件数

2019年度は25件(投資等に関する相談は5件)、2020年度は109件(投資等に関する相談は84件)、2021年度は12月31日までで187件(投資等に関する相談は170件)となっています。実際には、お金が取り戻せないと諦めて、被害を公にしない方も多くいますので、被害件数は相当数に上ると考えています。

今回、海外事業者との消費者トラブルの相談を扱う、国民生活センター越境消費者センター(CCJ)の相談件数であることからもわかるように、この詐欺では海外の投資サイトに誘導してお金を騙しとります。詐欺を行う組織のアジトも、その多くは中国~東南アジアにかけて拠点を持っているということがわかってきています。

年ごとに進化するロマンス投資詐欺の手口

この手口が頻発し始めたのは、一昨年の後半くらいですが、現在に至るまで誘導する投資サイトの形は変わってきています。

2019年~20年前半にかけては、カーレースやモーターボートなどで1着を当てるカジノサイトに誘導されるケースが多くみられました。

しかしこの手口が広く知られたためでしょう。その後は、FX取引や暗号資産で儲けるような投資サイトの形も多く出てきました。

21年の後半には、セキュリティの甘い海外のウォレットに誘導して、多額の暗号資産を入れさせて、偽のマイニングサイトに紐づけをしてお金をこっそり盗み出すような手口も出ています。

この手口では、ウォレット自体に脆弱性があり詐欺に利用されてしまっているのか、それとも偽のマイニングサイトと裏で結託して悪事を行っているのか、その辺りがよくわかりません。しかも、金融庁への登録もされていない海外業者のウォレットなので、しっかりとした指導や注意もできない状況です。いずれにしても、今後もこうした新たな手口が出てきて、騙される人は続くものと思われます。

また国内の暗号資産交換所に口座を開設させて、送金させる手口においても、これまではビットコイン一辺倒だったものから、昨年度はイーサリアムを送らせるものも出てきています。さらにステーブルコイン(テザー)を使った偽投資サイトもあり、ここにも手口の巧妙化がみられます。

マッチングアプリで詐欺被害があいつぐ理由とは?

騙す手口は時が経つにつれて、徐々に変わっていきますが、詐欺の入り口にマッチングアプリを使う手立てだけは、変わっていません。

なぜ、マッチングアプリをきっかけに、詐欺がはびこってしまうのか?どうしたら、防ぐことができるのか?

婚活パーティやビデオ通話を利用したマッチングアプリ「オミカレLive」を運営する、株式会社オミカレの代表取締役西村晃氏と、アプリの事業責任者の上田直樹氏に話をお聞きしました。

最初に西村氏は、マッチングアプリなどをきっかけにして、詐欺などの事件が起きていることへの強い危機感を口にします。

「マッチングアプリ、婚活パーティを含めて、そもそも婚活業界は結婚詐欺などの騙しを行う者たちの危険が常に隣り合わせになっています。それだけに、ユーザーが被害に遭わないように、入会時の本人確認を厳格にするなどの危機意識をもって、安全安心な運営を行う必要があります。そうでなければ、運営自体の存亡にかかわります」

「多くのマッチングアプリでは、登録時に身分証を送らせて本人確認をしているようですが、その審査が甘いために、なりすました人物をはびこらせる一因になっているように思います。なぜ、厳格な審査を徹底しないのでしょうか?」と筆者が尋ねると、同社の上田氏は「アプリの運営会社のなかには、集客に重きを置いて運営しているところもあります。本人確認の敷居を下げることで、利用者を獲得しやすくなるからです。その逆に、審査を厳しくすると、新規登録者が手続きに面倒になって離れていきがちになります」といいます。

そのような事情もあり、本人確認の審査が緩くなっているところもあるようです。確かに、利用者の数が多いところには、意中の人に出会えるかもしれないという思いから、これから登録しようとする人には、魅力的なマッチングアプリに映るかもしれません。

「それに、このマッチングアプリ業界は、まだ10年ほどしか経っていません。新規の領域なので、ビジネスチャンスがとても大きいといえます。一方で、成長の度合いが急過ぎて、厳格な本人確認の審査までに、運営会社の体制が追いついていないとも考えられます」(代表・西村氏)

同社では、アプリで不正行為が行われないようにするために、専門業者を通じた厳格な入会審査登録を行い、一人につき一つのアカウントしか持てないようにして、なりすまし詐欺の排除を徹底させ、ビデオ通話を通じて利用者自身も相手の本人確認をしてからマッチングできるようにしています。

近年は少しずつですが、同社のように登録時の本人確認を厳格化するなど、利用者の安全を重視したマッチングアプリも徐々に増えてきています。しかしいまだメールアドレスだけで簡単に登録ができたり、運営会社の身分証による審査基準が甘いところも多く、詐欺被害が起き続けている状況があります。多くのアプリで、なりすまし詐欺師が入り込まない体制をとって頂きたいところです。

最後に、マッチングアプリを利用する際の注意点をお聞きしました。

「『登録のしやすさ』=『詐欺などの被害に遭うこと』はリンクしていることを忘れないでください。被害に遭わないためには、このことを意識することが大切です」と西村氏は話します。

身分証の写真を提出するなど最初の登録に少々面倒な手続きを踏んでいたとすれば、他の利用者もそうなのです。となれば、詐欺などのなりすましが、侵入しづらい状況となるわけです。

単に登録者数が多いアプリから選ぶのではなく、最初の登録の手間を惜しまず、本人確認の品質や危機管理がしっかりできているマッチングアプリを選んで登録することが、被害に遭わないためには大事になります。

しかしそれでも、詐欺師たちは入り込むことでしょうから、最終的には利用者自身も、詐欺の手口を知り、見抜く目を持つことが必要となります。

そこで、国民生活センターでは、ロマンス投資詐欺では、8つの流れで財産的な被害が発生するとして注意を呼び掛けます。

1.出会い系サイトやマッチングアプリ等でマッチングが成立

2.実際に会う前に、出会い系サイトやマッチングアプリ等以外でのサービスでやり取りしないかと持ち掛けられる

3.マッチングの相手から、投資サイトを案内され、投資を勧められる

4.マッチングの相手から、投資用資金の送金を指示される

5.初めは少額からの投資を勧められ、投資サイト上では利益が出る

6.マッチングの相手から、さらに高額の投資をするよう勧められ、送金する

7.出金しようとすると、さまざまな名目で送金を要求され、結局出金できない

8.マッチングの相手、投資サイト運営事業者と連絡がとれなくなり、返金されない

この8つの特徴は、ロマンス投資詐欺の手口の肝というべきものです。

今後、マッチングアプリなどを通じて出会った相手から受けたメッセージのやりとりが、このパターンに当てはまっていたとしたら、すぐに詐欺を疑い、立ち止まってください。いかに早く、なりすました詐欺師との会話をやめて、第三者に相談するかが被害を受けるか否かの鍵になります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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