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著名人ディープフェイク詐欺、国内初確認か?ブラッドピット、マークハーモン…ハリウッド詐欺日本に上陸!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

ハリウッドで活躍する俳優になりすまして詐欺を行う手口は、これまで海外では確認されていましたが、すでに昨年、日本に上陸していました。

しかも今回は、筆者が取材をしてきて、著名人を使ったディープフェイク詐欺の手口とほぼ確信できる、国内で初めての事例といえるかもしれません。

そして、この詐欺の背後には、アフリカ系の国際ロマンス詐欺を仕掛けるグループの影もちらついています。

今回、40代女性が出会った俳優は、マーク・ハーモンと、ブラッド・ピットです。

マーク・ハーモンは2003年からアメリカで放送されている人気ドラマ「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」で主演を務めています。どのような手口で近づき、どうやってお金を騙し取ろうとするのでしょうか?

「間の悪い時に、詐欺に遭ってしまうものですね」

40代女性は悔しそうに話します。

彼女はマーク・ハーモンになりすました詐欺に遭う前に、実は国際ロマンス詐欺で多額のお金を失っていました。

死をも考えさせる、卑劣なロマンス詐欺

それは昨年初め、Facebookで出会ったアメリカ軍人の男性からのメッセージがきっかけでした。

この頃、彼女は仕事などで自分自身を否定されるような疎外感を覚える出来事があり、心が落ち込んでいた時期でした。しかも、コロナ禍で人と会えないなか、ネットをする時間だけが増えて、心の寂しさを埋めるように、このアメリカ軍人と連絡を取り合うようになります。

男は「アフガニスタンの治安が非常に悪い」と、戦場の悲惨な写真を送ってきます。それ見て、彼女はとても心を痛めます。

そうしたなかで、男は「あなたと結婚したい」とも言ってきます。しかし、彼女は結婚するつもりはありません。あくまでも、親しい男友達の一人という立場で接していましたが、男はグイグイと結婚話を進めてきます。

「アメリカでは、結婚前にはマリッジライセンスが必要なので、それを取りたい。しかし、政情不安のアフガニスタンでは、銀行にアクセスできないので、お金を貸してほしい」

彼女がその金額を尋ねると「30万円をビットコインで送ってほしい」とのことでした。

しかし彼女自身、暗号資産がよくわからず、国内の交換所の開設もできずにいると、今度は「軍隊を抜けて、あなたのいる日本に行くための飛行機代として、80万円を貸してほしい」といってきます。

彼女は凄惨な内戦の様子の写真を見せられていたこともあり、なんとか彼を治安の悪いところから出してあげたいとの思いが募り、彼が指示する日本の銀行口座に数回に分けてお金を振り込みます。1か月ほどで200万円以上の金額になりました。

さらに男は、国連に払うお金がさらに必要になったと、100万円を要求してきます。

すでに彼女は借金をしてまで送金していたために、もう払えるお金はありません。そこで、断り続けます。あまりにしつこい要求がなされ続けるなかで、これが国際ロマンス詐欺であることに気づきます。

「詐欺で騙し取られたお金を取り戻すのが難しいとわかった時、目の前が真っ暗になりました。その時は、もう死ぬか、自己破産しかないとまで思い詰めました」

しかし彼女は何とか、死ぬことを思い留まります。

被害者の心をここまで苦しめて、追い詰める詐欺は本当に許すことができません。

マーク・ハーモンからのアプローチ

この被害から時間が経ち、彼女の気持ちが立ち直りつつあるなかで、次の魔の手が忍び寄ってきました。それがハリウッド詐欺でした。

彼女のInstagramに、マーク・ハーモンからDM(ダイレクトメッセージ)が届きます。自己紹介にはActorとあり、まさに彼の顔写真が載っています。

有名な俳優からの連絡に、彼女は驚きました。

というのも、彼女自身、犯罪捜査ドラマ「NCIS ~ネイビー犯罪捜査班」がとても好きで、公式アカウントをフォローしており、マーク・ハーモンのファンでもあったからです。

彼女は、彼からの「Hello!」にメッセージに「Hi!」と返信をしてつながります。彼女は英語が話せましたので、その後WhatsApp(メッセージアプリ)を使ってのやりとりが始まります。

ファンカードを買ってくれないか?の誘い

ある時、彼は「ファンカードを買ってくれれば、自分に直接会える」とのメッセージを送ってきました。

彼女が「どこで会うのか?」と尋ねると「あなたのいる日本に行く」と答えます。

「コロナ禍なので、入国は難しいのでは?」と聞き返すと「僕にはプライベートジェットがあるから大丈夫」と答えます。

彼が紹介するファンカードは、100万円~150万円ほどでした。

しかし彼女は多額の詐欺に遭っているので「お金がない」と答えます。

それでも彼は「ちょっとずつでもいいから、払ってほしい」といいます。

ついには「3万円でもいい」といってきます。

支払い方法を尋ねると「送金アプリで、振り込んで欲しい」とのことでした。

彼女は、いったんは海外送金の手続きをしますが、ロマンス詐欺が頭をよぎり、相手に送金される前に、振り込みをキャンセルしました。

PayPalでお金を振り込む

それでも、彼はしつようにファンカードの購入を指示してきます。

「100万円のうち、自分が半分の金額を持つから、残りを払ってほしい」

「コロナ禍だから会えない……」と購入を渋る彼女に、男は「大丈夫、あなたにワクチンを送るから。それなら会えるでしょう」とまで言ってきます。

「さて、病院に持っていけば、ワクチンを打てるのだろうか?」とまで、彼女は考えてしまったそうです。

詐欺への警戒心を持ちながらも、「本当に彼に会えるかもしれない」という気持ちも彼女の心によぎります。そのはざまで、この先、どうなるのだろうか。どうしても確かめたい気持ちになってしまい、彼の指示するPayPalで約260ドル(3万円)を振り込みました。

しかしなぜか、お金が戻ってきてしまいます。

それを彼に伝えると、今度は別な女性のメールアドレスを伝えられます。しかも金額を5万円に釣り上げてきました。彼女は再び、PayPalで振り込みます。今度は送金されました。

1回目はなぜ振り込めなかったのでしょうか?

「後でわかったことですが、1回目のPayPalの送金先はナイジェリアでした。実は、その前に教えられた送金アプリの送り先も同じ国でした」(40代女性)

このことから、マーク・ハーモンになりすました詐欺師の拠点はナイジェリア周辺にあると考えられます。

筆者の思うところですが、1回目に振り込めなかったのは、この国での詐欺が多く起きており、メールアドレス自体がブラックリストに載っていたからかもしれません。

マーク・ハーモンになりすましたと思われるアカウントは、今もSNSに数多く存在する。(筆者提供・加工)
マーク・ハーモンになりすましたと思われるアカウントは、今もSNSに数多く存在する。(筆者提供・加工)

個人情報の流出の恐怖

その後も「自分に会うためには、残りの金額を払う必要がある」と、何度もメッセージが送られてきます。彼女は嫌気がさして無視します。すると、驚くべきことが起こりました。

今度は、別な電話番号のマーク・ハーモンを名乗る人物から「お金を払え」との連絡がきたのです。

「結局、3人のマーク・ハーモンから連絡がきました」

彼女は、この事実から彼になりすました人物はグループで詐欺を行っていて、お金を騙しとろうとしていることに気づきます。

この時彼女は、詐欺師たちから次々に連絡を受けて「自分の個人情報が共有されていることに、とても恐怖を感じた」と話します。

ブラッド・ピットからのアプローチも!

しかし、彼女がハリウッド俳優のなりすましに遭ったのは、この人物だけではありませんでした。

「ちょうど(マーク・ハーモンとメッセージのやりとりをしていたのと)同じ頃、ブラッド・ピットからも連絡がきました」

「ブラッド・ピットからですか!」

つい、筆者は声をあげてしまいました。

そのメッセージもInstagramのDMからでした。相手の顔写真はまさに、ブラッド・ピットです。彼女はその後、Telegramでやりとりをします。

ある時、彼は次のようなメッセージを送ってきました。

「個人情報を預けていた会社が破産することになった。自分の個人情報が世界に流出してしまうと大変なことになる。世間に知られるとまずいので、信頼のおけるあなたに、送っておきたい」

そして情報関連の荷物を送る配送会社を紹介されます。その後、配送会社から「送料が30万円かかる」というメールが送られてきます。

彼女は彼に「そんなお金を払えない」といいましたが「半分でいいから払ってほしい」といわれます。

ディープフェイク詐欺か!?

このやり取りを伺うなかで、筆者は「やはり、メッセージのやりとりだけで、電話での会話はなかったのですよね?」と尋ねました。

すると、「いいえ、しました」と彼女は答えます。

「えっ、したのですか?」

「はい。ビデオ通話で、実際に彼が画面上に現れて、話を始めました。私の問いかけにも答えてくれました」

「ブラッド・ピットと話をしたのですか!」

彼女は、ビデオ通話をするなかで、最初は彼を本物だと思ったそうです。しかし、話が進むにつれて、違和感を覚えました。

「その英語が、どうにもアフリカ系の訛りがある気がしたのです」

そこでネットで調べて、ブラッド・ピット本人の音声を聞いてみました。

「まったく違っていましたね。ですが、こちらの問いかけに答えるような本人の動画を見せられれば、信じてしまう人はいるかもしれません」

動画の真相についてはっきりしたことはいえませんが、ブラッド・ピットの顔写真をかぶせて、詐欺師自身の声を入れて会話をしたように装う「ディープフェイク詐欺」の可能性が非常に高いと考えています。

彼女が話したのは30秒ほどですから、フェイクがバレないようにするために、短かったのかもしれません。

今回は、ビデオ通話がアダとなり嘘がバレましたが、「こうした動画を見せられて、俳優本人と会話をしたと信じ込んで、お金を騙し取られている人もいるかもしれません」と彼女は警戒を呼び掛けます。

確かに、この詐欺行為が昨年夏頃ですから、すでに被害者がいてもおかしくはありません。

もはやハリウッド詐欺は、対岸の火事ではなく、すでに日本に上陸しています。被害に遭ったかもしれないと思う方は、すぐに警察に相談してください。

海外からの詐欺のアプローチは巧妙になっています。

恋愛感情を抱かせるだけでなく「大切な友達が大変な目に遭っている」と同情心から騙す手も多くみられます。

そして今、家で海外ドラマ、映画などを見る機会も増えるなか、ファン心理につけこむようなハリウッド詐欺も起きています。

今回、被害に遭った女性のように、心が落ち込んだ時に、そっと、その寂しさ、辛さを埋めるようにして、詐欺師は近づきます。その魔の手には充分に気をつけて下さい。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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