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「5億円もらえる」当選SMSの次は「特殊詐欺対策班」から!手口全公開…どんな詐欺が待っている?(下)

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者に届いたSMSからアクセスしたサイト画面

前回「ご当選確認お願い致します」のSMS(ショートメッセージ)をきっかけにした「5億円を振り込む」という詐欺の手口を明らかにしました。

「5億円もらえる」の連絡がきた!「当選」のSMSに電話をかけてみると…どんな詐欺が待っている?(上)

しかし、なぜこの手口で50代以降の中高年の人たちが、数百万、1千万円を超えるようなお金を繰り返し払ってしまっているのか?という疑問にまでは、答えがいたりませんでした。

そこで、さらに調査を進めることにします。

業者をとっちめようにも、それができないわけ 電話番号が…

筆者が一番、困ったのは、「当選」のSMSに載る番号に電話をかけてからというもの、次々に業者からのメッセージが届くようになったことです。

何とか、止められないものでしょうか。

スマホを通じて、迷惑メールの申告をすればいいのではないか?そう思われる方もいるかもしれませんが、事態はそう簡単ではないのです。

そこで、近くの携帯ショップに行き、筆者に送られてきたSMSを店員に見せながら「この迷惑なSMSを来ないようにする方法はありませんか?」と尋ねると、スタッフは首をひねります。

そして驚くような答えを返してきました。

こうしたケースは初めてなので、わかりません。これでは迷惑メールの申告をしても止めるのは難しいかもしれませんね」

「えっ、どうすれば……」と聞き返しますが「なぜ、宛先がこうなっているのか。逆に、こちらが教えてほしいくらいです」と話します。

携帯ショップの店員をも悩ませるほどのSMSだったのです。

というのも、業者が送ってくるSMSには、電話番号がないのです。

私の電話番号に送ってきているので、本来、相手の電話番号があってしかるべきなのですが、それがありません。

宛先はどれも「V**B**」などの名称があるだけ。そのため、この宛先に返信ができないどころか、差出人である業者に電話をかけて、筆者がとっちめることもできない状況なのです。

業者は受信者に、自分たちの身元を知られないようにするために、電話番号を隠して詐欺につながるSMSを送ってきているのです。

筆者のもとに次々に届いた、電話番号のないSMS(一部、筆者加工)
筆者のもとに次々に届いた、電話番号のないSMS(一部、筆者加工)

特殊詐欺対策班のサイトに誘導される

数多く届く迷惑メールのなかに「不正登録の可能性がございます」というSMSがありました。

これだけの迷惑なメッセージが次々に来ているのですから、どこかの詐欺サイトに勝手に登録されていることは間違いありません。そこで、このメッセージに載るURLをタップしてみました。

すると、真っ赤な画面背景に【***********】と11桁の私の携帯番号が書かれた「悪質なサイトに登録されてしまっております」の表示が出てきました。

しかも驚くことに「特殊詐欺対策班」を名乗っています。

筆者がSMSからアクセスしたサイト画面(一部筆者加工)
筆者がSMSからアクセスしたサイト画面(一部筆者加工)

ご存じのように、今、日本国内では、オレオレ詐欺、架空請求詐欺など組織的な詐欺グループによる被害が多発しており、これらを総称して「特殊詐欺」と呼んでいます。各警察では、徹底した被害防止のための特殊詐欺対策を行っています。

ここでは、違法サイトを撲滅している警察関係者を装ってきています。

さらにここには「これらの事案は、すべて今すぐ解決することが可能です」との安心させる言葉も続きます。

「不正登録がされている」と不安を煽っておきながら、次に「あなたを助けます」という言葉も併記して、相手の心を揺さぶる流れになっています。

もしかすると、迷惑なSMSに困っている人のなかには、ここが本当の警察関係のサイトと思い、連絡をとってしまう方もいるかもしれません。

そうした人たちを誘うように、青い文字で「今すぐ解決」のボタンがあります。

ここを押せば「①すぐに迷惑メールが無くなります。②正式に損害賠償金を受け取れる。③損害賠償など、不当請求の無効化。 ④電話番号、アドレスのクリーン化 の4点を今すぐ解決することができる」ということです。

筆者がアクセスした「今すぐ解決」の画面
筆者がアクセスした「今すぐ解決」の画面

「今すぐ解決」のボタンを押してみます。

すると、すぐに日本生活安全センターの特殊詐欺対策班の渡辺なる人物から「ご連絡ありがとうございます」のSMSが届きましたので、URLをタップしました。

次に出てきたのは「損害賠償金のご用意ができております」です。その金額は「720万円」です。

筆者がアクセスした損害賠償画面
筆者がアクセスした損害賠償画面

またもや「お金をくれる」という話になりました。

前回の手口の流れからすれば、ここで手数料が必要となるはずです。しかしここには、そうした記述はなく、お金を振り込むための口座の登録が必要と記載されています。

筆者がアクセスしたサイト画面
筆者がアクセスしたサイト画面

とりあえず、何も書かずに「振込先口座情報」のボタンをそのまま押してみます。

すると、「送信完了」の画面になりました。

無事に送れたようです。

筆者送信後の画面(一部、筆者修正)
筆者送信後の画面(一部、筆者修正)

画面の上部には大きなハートマークとともに、「D*-a****」という文字が出ています。

どうやら、ここが特殊詐欺対策班を装ったサクラサイトの本体のようなので、ここの運営業者の所在地を見てみます。すると前回「生活福祉金5億円がもらえる」といってきたサイトとほぼ同じベトナムの住所になっていました。

迷惑SMSを送ってきた二つのサイトはつながっていると見て間違いないでしょう。

まもなくして、SMSが届きます。URLをタップすると、720万円の受け取り方が出てきました。

「送金規定上、0.14%の送金規定手数料のみどうしてもかかってしまいますので、損害賠償金720万円の送金規定手数料、15000円のみご負担ください

手数料の支払い方は、クレジットカードか、コンビニで電子マネーを購入するようになっています。

ここにきてようやく、お金を受け取る前に、お金を払わせようとする、サクラサイト詐欺の手口であることがわかりました。

個人情報の記載はさらなる危険につながっていく

前回の「5億円もらえる」のSMSよりも巧妙になっています。それは、本人の銀行口座などの個人情報を伝えさせてから、手数料の請求をしているところです。

筆者は、相手が詐欺業者と思っていますので、銀行口座番号などは書かずに送りましたが、正直に書いて送った人は、その情報を悪用されて脅されるだろうことは目に見えています。

実際に、筆者がその後「15000円の支払い」を無視していると、特殊詐欺対策班の渡辺からは「口座情報をいただいた時点で契約が成立していることを忘れないでください」というSMSが届けられています。

これまで詐欺の取材をしてきてわかりますが、最初はジャブ程度の軽い脅し文句で支払いを迫ります。しかしそのうちに、高額なお金を支払わせるために「あなたは逮捕される」などの強い脅し文句に切り替えてきます。この詐欺のストーリーの中に巻き込まれてしまうと、底なし沼にはまってしまうことになります。

今回のやり取りを通じて、なぜ、50代以降の中高年の人たちが、高額なお金を払ってしまうのかの理由が、少しづつ見えてきました。

「期待」と「不安」の両面から私たちを騙そうとする

ここで使われているのは「期待」と「不安」という騙しの手法です。

最初は「当選」「5億円がもらえる」というSMSを送り、「期待」「希望」を抱かせながら、数千円の少額を払わせます。その後も何かと理由をつけて、手数料を要求してきます。しかし幾ら払ったところで、5億円は受け取れないようになっています。

そこへ「あなたの電話番号が洩れて、不正登録されている」というSMSを忍び込ませます。そして受信者が連絡を取ると、今度は「特殊詐欺対策班」を装った人物が出てきて「あなたは詐欺に騙されて、被害に遭っている」と「不安」を煽ります。そこへ「しかし、今の状況は解決できる」と救いの手を差し伸べながら、手数料を再び騙し取ろうとします。

これが延々と繰り返されて、底なし沼の詐欺に引きずられてしまいます。

サイトの作りも実に巧妙で、「不正登録」などの不安を煽る時には「赤」の背景を使い、安心させる時には「青」の文字などで誘導します。

騙されないために

被害に遭わないためには、「何か、おかしい」と思った時点で、すぐに周りの誰かに相談することです。その疑問をいち早く抱くためにも、この当選を謳うSMS詐欺の手口をぜひとも知っておいて下さい。

もしかすると、今も身近な誰かが、この底なしのサクラサイト詐欺にはまり、こっそりとお金を払いに、コンビニに行こうとしているかもしれません。

もし中高年の人たちから、これまで口にしたことがないような「電子マネー」「プリペイドカード」の言葉が出てきたら「何に使うの?」と、ぜひ聞いてみてください。もし、その質問に口をつぐむようでしたら、詐欺のサインと思ってください。

【追記:サクラサイトの見抜き方】

最後に、SMSから誘導された先からでは、見えないサクラサイトの裏の世界をご紹介します。

おそらく、SMSで誘導された方は、URLをタップさせられて、冷静さを失った状況下で表の文言だけを見させられて、お金を払わされてしまいます。

しかしサイト内の様々な部分を見ることで、警察関係のサイトではないことがよくわかります。たとえば、サイト内の「受信メール」をタップすると、下記の画像が出てきます。

筆者がタップした先の受信メール(筆者加工)
筆者がタップした先の受信メール(筆者加工)

さらに「プロフィールを見る」とタップすると、次のような画面が出てきます。

筆者がタップしたプロフィール画面(筆者加工)
筆者がタップしたプロフィール画面(筆者加工)

警察関係のサイトに「好きなタイプ」とか「年収」「秘密」などの記載があるはずがありません。これは、典型的な出会い系サイトのフォーマットを使っています。

誘導された先だけではなく、慌てずに、そのサイトの中身をみることで、詐欺行為に気づくことができます。

もし周りで騙されているような方がいれば、サイト内の様々な部分をタップして、「お金を払う必要がない」ことを認識させてあげることも一つの手になります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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