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出会ったその日に誘われました。不正受給をした20代男性の後悔の告白。見えてくる家族の苦しみの連鎖。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

20代男性は、遊戯施設で知り合った同じ年くらいの男性(仮名カズオ)から、次のような話を持ち掛けられました。

「新型コロナが始まって、持続化給付金の100万円が手に入るけど、受け取ってみない?やり方は教えるから」

彼は当時、消費者金融などに多額の借金がありました。持続化給付金の意味はわかりませんでしたが、お金がもらえるとの言葉に釣られて、カズオの車に乗り込みました。

カズオは持続化給付金申請のサイトを開き、彼にID、パスワードを設定して、免許証の写真などの入力をするように指示します。そして、一連の操作を行い、彼はIDとパスワードを男に伝えます。

その足で、カズオはコンビニに向かい、何かをプリントアウトして、彼に渡しました。

「これは確定申告に提出する書類で、税理士が作ってくれたものなんだ。これをもって、税務署に行き、青いハンコをもらってきて」と言います。

彼自身、確定申告の意味もよくわかっていませんでしたが、頷きます。ここまで2時間ほどだったといいます。

2日後、彼は確定申告書を持って税務署に行きます。

職業欄には、興行関連との嘘の職業が書かれており、架空の収入額があったことから、「悪いことかもしれない」と思いますが、お金がほしかった彼は罪悪感を封印して、役所に書類を提出しました。

そして、青色のハンコのついた確定申告書の写しを受け取った彼は、カズオにラインで電話をすると、「すぐに書類を送ってくれ」とのことで、写真に撮って送りました。

一週間後、彼の名義の銀行口座に100万円が振り込まれます。

お金が振り込まれたことを伝えると、カズオがやってきて100万円を受け取り「手数料は75万円になる」と言って、残りの25万円を彼に手渡します。

それ以来、彼とは音信不通になります。カズオと会ったのはたった2回でした。

その日のうちに、持続化給付金の知識のない者に、申請ページへ必要事項を入力させる。そしてコンビニのプリントアウトサービスを使い、虚偽の確定申告書を取り出して、名義貸しする本人に手渡して、不正受給を行わせる。手慣れた感じで一連のことが行われおり、組織的な犯罪グループによるマニュアル化が疑われます。

こうした飛び込み営業的な不正受給の勧誘手法もあるのです。

ニュースを聞いて犯罪行為を知る

その後、持続化給付金詐欺による逮捕者のニュースが続々、ネットで報道されて、否が応でも彼の目にも入るようになり、犯罪をしたことへの強い罪意識が芽生えるようになります。そして、母親に相談して不正受給が発覚しました。

息子の犯した不正受給を知らされた時、母親は「一瞬何を言っているのかわかりませんでした。頭の中で話を整理して行くうちに、国から100万円のお金をだまし取った、重大な犯罪をしたんだ」と、言葉にならないほどに落胆したそうです。

その後、彼が持続化給付金のコールセンターに電話をしたところ「100万円は一括で戻してもらう」と言われました。

彼には借金があります。すでに、見ず知らずの男に75万円を渡してしまったために取り戻せず、さらなる借金を背負う結果になってしまいました。

「何もわからずに行ってしまったことでしたが、後からニュースで犯罪なんだとわかり、背筋が凍る思いなりました」と、よく考えず安易に話に乗ってしまったことを、彼は非常に後悔しています。

彼はカズオに渡された確定申告に記載された収入額は覚えていませんでした。

ですが、「虚偽とはいえ、2019年度に収入があったと税務署に提出しているので、間違いなく税金などの支払いがくるはずです」と私が話すと、母親は思い出したように「だから家で支払う保険料が一気に上ったのですか」と驚いたように話します。

給付金が振り込まれたハガキが家に届いて、子供が詐欺に加担にしていることに気づくこともありますが、不正受給していた予兆は、家庭の保険料の増額にも表れることもあるのです。

母親は不正受給の事実を知らされた時から「逮捕されたら、名前が公表されてるのではないか」「家に警察がやってこないだろうか」という心痛を抱えながら過ごしてきました。

息子一人が行ったはずの行動でも、家族にも大きな苦しみを背負わせてしまうのです。名義貸しをしてしまった代償は極めて大きいのです。

母親は「しっかり働いて、お金の重みというものを感じながら、不正受給したお金は自分自身できちんと返還して欲しい」と気丈に話します。

いまだ不正の事実を隠し続けている人は多いかもしれません。しかし指南役や不正を行った税理士たちは次々に逮捕されており、彼らが捕まれば、芋づる式に悪事は暴かれるものです。

良心の呵責を覚えながらも立ち止まっている人は、家族の苦しみの連鎖を断ち切るためにも、自首という形で贖罪の一歩を踏み出してもらいたいと思うのです。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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