ネット上で出会った外国人の異性に愛を告白されて、恋愛感情を抱き、お金を騙し取られる国際ロマンス詐欺の被害が後をたちません。8月にも、この詐欺を行っていた外国人グループの男らが逮捕されましたが、その被害は1億円以上といわれています。

 今年の夏に、オーストラリア人を名乗る男にそそのかされて500万円ほどを振り込んでしまったアラフィフの女性に話を聞きました。

「国際ロマンス詐欺はよく報道されていますが、知りませんでしたか?」

「知っていました。でも、騙されてしまいました」彼女は涙ぐみながら話します。 

 

 なぜ、手口を知っていたのに、被害に遭ってしまったのでしょうか。そこには、誰しもが陥りがちな思い込みと、巧妙な騙しの罠が存在しています。

 マッチングサイトでKというオーストラリア人男性と知り合いました。彼女は、これまでこうしたサイトをほとんど利用したことはありませんでした。

「新型コロナで人に会う機会が減り、誰かと話したい気持ちが強くなりました。デザイナーをしているのですが、仕事がない状況が続き、不安な気持ちが強くなったこともあるかと思います」

 外出する機会が減り、不安に駆られると、誰かに頼りたいという思いが出てくるもの。

 

 その心の隙間にやってきたのが、Kでした。

 彼女は7月初旬からメッセージのやりとりを英語で頻繁にするようになります。最初は互いの近況をやりとりする程度でしたが、一週間ほどすると愛のメッセージが届き始めます。

「あなたは私の人生で必要な女性であり、出会って神に本当に感謝しています。(中略)どんなに離れていても、私たちが一緒にいることを、誰も止めることはできません」

 彼女も彼に好意を抱きつつあったので、前向きな思いをスタンプで返します。

 翌日以降も、愛の告白は続きます。

「真実の愛を誓います。私は毎晩、あなたのそばにいます。あなたを抱きしめて……私たちは心の中でいつも一つです。離れていても、あなたは毎日、私の愛を感じるでしょう」

 そして彼の息子、娘と一緒に撮ったという家族写真が送られてきて「8月上旬に、来日する予定」と言ってきました。

 彼女も「楽しみにしています」と返事をします。

 ついには「私はあなたと一緒に年を取り、一緒に愛し、一緒に学び、一緒に笑うことができることを望みます」というプロポーズのような文面が送られてきます。しかし彼女は特に結婚願望はありませんでしたので、それに対して、はっきりとした返事はしなかったそうです。しかしこれが逆にまずかったかもしれません。

 彼を傷つけまいとして「ノー」をはっきりと突きつけないことで、彼女が優しい女性ということを相手に伝えたことになるからです。

 その思いにつけこむように、Kは本性をむき出してきました。

「11月にアジアの会社と契約する予定です。その時、契約金25万ドル(約2500万円)をアジアの会社から受け取るのですが、オーストラリアに送金してしまうと60%の税金がかかります」そこで提案をします。

「日本に送金するので、代わりにあなたが受け取ってほしい」そうすれば、税金がかからずに済むというのです。

 しかし彼女は急に、お金の話が出てきたことで

「今、流行っている国際ロマンス詐欺ではないか?」と怪しみ、その言葉をぶつけてみました。

 するとKは「詐欺とはどういう意味ですか!」「私が詐欺に巻き込まれていると言うつもりですか?それらの言葉に腹を立てています」と怒りのメールを送ってきます。

 そのうえで「私があなたを信頼するのと同じように、私を信頼しなければ、私たちの間に未来はありません。とても悲しいです」と心が傷つき、2人の関係が終わるかもしれないことを示唆してきました。相手をおもんばかる気持ちが強い彼女ゆえに「疑い」をぶつけたことで彼を傷つけてしまったと思い、後悔の念から「ごめんなさい」と返信してしまいます。

 実は、これは詐欺でよく使われる手口なのです。疑問をぶつけられて答えづらい状況になると、詐欺師は気持ちの面に話をずらして、ごまかそうとしてきます。

 以前に、私がある悪徳業者の実態を暴くために「君の話す会社の住所は嘘だよね!」と電話で強い口調で責め立てると、相手の男はこの質問には答えず「なんでそんなにストレスたまっているんですか?」と話をずらそうとします。

「なんか嫌なことでもあったんですか!」「最近、何があったんですか?」

 しつこく聞いてくるので、すかさず「あなたに嘘をつかれたの!」と切り返して話を戻しました。そして「本当の住所を言おうよ」と、騙しの実態を追及し続けたことがあります。

 しかし多くの人は、気持ちの面に話をずらされると、相手の話のペースにはまってしまいがちで、同じ質問を再度しづらくなったり、疑問自体がなんだったか、忘れさせられてしまうことがよくあります。

 それに、彼女が国際ロマンス詐欺ではないと考えた理由に思い込みもありました。彼女が知る詐欺のストーリーは、外国人の軍人がメールしてきて、戦闘状態に巻き込まれて危険なので「安全な日本に行って一緒に暮らしたい」といってお金を要求してくるものでした。それに対して「彼はエンジニアだし、軍人ではない。戦争の言葉も出てこない。だから、これはロマンス詐欺ではない」と、結論づけたのです。

 詐欺のワードだけを覚えていて、身を守ろうとする人もいますが、これは極めて危険です。詐欺は話の出入口にいろんな変化をつけてくるので、ワードだけで詐欺か否かを判断するのは難しいのです。

 お金の話の山を越えてしまったら、あとは、お金を払う下り坂へと一気に進みます。

 彼女は、アメリカの銀行員を名乗る男から

「契約金25万ドルのうち5万ドル(500万円)をあなたの口座に送金するにあたり、2250ドルの手数料が必要になります」と言われます。そしてある銀行のサイトに誘導されて、送金の手続きをさせられたうえで、近くのATMから約24万円を指定口座に振り込みました。この銀行サイトは偽物でしょうが、ワンステップを踏ませることで、本当の送金手続きのように思わせてきます。

 後日、残りの契約金20万ドルを振り込むのに、手数料が必要といわれて、2日に渡り100万円を振り込みます。その後も様々な手数料を要求されてお金を払い続けましたが、ついに貯金がなくなりました。そこで母親には詳しいことは告げずに100万円を借り、消費者金融からも多額の借金をして、約2週間で振り込んだ額は500万円ほどになってしまいました。

「請求されているお金を払ってあげないと、彼に入るはずの25万ドルがなくなってしまう!彼が大変になるという、焦る思いだけで頭がいっぱいでした」ここには恋愛感情だけでなく、困っている人を助けてあげたいという、母性本能も働いていたのかもしれません。

 さらにお金を借りようと、女性の友人に電話をしたところ、使途を聞かれて話すと、友人は「国際ロマンス詐欺だ」と確信しました。しかし、いくら彼女を説得しても詐欺を信じません。そこで数日間、泊まり込みで説得し、ようやく彼女自身も詐欺に気づくに至りました。

 彼女は「嘘を見抜けなかった自分自身が情けない!」という気持ちとともに、借金をして返すあてもなくなり「周りに迷惑をかけてしまったことが悲しい」と悔しさをにじませます。

 しかしながら、詐欺をしたKへの怒りがほとんど出てきません。結婚詐欺でもそうですが、恋愛感情を抱かされると、過去を振り返り「あの時のあの人の優しい言葉に救われた」と、相手の“良いところ探し”をしてしまいがちで、すぐには強い憎しみや怒りは出てこないのです。

 彼女にとっての幸いは、心から心配してくれる友人や、「実家に戻ってきなさい」と温かく迎え入れようとしてくれる母親や家族たちの存在です。身近な人たちのサポートと声掛けがあって、はじめて被害者は前を向いて歩いていくことができるのです。