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「推しの株」韓国BTS株が4日で半額に 100万円が50万円になっても「投資と愛」は両立するか

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
画像はBTS所属のビッグヒット・エンターテイメント社HP

「推しの株」上場すぐに大きく下落し5日で半値に

10月15日、韓国株式市場で今年最大規模の新規上場がありました。アメリカのミュージックチャートなどを席巻しているBTSを擁するビッグヒット・エンターテイメント(以下BHE社) が株式を公開したのです。いわゆる「BTS株」です。

BTSは国内でも熱狂的なファンが多いことでも知られており、初日の最高値は一気に上昇、公募価格であった13.5万ウォンから260%にアップ、最高値は35.1万ウォンにも達しました。幸先のいい出足と、マーケットや個人にも大きな期待を抱かせました。

ところが、その後は下落が続き、なんと5日でほぼ半値になってしまいます。21日では17.9万ウォンを記録したほどです。言ってしまえば最高値の100万円で買った株が一週間もせずに50万円の株価になったようなものです。

ようやくその翌日に下げ止まりを見せたものの、ほとんど横ばいの株価となっています。

(本記事掲載直前、23日の終値は17.25万ウォンですからさらに値下がりしてしまったことになります)

上場初日に勇んで購入した個人(特にBTSファン層)は、大きな含み損を抱えてしまうことになりました。

ニュースリンク

  上場初日の急騰 現代ビジネス 「BTS株」に人生を賭けた韓国の若者たちは一夜にして奈落へ堕ちた 

  下落 10/21 テレ朝ニュース BTS所属事務所の株価 上場1週間でピーク時の半分に 

  下げ止まり 10/22 ソウル聯合ニュース BTS事務所の株価 上場から6営業日ぶりに反発 

今後の株価推移は分かりませんが、このニュース、「推しの株」は買ってもいいのか、「投資と愛」は両立できるのか、といったテーマを含んでおり、日本の個人投資家にも示唆があるように思います。

今回のケースを検証しながら、個人が企業に入れ込んでしまうリスクや投資の注意点をまとめてみます。

新規上場株の値動きは荒く、素人にはお勧めできない

今回、もっとも被害が大きいのは「新規上場株を抽選で手に入れた人」ではなく「上場初日にどうしても欲しくて最高値で買い注文を入れてしまった人」です。

IPO、新規上場株については人気が殺到するため抽選になることがほとんどです。また公募価格より公開初日の初値のほうが大きく上昇するのが一般的です。今回も、公募価格で取得でき、そのまままだ売っていない人であれば、一応プラスを維持してはいます。

一方で、新規上場企業はまだまだ実績が伴っておらず、これからの成長に期待した株価がつくので、きわめて不安定な値動きになります。ジェットコースターのごとく急上昇し、その後急下落をしたまま、元の値段に戻るためには何年もかかることもよくあることです。

買いたい人が殺到するのはプロの機関投資家には好都合で、しばしばカモにされます。今回も大量の売り注文が出されていたという報道もあります。だとすれば、ファン心理につけこまれてしまったということです。

正直いって、上場すぐの株は個人投資家、特に投資未経験の素人が手を出すにはあまりオススメできるものではないのです。むしろ「愛は盲目」ということです。

「推し」だからと株を買って支えることはアリか

しかし、「株価が下がったとしても、愛があるから売らない!」と決めている人がいるかもしれません。「推しの株」だから損してもいいのだ、と考えるわけです。これはどうでしょうか。

かつて、日本国内でも個人の魅力で資金を集め、事業は行わずお金を持ち逃げされる事件がありました(テキシアジャパン事件など)。これに比べると、きちんと株式市場に上場した企業の株主としての権利は明確ですから、資産が紙くずになって全額戻らないということはありません。ビジネスがしっかり成長すれば、将来株価が戻ってくる可能性もあります。

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また、株主には何らかの「株主優待」が提供される可能性もあります。韓国の株式市場については私は詳しくありませんが、日本ではアミューズやエイベックスが株主総会で所属ミュージシャンのライブパフォーマンスを行うことが知られています(2020年の株主総会は両社ともライブを行わず。2021年については未定)。

グッズを株主に配布することや、コンサートの抽選に参加する権利を付与することなどもあります。こうした「価値」があれば、株価が下がっても、投資家の心の穴を埋めてくれると考えることもできなくはありません。

確かに「グッズやCDの爆買い」のようなことをしてもお金は完全に消えるだけですが、株主として権利を持ち続けつつ何らかの経済的メリットを受け取り、いつかは株価が回復するのを待つことができるのなら、「推しの株」投資はありかもしれません。

しかし、「投資」は資産形成の手段であって「貢ぎ」となってはおかしいのではないか、という自問自答はすべきだと思います。

「推しへの投資」は「冷めた愛」が必要だ

前述のリンク先記事ではファンが値上がり期待で株を買ったが値下がりしていてパニックになっている例が紹介されています。

借金をして同社株を購入した悲劇(何せ半値になれば返済どころではない)や、結婚資金のような本来投入すべきでない資金で同社株を購入した例などもあるようです。

これについては、「借金で投資はしない(特に初心者)」という原則をもう一度考え直す事例といえるでしょう。

そして、「愛」で投資をすることがいかに危ういかを再確認させてくれます。むしろ投資においてはそれが「推し」であろうと「冷めた愛」で投資をしなければいけないのです。

日本の民間企業でも「株主優待が好きだから」とか「この企業のファンだから」と株を持ち続けることがあります。値上がりしている状態ならいいのですが、大損している状態の言い訳に「愛」を用いることには要注意です。

極端な話、「私がたとえ株を買わなくても会社がつぶれるわけではない」というくらいのドライさが必要です。音源の購入やライブ、グッズの購入でもう十分、あなたは会社を支えているのですから。

……今のところ幸いにして、ジャニーズやAKBの事務所は上場を考えてはいないようです(おそらく上場の必要性がないのでしょう)。

しかし、そんなことがあったとき、あなたは「推し・愛」と「投資」を区別できるでしょうか。ちょっと考えてみてはいかがでしょうか。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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