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シン行政機関&シン官僚人材について考える・・・時代の新しい流れのなかで求められるもの

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
日本の中央省庁の省庁である財務省。(写真:イメージマート)

 筆者は昨年、記事「今こそ、「シン官僚論」が必要だ」を書いた。本記事では、そのフォローアップをしたい。

 近年、「若手官僚の退職」「忖度問題」「長時間労働のブラック職場」など公務員や行政機関・役所などへの悪い評判が多い。

 また近年の行政機関(役所)をみていると、日本の政策形成においては現在も重要な役割や強い影響力を有してはいるが、形成されてきている政策などをみると、現状の社会の問題・課題への対応(少なくとも短期的な意味では)をしているものの、今後の社会の方向性や可能性を見据えたクリエイティブな政策が、役所や官僚からあまり出てこないと感じる(注1)。

 だが、近代社会において、その対象としカバーする地域が拡大し、そこに住む住民数が肥大化する中(別のいい方をすると、都市化の進行といえるかもしれない)、行政機関(役所)や公務員(官僚)を抜きにして社会や国の運営はできないだろう。今後テクノロジーの進展で社会のガバナンス(統治・運営)の仕方は変わっていくだろうが(注2)、それでも少なくとも短中期的に行政機関(役所)や公務員(官僚)の存在はなくならないだろうし、重要な役割を果たし続けていくだろう。

 そこで、行政機関や公務員(官僚)を、現在の問題・課題等を乗り越えて日本の社会を切り開いていく上で、どのようなものにすべきかについて考えていきたい。本記事では焦点を絞るために、主に中央省庁に焦点を絞って考えていく。

 まず前提であるが、行政機関は、今後も重要な組織・仕組みではあるが、これまでのように日本の政策形成において依存する唯一(ある意味において)の機関・仕組みであるという環境や発想を転換するべきである。世界や社会が多様化、常時大きな変化が起きうる現在においては、一つの組織・仕組みにのみ依存することはリスクが大きく、問題等が生じたときにブレークスルーを見つけにくい。その意味では、行政組織のバージョンアップは必要ではあるが、それだけですべてが解決できると考えるべきではない。

日本の行政機関はどの方向に向かっているのか。
日本の行政機関はどの方向に向かっているのか。写真:イメージマート

 現在の日本の行政機関は、政策形成は元々インナーなサークル内で行われること、そして日本社会の終身雇用および年功序列とも結びつき(特に第二次世界大戦後)、各省庁の自立性が強く縦割り的な活動が中心の組織構成などの独特の特徴の中から形成されてきた。しかも、行政組織は、第二次世界大戦の敗戦を挟んではいるが、同大戦の戦前と戦後でも、ある意味大きく変わることなく、キャッチアップ型の思考と行動をとってきた。それは、人材を含む限られた資源の制約の中で、日本を近代国家さらに先進国家に押し上げていく上においては非常に効率が良く、有効に機能したのである。その結果が、1980年代までの日本の第二次世界大変後の高度経済成長および経済的成功を生んだのである。そして、その成功こそが、日本社会の慢心と誤解を生み、学びや革新を忘れ、日本の今日の低落傾向と現状を生んでいるともいわれる。その点については、別の機会に改めて論じよう。

 さて、議論を行政機関や官僚に戻そう。

 上記のような状況において、行政・官僚は、第二次世界大戦前は当時の主権者である天皇に奉仕する存在であったことと、同大戦終戦後の日本の戦後復興の立役者としての役割などが結びついて、日本社会では、「お上」として、長らく社会的な高い評価と特別の位置づけをもった。

 他方、1980年代ぐらいからは、日本でも、社会の発展や世界的な変化の中で、縦割りかつ前例中心の思考や活動・行動では、行政が十分な役割を果たすのが難しい状況が生まれた。その状況を受けて、行政機関や官僚制の変更や改善の試みもなされたが、必ずしも行政や官僚の本質的な変更や変容はなされず、現在に至っている。

 これまで述べてきたような状況を受けて、日本および国際社会の今後の方向性を踏まえて、行政機関および官僚がこれからはどのようになるべきであるかについて、提案をしていきたい。

 まず全体としていえることは、行政機関、特に本記事では中央省庁は、社会を反映する意味でも、これまでのようなインターサークル的な存在から、よりオープンに人や情報(もちろん機密であるべき情報は機密が厳守されるべきであるが)が出入りできるようにし、ある意味で「民営化」され、国際社会でも政策的形成において伍していくことのできる「専門性」の高い組織にしていくべきだろう。

 その実現のために、次のようないくつかの提言をしたい。

1.メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用にする(注3)。

 日本の中央省庁は、近年は中途採用や任期付き採用もあるようであるが、基本的に、大学新卒で国家公務員採用試験に合格をしたものを省庁ごとに採用し、自省庁の職員として育ていく、「メンバーシップ型」の雇用を採用している。しかし、現在のように社会の変化が大きい時には、自省庁内で、フルセット的に人材を採用・育成する仕組みは、時代のニーズに対応できなくなってきている。もちろん適材であれば、新卒から退職までずっと行政組織で官僚である人材がいてもいい。しかしそれよりも、行政機関に必要な人材のジョブ・ディスクリプション(注4)を明確にさせて、外部から人材が選ばれれば、省庁内の限られた人的リソースのみからよりも、適材適所な人物を得られるだろう。

2.国家公務員の総合職は基本大学院卒業を必須条件とする。

 国家総合職とは、「政策の企画立案等の高度の知識、技術または経験等を必要とする業務に従事する職員」と定義されていて、政策の企画立案を行う立場である。つまり、「いわゆる中央省庁(本府省)の幹部候補(官僚)として、省内での異動を繰り返しながら政策立案、法案作成、予算編成などに携わり、国家のデザインともいえるダイナミックな仕事を行」(注5)う存在である。

 社会が大きく変貌し、政策における専門性の重要性が高まり、十分な専門的知識の理解をもち、政策的な業務的を行うためには、四年制大学卒業の知識・知見と経験だけでは不十分となってきている。その意味では、ある程度独自に問題・課題設定およびその調査・研究を行い、それを文章にまとめられる大学院レベルの知識・見識とスキル・経験が必要だ。また国際的にみても、このレベルの業務を行う場合、大学院卒レベルの資格が必要とされているということができる。

どんな官僚人材が求められているのか。
どんな官僚人材が求められているのか。写真:イメージマート

3.中途採用を増やす。

 これは、上述の「1.メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用にする。」にも関係するが、これにより、中央省庁の出入りを容易化し、人材「源」の拡大を図り、より的確な人材の採用を図ると共に、所属中央省庁への忠誠心よりも、日本社会への忠誠心やシンパシーの高い人材の採用および育成を図るようにすべきであるということである。もちろん、以前に省庁にいた人材が、再び(同一あるいは別の省庁に)戻り、より高いポジションを得ることも推奨されるべきだ。そのことは、民間から行政にくることで行政が改善するというような安易な政治任用論よりも、行政や官僚をより有効に活用できる手段であるということができる。

 またこのような中途採用および行政から民間へ出ていくことの容易化によって、それまで普通の人にはわかりにくかった、行政における専門語・職業語・隠語・ジャーゴン(jargon)が平準化され、行政がより活性化していくと共に、行政以外の分野の人材の政策形成過程に関わることができるようになることも期待されるのである。

4.官僚採用のメイン分野を変更する。

 明治維新以降の日本は、先進諸国に追いつき、近代国家になることが国家目標であった。それを実現するために、日本の行政機関の官僚は、先進国の制度や仕組みを学び、日本社会に適合することができるようにするという意味において、既に存在するものを理解・学び、それをいかに解釈するかが重要な役目だった。その関係からも、官僚は、立法学としてではなく、法解釈学としての法学の学部出身者が多く、その人材を中心にした行政機関や官僚機構が、日本の近代化の歴史の中で、形成されてきたのである。

 そのやり方は、短期的に日本を近代化することには適合していたとはいえる。他方、それは、日本が先進国になり、他国から必ずしも学べなくなり、自国の社会の実態および問題・課題を把握・理解し、それに対処できる政策や制度を創出していかなければならなくなると、必ずしも適切かつ効果的な方法ではなくなったのである。

 現在の行政機関やそこにおける官僚は、日本社会の現状および問題・課題を理解・把握し、それに対する処方箋を書ける必要がある。あるいは自身でその処方箋を書かずとも、他者が書いた処方箋を理解できる能力が必要とされる。そのことは、調査・研究能力あるいはそれを評価できる能力や知見が必要とされるということを意味するのである。その意味でも、「2.総合職は基本大学院卒業を必須条件とする。」でも述べたように、少なくとも幹部候補の官僚は大学院卒業であることが必須であるといえる。

 また専門分野としては、法学部よりも、むしろ文理の区別を超えた別の政策分野の専門性のある人材の採用を優先すべきなのだ。さらに政策においては、様々な専門分野が相互連関し複雑に絡み合っていることも多いことを考えると、できれば、T型やπ型、さらにH型人材などが好ましいのだ(注6)。

 また最近の社会の流れからすれば、AIやビッグデータなども含めてデータサイエンス(注7)の知見やスキルがあることも、官僚には望まれるところだ。

5.データ・情報サイクルおよび予算編成や政策立案のサイクルを連動させる。

 各中央省庁はこれまでも多くのアンケート調査やデータの集積を、定期的かつ継続的におこなってきており、それをまとめて発表、公表しているものもある。

 他方、一部の政策的結論ありきでの調査(主に外部に委託する調査)などは別とすると、それ以外の定期的・継続的調査やデータの結果や内容が、国の予算編成や政策形成のサイクルと密接に関連付けされて、PDCA(注8)的に活かされるようになってはおらず、別々のサイクルが形成されているのである。これは非常に無駄であり、効率が悪く、もったいない状況だといえる。近年の日本政府の財政的な制約なども考慮すれば、情報やデータなどを活用して、政策の成功精度を高めるような、政策形成の方策を構築していくべきだ。

霞が関(中央省庁街)に未来はあるのか。
霞が関(中央省庁街)に未来はあるのか。写真:イメージマート

6.民間活用の政策づくりをしよう。

 各省庁は、これまでも審議会などを通じて、民間の意見や声を聞くことなどは実施してきた。しかし、そのような場合でも、その多くは、基本的に行政の考えていることや実現したいことをするための根拠づけとしての活用が多かった。

 また近年は、世界中のほとんどの政府、特に日本の政府は多大なる財政赤字を抱えている。その意味では、できるだけ予算を抑えながら、政策的な成功確率や成果の大きな方策を活用する必要があるといえるだろう。

 その意味からもたとえば、海外では近年実施されている、民間のアイデアや人材を活用し、テーマを与え、その実現に成功した場合に懸賞金を提供する懸賞型の社会課題の解決の手法を採用してはどうだろうか。行政のインナーサークルの内部での人材や知見だけでは、そのキャパはたかが知れているという現実に気づくべきだろう。

7.行政機関をデジタル化、DX化させる。

 日本でも、デジタル庁がつくられるなど、行政のデジタル化が進みつつあるが、まだ端緒についたばかりだ。日本における行政機関(役所)は、あまりに文書中心主義だ。情報は発生者の所有物であるという観点からの情報セキュリティにも十分に配慮しながら、行政業務やサービスをできる限りデジタル化させ、国民・住民ばかりではなく、官僚の側の業務の負担もできるだけ削減し、本来業務に専念できるようにすべきだろう。

 その意味からも、電子立国エストニア政府が、「国民からの情報(提供)は1度のみ」という立場に基づき、行政サービスをほとんどすべてデジタルで提供している視点を、日本でも実現していくべきだろう。

 これまで、いくつかの観点から、日本の行政機関および官僚を、新しい時代に即したものに変えていくための提言を行った。ここで示した提言は限られているが、今後のこの点における議論の広がりに向けて、何らかの示唆を提供できたことを期待している。

(注1)前者は起きた問題等に対応する政策で「リアクティブ(reactive)な政策」、後者は先を見越した政策で「プロアクティブ(proactive)な政策」と呼ぶ。

(注2)この点に関しては、次の書籍や記事等を参照のこと。

『未来政府…プラットフォーム民主主義』ギャビン・ニューサムら、東洋経済新報社、2016年 

『日々の政治…ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』 エツィオ・マンズィーニ、ビー・エヌ・エヌ新社、2020年

『Next Generation Government…次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』 若林恵編、黒鳥社、2021年 

「デジタル民主主義」 東京新聞サンデー版大図解No.1525、2021年9月5日(デジタル版掲載:2021年9月3日)

「デジタル民主主義…今こそ、新しい政治制度の構築を!」 Yahoo!ニュース、2021年9月10日

「オープンな政策市場を創ろう!」 Yahoo!ニュース、2022年1月4日

(注3)「従来型の日本型雇用システムは「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、労働時間や勤務地、職務内容を限定しないはたらき方です。転勤、異動することも当たり前で、就職ではなく、いわば就社ともいえます。対する「ジョブ型雇用」とは、従業員に対して職務内容を明確に定義し、労働時間でなく職務や役割で評価する雇用システムです(必ずしもジョブ・ディスクリプションありきではない)。転勤も基本的にありません。職務内容を基準として報酬が支払われる(Pay for Job)である」「ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違いや事例から見る効果」(PERSOLのHP、2022年2月14日)

(注4)job description、職務記述書、「担当する業務に関する職務内容を詳しく記載した文書」を指す。

(注5)「国家公務員とは?総合職と一般職との違いってなに?わかりやすく解説します!」(TAC公務員総合サイト、閲覧日:2022年3月21日) 

(注6)T型、π型、H型等の人材等については、次のとおり。

「「T型人材」とは、特定の分野を極め、専門的な知識や経験とスキルを蓄積し、これらを軸にして、その他の幅広いジャンルに対しても知見を持っている人材のことを指します。英語で「T」の文字の縦を「専門性」、横を「視野の広さ」に見立て、「T型人材」と呼ばれています。」

「・I型人材

従来の日本企業が重用した、1つの専門ジャンルを極めた人材のことです。特に技術職に多く、営業や企画など異動の多い職種では少ないといえます。

・π型人材

π型人材は、異なる分野2つ以上の専門的な知識を極めた人材で、『ダブルメジャー』とも呼ばれます。

専門性が高い分野の深い知識を複数持つことで、ひとりでも独創的な発想をすることができるのが特徴です。

・H型人材

H型人材は、強い専門性を誇る分野が1つあり、他人の専門性を横軸で繋げられる架け橋となる人材です。このような他者との連携をする力も、今後求められる人材の重要なポイントとなります。」

出典:「T型人材とは?<I型・π型・H型>との違い、2020年に必要とされる人材の要件」(カオナビ人事用語集、2021年12月9日)参照のこと。

(注7)「データサイエンスとは、業務の効率化を図るために、数学や統計学、プログラミング、コンピューターサイエンス、ドメイン知識など、さまざまな分野の知識を結集し、データからインサイトを導き出すことです。」出典:Adobe Experience CloudのHP

(注8)「PDCAサイクルとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証型プロセスを循環させ、マネジメントの品質を高めようという概念。」出典:野村総研のHP

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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