東京新聞が、2021年9月5日の日曜版の大図解で、「デジタル民主主義」を取り上げたが、筆者も協力し小論を寄稿させていただいた(注1)。

日本の立法府である国会
日本の立法府である国会写真:つのだよしお/アフロ

 スウェーデンの調査機関「VーDem」は、2019年、世界の民主主義国・地域は87カ国であり、他方非民主主義国・地域(主に権威主義や専制主義の国)は92カ国であり、非民主主義国・地域が18年ぶりに多数派になったという報告を発表した。

 日本にいると、世界の多くの国々は民主主義国だと思いがちだ。しかし、先日アフガニスタンではタリバンが20年ぶりに政権を掌握し民主政権が瓦解したことに象徴されるように必ずしもそうではなく、現実には権威主義や専制主義による非民主主義国家・地域はむしろ増加傾向にあるのだ。

 特に昨今のAIやビッグデータなどの発展と進化は、国家がそれらを利活用することで、一部のエリートが社会を支配、コントロールする、いわゆる「デジタル専制主義」あるいは「デジタルレーニニズム」にとって有利に機能してきている。

 それらの社会では、支配する側が国民や住民の人権やプライバシーなどを侵害することや自由な言動や行動を制限するなどの危惧や危険性があるが、他方で、犯罪や問題行動等の防止・抑制、交通規則をはじめとするルールの遵守、社会環境の向上、様々な公的サービスの効率化、経済発展や経済格差の縮小、コロナ禍の封じ込めなどが図られ、国や地域によっては、社会環境が改善し、国民や住民の社会的満足度や愛国心が高まっている面も生まれている。これは、ある意味支配する側にとって望ましい環境が生まれているのである。また「デジタル専制主義」の国・地域の支配する側がこれを悪用すれば、そこに住む国民や住民にとって厳しい現実が生まれる可能性もある。

デジタルは監視社会も実現できる。
デジタルは監視社会も実現できる。提供:bluebackimage/イメージマート

 他方、民主主義の国々・地域では、経済格差の拡大、移民問題への混乱や憎悪、社会的分断、狭隘な国家主義や愛国心の台頭などが生まれてきている。特にSNSなどによるフェイクニュース、ヘイト言動などの情報拡散や自身の偏重的価値観や意見の増幅で、さらにコロナ禍も加わり、それらの国家・地域はより混乱し、混迷や社会的分断を極めてきているのである。

 民主主義の国・地域では、基本的には国民が中心になって社会の方向性を決定する仕組みがとられ、その一環として、自身の代表者を選ぶ選挙が民意を反映する重要な仕組みになっている(注2)。選挙以外にも、アドボカシーやロビー活動、市民運動など様々な形で、国民や住民が、政治や行政に働きかけたり(注3)、それらの声や要望を受け入れる仕組みも作られている。しかしながら、それらの様々な仕組みがあっても、現在の民主主義は、有効に合意形成をできず、上述のような状況が生まれてきているのである。

 これは、これまでの選挙を中心とした代表者や行政による民主主義の仕組みが機能不全に陥っていることを意味する。

 よく考えてみればそれはある意味当然のことだ。今日のように社会変化が急速な状況においては、数年に1度の選挙で民意を的確に反映するのは難しい。さらに社会の流動性やダイナミズムが増してきているなかで、人の移動が高まり、職住の場所の相違、有権者と国民・市民・住民とのずれ、外国人住民の増加、政治意識・参加における格差など、民主主義の仕組みを運営していく上での様々な制約や困難などが生まれてきており、従来の仕組みの延長だけでは対応できにくくなってきているのである。

民意を集約し、政策形成に活かすのは容易ではない。
民意を集約し、政策形成に活かすのは容易ではない。提供:ayakono/イメージマート

 そのコンテクストにおいて、テクノロジーを活用した民意形成を新しい仕組みである「デジタル民主主義」の可能性が意味を持ってくるのである。「デジタル民主主義」は、単に選挙投票をウェブで行うことではなく、選挙も含めて、デジタル上のプラットフォームを活用し、住民や国民が、行政や議会など協力しながら、アイデアを出し、プロジュクトを立ち上げたりして、そこから生まれる政策案などを修正・集約・総括し、それを国民や住民や議会での投票などで決定・確認していくようなプロセスを行うことになる(注4)。このプロセスは、基本はデジタル上で行うので、テーマに応じて適宜、しかも安価にかつ数多く対応することができ、国民・住民も空き時間でも対応できるので、比較的参加しやすいものになる。

 この「デジタル民主主義」は、そのプロセスにおいては、これまで以上に国民・住民の役割が重要になる。他方、国民・住民は政治や政策を常時考えたり行動したり、あるいはそれらについて十分な情報に基づき十分に知ることは難しい。また国民・住民が政策形成により関われば、民意のふり幅がこれまで以上に極端になったり、社会的な無駄や混乱が生まれる危険性も懸念される。そこでは、国民・住民が政策的な問題や課題をより的確に理解し、適切な意見や判断ができるようにするために、選挙で選ばれた議員らによる周知・啓蒙をはじめとしたメンター的な働きかけの役割が重要になるのだ。その意味でも、「デジタル民主主義」は、当座においては、国民・住民が直接に政策・政治決定を行う「直接民主主義」および議員らが議論し政策・政治決定を行う「代表(間接)民主主義」を組み合わせたものになるといえよう。

 実は、上述した「デジタル専制主義」および「デジタル民主主義」において、民意やそれに関係するデータ・情報を集積したり、分析したりするデジタル的なシステムは、ある意味それほど大きな違いはないといえる。他方、その両者は、そのシステムの運用者が固定しているかあるいは民によって選ばれたものであるのかどうか、またそれを利活用した運用プロセスにおいて一部の「エリート」が政治決定するのかあるいは国民・住民と政治や行政との双方性のあるコミュニケーションで行うのかという、大きな違いがある。この違いが、国民・住民・社会にとってどちらが良いかというのは、少なくとも短期的に軽々に決められることではないが、「民主主義」という立場からからすれば、国民・住民が、主権者であり最終責任者であることを考えれば、決定者や決定プロセスに関わる部分は譲ることのできないポイントであろう。

 これまでの説明で、皆さん方は、「デジタル民主主義」についてどう思われたであろうか。

 何かわかりにくい。今すぐには無理だな……….などの感想をもたれた方も多いかもしれない。

 だが、現実には、海外でも国内でも、その先例ともいうべき事例が、徐々にではあるがすでに少しづつ生まれてきているのだ。

 例えば、台湾。そこでは、「vTaiwan」(注5)という仕組みがある。そのサイトには、オンライン上で、政策アイデアを投稿したり、法案を討議できる。それが法案形成にも貢献している。

 イタリアの「五つ星運動」(注6)も参考になる。この運動(政党)も、毀誉褒貶あり、紆余曲折しているが、オンランイン等を通じての政策アイデア提案、民意集約、党首選択、党員への政治教育など先駆的な試みは、参考になろう。

 また行政の仕組みのデジタル化としては、電子国家として有名であり、国民のそのシステムへの信頼の高いエストニアの電子政府の事例も参考になる(注7)。エストニアは、電子投票やデジタル上で行政サービスも受けるようになっている。外国人がデジタル上の住民として、様々なサービスが受けられる「e-Risidency」(注8)という仕組みもある。

イタリアの五つ星運動。
イタリアの五つ星運動。写真:ロイター/アフロ

 日本においても先行事例が生まれている。ここでいくつかの事例を紹介しておく。 

 加賀市では、ブロックチェーンとデジタルIDを活用した安全かつ利便性が高い電子投票システム構築が行われていたり、つくば市では、ブロックチェーン×マイナンバーカード×顔認証技術によるインターネット投票を実施したり行政手続きのオンライン化の推進などを行ったりしている。

 また現在注目を集めている、IoTやAI等の先端技術の利活用でエネルギーや交通網などのインフラを効率化して生活やサービスの質を向上させた、人が住みやすい都市である「スマートシティ」構想(注9)や、スマートシティや近未来技術実証特区等の様々な取組みの発展形の「まるごと未来都市」である「スーパーシティ」構想(注10)などにおいて、デジタルによる民意の集約や合意形成などが考慮されており、「デジタル民主主義」の流れの中にあると考えることでできる。

日本でもデジタルを活かした新しい政治制度を構築できるのだろうか?
日本でもデジタルを活かした新しい政治制度を構築できるのだろうか?提供:barks/イメージマート

 民間でも、「デジタル民主主義」の動きがある。たとえば、「誰でもが声をあげるようになれば、社会を変えられる」とミッションを掲げる「Change.org」というオンライン署名キャンペーンの仕組みだ。これは、アメリカ発ではあるが、現在は日本をはじめとする20ヵ国に拠点があり、世界中で活用されている。同組織のサイトによれば、世界の196ヵ国で4億人を超える人々が利用し、77,457件の署名キャンペーンが成功しているという。また20ヵ国の中でも、日本は、「2020年の日本版の利用者数は約280万人、キャンペーンは前年比2.5倍の2773件」で、伸び率は第1位で、存在感が増大しており(注11)、実際の法整備などにも影響を与えてきている。

 この仕組みは、単なる電子署名のシステムというより、国民・住民・市民等が、自分の考えや意見を発信し、それを基に社会的な動き、情報集約、合意形成を生み出していくための仕組み、プラットフォームである。ある意味、民の側が創り出した「デジタルデモクラシー」の先駆的な仕組みであるともいえる。さらに、日本の「Change.org」は、この仕組みを活用できる市民や人材の育成なども開始していて、それは上述した議員などの啓もうの役割にも重なるものである。

 いずれにしろ、このような様々な試行錯誤における成功と失敗からの教訓を活かして、電話を単にファックス置き換えるような思考を超えて、新しい政治制度としての「デジタル民主主義」を構築する視点から、この試みを進めていく必要がありそうだ(注12)。

(注1)この大図解を受けて、パネルディスカション「『デジタル民主主義』って何?」が開催される。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。

(注2)これを、代表民主制と呼ぶ。

(注3)そのような活動をする上で参考になる、次のような様々な情報(事例)もある。

*市民アドボカシー連盟のサイト

・「草の根ロビイング倫理規定」(NPO/NGOなどの市民セクターが社会的責任と責任あるロビー活動を遂行するための参考資料)

・教材「国会とロビイング(基礎編)[1.国会のしくみ][2.政策提言]」(参議院事務局宮﨑一徳氏協力)(YouTube)

・「ロビイングの心得」

*「私たち国民・市民ひとり一人が、今こそ立ち上がるとき…米国の市民活動の実践ガイドが、問いかけるもの」鈴木崇弘 Yahoo!ニュース 2017年12月2日

(注4)このプロセスでは、関連するデータや情報が、アクセスしやすくわかりやすい形で、できるだけ公開されている必要がある。

(注5)「『ネットの意見が法を作る』デジタル民主主義で世界をリードする台湾の挑戦」(Chris Horton、MIT Technology Review、2019年3月22日)参照。

(注6)「イタリアの『五つ星運動』から学ぶ、日本の新しい政党のかたちとは?」(鈴木崇弘、Forbes Japan、2019年3月8日)など参照。

(注7)「デジタル変革で電子政府化を実現したエストニア、隠された苦難の歴史と希望の未来」(小島健志、IBMのHP、2019年11月15日)など参照。

(注8)「日本にも約2000人の電子国民 エストニア『e-Residency』が目指す未来」(齋藤アレックス剛太、Forbes Japan、2019年1月23日)など参考。

(注9)実例の一つとして、加古川市などがあげられる。また「スマートシティ国内事例10選【2021年最新版】」SoftBankのHP)など参照。

(注10)スーパーシティに関しては、「都市のDXが進む「スーパーシティ」構想とは?」(IoT、2021年3月)など参照。

(注11)「ネット署名で社会を変える」(朝日新聞土曜日be、2021年6月5日)参照。

(注12)9月1日に発足した「デジタル庁」の今後の動きにも注目する必要がある。