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サッカー、野球、ラグビー、バスケ……競技別のファンが日本スポーツを衰退させる

杉山茂樹スポーツライター
写真:Shigeki SUGIYAMA

 11月にサウジアラビアのジッダで行われた、日本代表の対シリア戦を日本在住のファンは観戦することができなかった。7月にオーストラリアとニュージーランドが共催した女子W杯も、日本で放送されるか否か寸前まで決まらなかった。

 男子の一戦が中立地帯で行われたW杯のアジア2次予選であるのに対し、後者の女子W杯はれっきとした本大会だ。これが放送されなければ女子サッカーの普及発展の妨げになる。本質的にあってはならない話が起きようとした。結果オーライで済ませていいものか。

 背景には様々な要因が絡んでいるが、気になったのは、かつてより低下したチーム力、客足が伸びないWeリーグの現状等、女子サッカー界サイドが抱える問題を指摘する声だ。高い放映権料に見合っていない。テレビ局が二の足を踏む理由だと。

 Weリーグの1試合あたりの平均観客数は1713人(2023-24シーズン12月10日現在)。男子(Jリーグ)の2023シーズンが18993人なので、その10分の1にも達しない。何を隠そう、筆者もWeリーグ、なでしこリーグの取材には滅多に出かけない。男子と比較して魅力度で劣ると自分の中でイメージ化されていることがその一番の原因だ。

 だからこそ多くの観衆を集める海外のスタンド風景には驚かされる。カルチャーショックを受ける。なにより感銘を受けたのがドイツで開催された2011年女子W杯で、フランクフルトで行われた決勝に地元ドイツは駒を進めることができなかったにもかかわらず、その日本対アメリカ戦のスタンドは満員の観衆で埋まった。

 女子の試合になぜこれほど観衆は集まるのか。女子スポーツを応援する風土があるアメリカ。一方、欧州にはクラブサッカーの真髄を見る気がする。各国の代表選手の大半は、聞き馴染みのある欧州のクラブでプレーしている。日本代表の海外組も同様。マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、ウエストハム、ローマと著名なクラブに所属する。多くのクラブが組織内に女子チームを保有している。

 リバプールというクラブのファンに男子、女子の境界は存在しない。同じクラブ仲間で一致する。女子のサッカーチームにシンパシーを抱く環境が欧州のクラブ社会には構築されている。

 日本のJリーグは現在J3まで合わせれば60チームに及ぶが、この中で女子チームを保有するクラブは20チーム強。3分の1程度しかない。その一方で、Weリーグとその下のカテゴリーに当たるなでしこリーグには、Jクラブとは別組織の女子単体のサッカークラブが数多く参入している。規模の小さなクラブが独力で活動している。ファンの総数が少ないので、求心力も低い。スタンドに観衆が集まりにくい理由を見る気がする。

 単独で行動するか。一緒に行動するか。この男子サッカー部と女子サッカー部の関係は、サッカー以外の競技に置き換えることもできる。

 昨シーズン、ソフトバンクとアビスパ福岡のチアリーディングがコラボしたというニュースを見た。プロ野球とJリーグ双方に関心がある人は少なくない。福岡ソフトバンクホークスとアビスパ福岡がひとつのクラブならばどうなるだろう。クラブ愛という求心力が観戦動機に加われば、従来の野球ファンがサッカー観戦に出かける際に抱きがちな躊躇いは薄れる。野球ファン、サッカーファンの関係に限らない。これはすべての競技にあてはまる。

 競技別のファンが多いことが日本の特徴であることは、クラブ社会が発達した欧州に行けばよく分かる。たとえばFCバルセロナは典型的な総合スポーツクラブとして知られる。カンプノウ脇の体育館でバスケットボール部やハンドボール部の試合を観戦した後、サッカーを観戦するソシオ(クラブ会員)は少なくない。会員権を持っていればそれぞれのスタンドを、はしごするように往来できる。

 サッカーの試合の最中に、バスケットボールの途中経過が電光板に流れることもある。カンプノウ、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウでも筆者は経験している。サッカーより一桁多い97-75という数字を見て観衆は何を歓喜しているのか、筆者は最初、なんのことかサッパリわからなかった。

 この手のカルチャーショックを最初に覚えたのは忘れもしないチャンピオンズリーグ1994-95シーズン、ギリシャのアテネで行われた準決勝、パナシナイコス対アヤックスの一戦だった。

 試合前、背の高い選手団が正面スタンド前に現れると、アテネ五輪スタジアムは万雷の拍手に包まれた。欧州選手権を制したパナシナイコスのバスケットボール部を表彰するセレモニーがそこで行われたのだ。愛国心ならぬ、愛クラブ心の高まりが最高潮に達した瞬間だった。スタジアムにはサッカーファン兼バスケットボールファンが押しかけていたのである。

 Jリーグはこうした欧州型総合スポーツクラブ社会の構築を目指してスタートしたはずだ。30年が経過したいまチーム数こそ10から60に増大したが、総合スポーツクラブ化したクラブは少ない。「アルビレックス」のような集団は珍しい。サッカークラブ、もっと言えば男子サッカークラブの域を脱し得ないクラブが大半を占める。Jリーグがそこに力を注いでいるようにも見えない。単体で活動する女子サッカークラブが多いことに、日本スポーツの悲しさが見て取れる。ヴィッセル神戸とINAC神戸レオネッサが別々のクラブである理由が、欧州的な視点に基づけばよく分からないのである。

 学校社会では、月曜日は野球部、火曜日はサッカー部、水曜日はハンドボール部、木曜日はバスケットボール部、金曜日はラグビー部というように、複数の部活動に参加することは許されていない。不真面目だとされるが、そのノリが観戦にも浸透しているとすればナンセンスだ。スポーツの発展のためになにより重要なことは、競技別に存在しがちなファンの垣根をなくすこと。スポーツのクラブ化だと考える。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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