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サッカーの普及、発展のためにもACLの視聴環境、改善を望む

杉山茂樹スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 1次リーグを4月21日から5月7日まで、セントラル方式で開催することになった2021年アジアチャンピオンズリーグ(ACL)。Jリーグ勢で出場権を得ているのは、川崎フロンターレ、ガンバ大阪、名古屋グランパスの昨季の上位3チームで、同4位のセレッソ大阪はプレーオフからの出場となる。

 変則日程で行われた昨年は、ヴィッセル神戸がベスト4入りしたものの、FC東京、横浜Fマリノスはベスト16止まり。鹿島アントラーズはプレーオフの段階で沈んでいる。

 日本勢は満足すべき結果を残したとは言えないが、それについて心配する声は聞こえてこない。

 対世界という視点になると、日本人の関心はまず代表チームの国際試合に向く。そして何かとFIFAランキングを気にすることになる。

 日本は現在27位。29位のイランを抑え、アジアで最上位国の座をなんとか維持している。

 一方、リーグのランキングには関心を抱きにくい。アジアでJリーグは何番目か。過去5年のACLの戦績を基に集計する、アジアリーグランキングでは日本は現在、中国(Cスーパーリーグ)に次いで2位(以下、サウジアラビア、カタールと続く)。中国に盟主の座を奪われている。

 代表チームと国内リーグは、その国のサッカー界を構成する2大要素だ。望ましいのは、両者がクルマの両輪として、高次元で拮抗している姿だ。

 欧州で言えば、代表チームを順位化したFIFAランキングの並びは、ベルギー(1位)、フランス(2位)、イングランド(4位)、ポルトガル(5位)、スペイン(6位)、イタリア(10位)、クロアチア(11位)……で、リーグランキングは、スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス、ポルトガル、ロシア……の順になる。

 海外の国々と常に相まみえる代表チームは、その世界的レベルについて語られることが多いが、Jリーグにはその視点はない。その世界的な市場価値等に関心が及ぶことはない。

 Jリーグの価値をどう高めるか。そのレベルをどう向上させるか。日本サッカーの発展を考えたとき、メスを入れるポイントはここになる。

 欧州では、逆にCLを頂点に構成されるクラブサッカーの方が、代表チームのサッカーより、はるかに熱く語られる。

 欧州のクラブサッカーは、都市国家に由来するその風土や気質と密接に関係する。そこで展開されるCLという欧州の都市対抗戦が活況を呈す理由は、その歴史的背景を探ると、おぼろげながら見えてくる。欧州人の気質にCLは完璧にフィットしている。

 CLの競技レベルは、毎シーズン確実に向上している。4年に1度開催されるW杯を上回る状態にある。世界の有力選手がCLの舞台に結集。世界の頂点にCLは位置している。もちろん新しい潮流の発信源として機能している。サッカー界はCLから目が離せない状態にある。

 しかしながら、日本で昨季まで放映権を持っていたDAZNは今季、突如それを手放した。視聴は「UEFA.com」という特殊な媒体に限定されることになった。中継される試合は、各節16試合中4試合(各日2試合)。好カードが選ばれるわけでもない。オンデマンド機能もなければ、録画もできないという貧しい視聴環境に、日本のサッカー界は置かれることになった。

 日本でCLの中継が始まったのは1990年代前半。右肩上がりを続けてきた日本サッカーを語る時、以来30年近く、世界最高峰の戦いをお茶の間で途絶えることなく観戦できたことは、外せない要素になる。CL中継は日本のファンの視野を広げる窓としての役割を果たしてきた。日本と世界を繋ぐ、まさに生命線としての役割を担ってきた。

 その大切な糸が今季、突然、切れた。放映権を何の説明もなく、いきなり手放したDAZNの罪は重いと言いたくなる。幸いにも2月16日に再開する決勝トーナメント1回戦以降は、かつて(90年代から2000年代にかけて)放映権を持っていたWOWOWで放送されることになった。DAZNの契約世帯が100万以下と言われるのに対し、WOWOWは約280万。より多くの人が視聴可能になったことは喜ばしい限りだ。

 しかし、そうは言っても、たかだか280万だ。世界No.1スポーツ、サッカーの、そのシーズンに行われる最高峰のイベントにしては少なすぎる数だ。ゴルフやテニス等の視聴環境に比べると大きく劣る。

 サッカーの普及発展を考えると、NHKBSあたりで中継するのが妥当に思われる。いずれにせよ、CL視聴者の少なさは、日本サッカーの普及、発展に悪い影響を与える。世界の頂点の最新レベルをイメージすることができにくくなれば、時代から置いていかれる。

 アジア最高峰の戦いであるはずの、ACLの視聴環境についても一言いいたくなる。視聴可能なチャンネルは、主に日テレNEWS24と日テレジータス(スカパー)だ。正確にどれほどの人が契約しているのか定かではないが、ACLを観戦するために、日本テレビ系のCS局と、わざわざ契約を結ぼうとするサッカーファンはどれほどいるか。出場チームのファンがせいぜいだろう。大衆的な広がりは期待できない環境にあると言わざるを得ない。

 欧州のCLには、レベル的にも格式的にも大きく劣るACLだが、当事者である日本人として、とくと目を凝らす必要がある。冒頭で述べた昨季の成績について、もっと残念がる必要がある。視聴環境を改善しないと、Jリーグのレベルは向上しない。

 川崎フロンターレは昨季、Jリーグを圧倒的な成績で制した。その余勢を駆ってACL、さらにはその先に控える世界クラブ選手権を目指して欲しいものだが、補強は思いのほか地味に映った。スタメン級の獲得は、昨季まで名古屋でプレーしたジョアン・シミッチぐらいだ。それも、サンタ・クララ(ポルトガル)に移籍した守田英正の代わりと考えれば、補強と言うより現状維持、差し引きゼロに見える。世界に目が向いていない印象を受ける。

 少なくとも、欧州のCLに出場するチームの勢いを川崎に見ることはできない。その点を指摘する声も小さい。

 くり返すが、メスが入れられるべきポイントだと思う。それが外部からの刺激不足にあるのだとすれば、CL、ACLの視聴環境と関係していると考えたくなる。特にACLはなんとかならないものか。多くのサッカーファンに見られているという意識が低ければ、選手のモチベーションは上がらない。ACLに高い価値を見いだせなくなる。そう思わずにはいられないのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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