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A代表のスタメンも行けそうな、いまが旬のドリブラー・三笘薫が、五輪チームでくすぶっていた理由

杉山茂樹スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 年末に行われるU-23の合宿に参加するメンバーが発表された。事実上の五輪代表選手選考合宿である。東京五輪世代と言われるこの年代の選手たちが、最後に活動したのは今年1月に開催されたU-23アジア選手権だ。

 そのグループリーグで、サウジアラビア、シリア、カタールと対戦した日本は、なんと最下位に沈む。昨年末に行われた東アジアE1選手権でも日本代表が韓国に敗れていたので、森保一兼任監督は強烈な逆風に曝されることになった。更迭、解任論まで飛び交うことになった。

 そのタイミングでコロナ禍が始まった。代表チーム関連の活動はストップ。おのずと森保監督への批判も沈静化した。

 代表チームは10月と11月、オランダとオーストリアで親善試合を計4試合行い、活動を再開させているが、Jクラブに所属する国内組は参加できなかった。招集メンバーは欧州組に限られた。逆に今回の、国内で行われるU-23の合宿に海外組は呼ばれていない。

 さらに、J1リーグを制した川崎フロンターレに所属する候補選手(三笘薫、旗手怜央、田中碧など)も招集外だ。代表チーム、五輪チームともに輪郭はぼやけた状態にある。

 とりわけ、今回の合宿に23人中8人の新顔が加わった五輪チームは、混沌としている。五輪本大会のピッチに立つ顔ぶれを想像することができにくい状況にある。五輪のサッカー競技は、1チームの編成が18人で、W杯より5人少ない。森保監督の選手選択センスがなにより問われることになる。最大3人のオーバーエイジ枠を使用するつもりなら、なおさらだ。結果と密接な関係にある。代表チーム以上に、だ。

 代表関連の活動を停止していたこの1年間、調子を下げた選手もいれば、上げた選手もいる。怪我をした選手、伸び悩んだ選手もいれば、実力そのものを上げた選手もいる。

 では、候補選手の中で一番伸びた選手は誰か。この1年間で見違えるほど腕を上げた選手は誰か。少なくともこちらにそう思わせた選手は誰かと言えば、三笘薫だろう。

 この選手、先述のU-23アジア選手権には出場していない。選外に漏れていた。その前に行われたジャマイカ戦(2019年12月28日/長崎)には、後半途中から安部裕葵(バルセロナB)と交代で出場しているが、その1ヶ月前に行われたコロンビア戦(11月17日/広島)では、選外だった。

 コロナで活動が中断する前、三笘のプライオリティは候補選手の中で特段、高いわけではなかった。東京五輪に向けたチームとして旗揚げした頃より、プライオリティを下げていた。

 今春、筑波大を卒業。川崎に入団した。2月22日に行われたJリーグ開幕戦では、後半20分、左ウイングとして、長谷川竜也と交代で出場を果たしている。だが、この1試合をもってJリーグは中断に入る。三笘が評価を高めたのは、再開(7月4日)以降となる。

 五輪チームに選出されたことがある期待の大卒ルーキーとはいえ、当初ここまでの活躍を予想した人は、そういなかったはずだ。とりわけ、切れ味鋭いドリブル&フェイント、すなわちウインガーとしての魅力は、五輪チームでのプレーを見る限り、イメージすることができなかった。

 五輪チームでは光り輝くことができず、右肩下がりの状態にあった三笘が、川崎に入団するや一転、右肩上がりに変身した理由はなにか。森保監督の下で輝けなかった選手が、どうして鬼木達監督の下で輝くことができたのか。五輪代表の枠を飛び越え、代表級の選手に成長したか。

 答えは分かりやすい。森保監督率いる五輪チームには、ウイングというポジションが存在しないからだ。自慢のドリブル&フェイントを披露する場所があるかないか。この差がそのまま三笘の評価に影響を及ぼしている格好なのだ。

 五輪チームの布陣は3-4-2-1で、三笘は主に2シャドーの一角としてプレーしていた。サイドか真ん中かと言えば真ん中だ。ドリブル&フェイントを披露する場所として、そこは最適なポジションとは言えない。

 前後左右、360度からプレッシャーを浴びる真ん中に対し、サイドは片側だけ。ボールを奪われる潜在的な確率に大きな差がある。三笘が自らの魅力を思う存分、発揮できるのは真ん中ではなくサイド。3-4-2-1の2シャドーではなく4-3-3の左ウイングだ。

 想起するのは、現在タレントとして活躍している前園真聖さん。現役時代はドリブラーだった。日本代表で活躍したのは主に加茂ジャパン(1995〜97)の時代になるが、プレーしたポジションは加茂監督が当時、採用していた4-2-「2」-2の「2」。攻撃的MFだった。サイドではなく真ん中で、ドリブルに及んだ。

 当時の日本には、ウイングは存在しなかった。サイドハーフも存在しなかった。ベンゲルが率いた名古屋グランパス以外、4バックと言えば4-2-2-2に限られていた。4-3-3や4-2-3-1の概念は皆無だった。前園が選手として伸び悩んでしまったことと、それは深い関係がある。真ん中を進むドリブラー。当時、彼に話を聞けば、イメージしているのはマラドーナだと言った。アルゼンチン留学でその思いを強く持つようになった、と。

 メッシも真ん中を切り裂くドリブルの持ち主として知られるが、マラドーナもまったく同じで、推進力はメッシ以上だった。そしてなにより、遂行能力が高かった。やりきる力。途中で奪われる可能性が低い、いばらの道を敢然と進むべく、圧倒的な躍動感があった。

 憧れたくなる理由は理解できる。だが、彼らは非現実的な選手。あくまでも例外だ。大抵の選手はかなりの確率で奪われる。プレスの網に引っかかる。真ん中で動きが急にストップすれば、チーム全体が逆モーションになりやすい。危ないのだ。

 そのリスクが少ないのはサイドだ。真ん中の選手と逆サイドの選手はその姿を冷静に客観視できるので、そこで奪われそうになっても、気配を感じ取ることができる。真ん中で奪われる時より、ビックリ度が低いのだ。チーム全体としてパニックになりにくい。

 さらに言うならば、自軍ゴールまでの距離も、真ん中よりサイドの方が遠い。ワンプレー、2プレー分ぐらい、余裕がある。三笘が相手のサイドバックと勝負して、仮に奪われたとしても瞬間、そこから相手に強烈なカウンターを仕掛けられる心配はまずない。

 だが、3-4-2-1の2シャドーでプレーする五輪チームの三笘には、その危険があった。得意のドリブルは仕掛けにくい状況にあった。森保監督は、代表チームでこそ4-2-3-1と3-4-2-1を併用するが、五輪チームでは、ほぼ3-4-2-1一辺倒だ。ウインガーと相性が悪い布陣を好んで用いている。

 三笘に限った問題ではない。ウイングとして使いたい優れたドリブラーはいま、日本に続々と誕生。もはや日本における最大の武器となっている。

 三笘に代表される優秀なドリブラーをどう扱うか。どのようにピッチに落とし込むか。チェックポイントの一つであることは間違いない。 

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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