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ダメ元を承知の上で、ポステコグルーを日本代表監督に推したい理由

杉山茂樹スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 首位を行く横浜Fマリノス(勝ち点64)。それを勝ち点1差で追うFC東京(同63)。3位の鹿島アントラーズ(同60)にも数字の上ではチャンスがある。残り2節となったJ1リーグ。今節(33週)は、横浜が川崎フロンターレ(4位)と、FC東京が浦和レッズ(13位)とそれぞれ対戦する。川崎にはアジアチャンピオンズリーグ出場権(3位以内)が懸かっている。浦和も依然としてJ2降格の可能性がある。両チームのモチベーションは高いはずなので、横浜と東京が勝利を飾ることは簡単ではない。優勝争いは予断を許さない状況にある。

 横浜、東京、そして鹿島。筆者はどこのファンでもないので、優勝争いが最終節までもつれる展開を期待するが、この中で世間の注目を最も集めて欲しいと願うのは横浜だ。日本サッカー界に欠けている要素が詰まったサッカーを展開しているチームであるからだ。そうした意味で優勝して欲しいと考えているわけである。

 一言でいえば、攻撃的サッカーだ。両ウイングが大きく開き、ピッチを広く使おうとするサイド攻撃重視のスタイルに、ここまで徹しているチームは他にはない。過去のチームにも見当たらない。日本代表に視点を移しても同じことが言える。だが、珍しいサッカーではけっしてない。世界に目を転じれば、この手のサッカーはザラ。主流を占めていると言ってもいいほどだ。

 アグレッシブに戦う。Jリーグの多くの監督はそう言う。森保監督も例外ではない。しかし、アグレッシブとは何かを具体的に語る監督は少ない。精神的なモノにしか聞こえない場合がほとんどだ。高い位置でボールを奪おうとするプレッシングについては語る人が増えているものの、サイド攻撃に関してはまだ少ない。

 そもそも日本には攻撃的サッカーを志向するチームが少ない。世界的には守備的サッカーに区分される、後ろに多くの人を割く5バック(3バック)が、Jリーグほど蔓延っているリーグも珍しい。

 先日、コロンビアU-22に0-2で完敗した日本U-22しかり。サイド攻撃に深みが足りないのだ。その試合後、森保監督は「アグレッシブに行きたかったが、日本で行われる初試合ということで選手たちは硬くなっていた」と、敗因を語ったが、これは精神論で片付けられる問題ではない。

 ウイングバックが単騎で疾走する姿を見て、サイド攻撃を売りにするサッカーだと言われても、それは違うのだ。これでは相手のゴールライン付近まで、深々と進入していくことはできない。

 そこを一番追求しているチームが横浜だ。両ウイング(仲川輝人・右)、(マテウス、遠藤渓太・左)が、深い位置まで進出するスタイルに監督の強い意志が見て取れる。実際、アンジェ・ポステコグルーは攻撃的サッカーを毎度、謳っているのだが、具体性のあるその攻撃的サッカーを目の当たりにすると、代表監督は彼に任せるべきだとの思いが募る。模範的なサッカーとはこのことを指す。

 現実問題として難しいことは確かだ。コロンビアU-22、続くベネズエラ戦のような完敗、大敗が、この後も続くならば話は別だが、弱者との戦いが続くW杯アジア2次予選で日本が負けることは考えにくい。判断の材料となる直近の試合となると、来年の東京五輪本番まで待たなければならない。

 目標は金メダルだと言うが、ベスト4入りすれば監督の責任は問われないだろう。森保監督にとってのピンチは、それ以下になった場合だ。田嶋幸三会長は、欧州の監督事情に詳しそうなタイプではない。ハリルホジッチを解任したときも、代役は現在のタイ代表監督、西野朗氏だった。そして次が森保監督だ。選択肢は近場に限られている。とすれば、ポステコグルーは有力な候補になるが、横浜が簡単に彼を手放すこともなさそうだ。

 とはいえこの世界、一寸先は闇というわけで、余談を続けさせてもらえば、東京の長谷川健太監督も、森保監督よりよさそうな印象を受ける。ポステコグルーに比べれば、サッカーは断然、攻撃的ではない。東京で実践しているスタイルを一言でいえば、堅守速攻となる。それでも評価したくなるポイントはコメント力だ。記者会見等で発する言葉に、Jリーグのどの日本人監督より余裕がある。笑いを誘うような話ができる。そこに監督としての自信を垣間見ることができるのだ。

 鹿島の大岩剛監督も候補として挙げたくなる。鹿島と言えばジーコ。何かにつけメディアはジーコを讃えようとする。ジーコ・スピリットを勝因に挙げようとするが、この大岩監督もポステコグルーほどではないにせよ、サイドの重要性を常日頃から説いている。プレスも高い位置から仕掛けようとする。選手の使い回しも上々だ。今季、主力選手が次々とチームを去って行ったにもかかわらず、現在、首位と4ポイント差の3位に付け、優勝争いの圏内に踏み留まっていられる原因は、そのあたりと大いに関係がある。

 近場で選ぼうとすれば、長谷川監督も大岩監督も有力な候補として浮上する。だが理想はやはりポステコグルーだ。「私は攻撃的サッカーを標榜しています!」と自らの路線を明確に打ち出しているところに、他の監督にはないカリスマ性を感じる。日本サッカー界に不足する要素を最も備えた貴重な存在に見える。横浜がもし残り2節で逆転を許し、優勝を逃しても、日本代表監督に就いて欲しいとの思いに変わりはないのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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