その引き分け、喜んでいいのか? 川崎戦で見せた清水・篠田監督の旧態依然たる選手交代劇

(写真:アフロスポーツ)

 前節(23節)、コンサドーレ札幌に0-8で大敗した清水エスパルスは、土曜日の一戦(24節)で川崎フロンターレ戦に2-2で引き分けた。

 試合後、選手が正面スタンドを背にして右側のゴール裏に陣取る清水サポーター席に挨拶に出向くと、パチパチパチという拍手が等々力のスタンドに響き渡った。

 違和感に襲われた。清水はこの結果を従順に受け入れていいのだろうか。川崎(試合前の順位は3位)にアウェーで引き分けることは、清水(同12位)にとって、上々の結果かもしれない。

 しかし、引き分けと一口に言っても、よい引き分けもあれば悪い引き分けもある。この試合の清水は、引き分け(勝ち点1)を拾ったというより、川崎に献上したと言うべき内容で、サッカーにおける好ましくない引き分けの典型的な例を見せられるような試合だった。

 1-1で迎えた後半20分、清水はMFヘナト・アウグストが、川崎DF谷口彰悟とMF守田英正のパス交換をカット。その勢いのまま前線で構えるFWドウグラスと縦のワンツーを決め、逆転弾を叩き込んだ。

 問題のシーンが起きたのはその12分後。清水の篠田善之監督は、CFドウグラスの下というか脇でプレーした河井陽介をベンチに下げ、本来、右サイドバック(SB)をこなす鎌田翔雅を投入した。ウイングバック役として。

 清水の布陣はこれを機に4-2-3-1から5-2-3へと一変。篠田監督は最終ラインの枚数を4人から5人に増やし、後方を固める守備的作戦に出た。

 危ない。こちらが瞬間、抱いた予感はズバリ的中することになった。清水は、その1分後に交代出場のFW小林悠に同点ゴールを叩き込まれてしまったのだ。

 守備的に出たのに簡単にゴールを許す。失態である。と同時にサッカーにおける「守備的」の概念について考えさせられるシーンでもあった。後ろを固めても守備の強化には繋がらない。後ろを固めることは、相手に対して前方向へのプレッシャーが掛かりにくいことを意味する。相手にゲームのコントロールを許すことになる。

 同点弾を浴びた際、ボールは車屋紳太郎→中村憲剛→馬渡和彰を経由して小林に渡っていったが、車屋、中村に対して清水のプレッシャーはゼロだった。1分前まで(4-2-3-1の時)なら、少なくとも中村へプレッシャーを掛けることはできていた。小林にラストパスを送った右SB馬渡が、あそこまで高い位置を取れたのも、清水が布陣をいじったことで生まれたギャップに乗じた結果だ。その時ピッチ上には、清水の選手が後方に下がり過ぎてしまった弊害がくっきりと描かれていた。

 後ろに下がって守るか。高い位置からプレッシャーを掛けるか。守備を考えたときどちらが有効か。世界のサッカーの流れを見ていれば答えは明白。守り切ろうとしたとき4バックを5バックにして後ろを固めようとする選択が主流を占めていたのは15年以上前の話だ。高い位置からプレッシャーを掛けることが守備固めを意味するようになって、もう時間はだいぶ経過している。にもかかわらず篠田監督は「下がれ!」と旧態依然とした指示を出し、たちまち同点弾を許してしまった。

 篠田監督はFC東京の監督を務めていた時代にも、こちらの前で同じ種類の過ちを犯している。忘れもしない2016年シーズンの浦和レッズとのホーム戦だ。

 1-0でリードしながら篠田監督は浦和の反撃を恐れ、4バックを5バックに変更。後ろを固める作戦で逃げ切りを図ろうとした。

 危ない! との読みが的中したことも、こちらの記憶を鮮明にしている大きな理由だ。FC東京はそこから浦和に3ゴールを立て続けに奪われ、派手な逆転負けを食らうことになった。

 こう言っては何だが、サッカー監督がいまの時代、この種類の失敗を、しかも複数回、それなりの舞台で犯すことは珍しくも恥ずかしい話だ。穴があったら入りたい状態であるのが普通。この失点の原因が選手ではなく監督にあることは火を見るより明らかながら、等々力の会見場に試合後、現れた篠田監督に悪びれた様子はなかった。逆に、同点ゴールをマークした小林をマークしたディフェンダーのタックルの質に注文を付けるほどだった。

 先述の通り、清水サポーターがブーイングを浴びせることもなかった。川崎に引き分け安堵の表情を浮かべているようだった。時代から酷く遅れた光景を見せられた気がした。

 篠田監督が4-2-3-1から5バックへ布陣を変更したのは後半32分。ロスタイムは6分あったので、5バックで戦った時間は実質19分間もあった。どうしても5バックに切り替えたいなら、せいぜい残り数分となった段にすべきである。

 交代後、リードしていた時間はわずかに1分。すなわち、残る18分間は2-2で推移した。逃げ切りを図ろうとする計画は、わずか1分で頓挫したにもかかわらず、その状態を修正せずに放置した。メンバー交代枠にも1人分の余裕があった。ここもまた問題だ。

 後半42分に行った3人目の交代は、CFをドウグラスからジュニオール・ドゥトラへの単純な入れ替えだった。後ろに下がってゴール前を固める作戦を、清水は試合の状況が変わったにもかかわらず、最後まで続行。自軍監督の采配で3点目のゴールが期待しにくくなった状況を、清水サポーターは20分近く傍観するハメに陥った。

 これが現実だ。清水サポーターはこの一件を簡単にやり過ごすべきではないと思う。前節の0-8も問題だが、今節の2-2も問題。辻褄の合わない采配、逃げ切りの選択肢が、大人数で後ろを固めるーーとなる采配にハッキリと異を唱えないと、チームに真の強さは芽生えない。B級チームの域から抜け出せないと思う。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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