膨らむ森保「兼任監督」への疑念。二兎を追うものは一兎も得ず?

(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 本番まで1年4ヶ月。足音が近づいているのは東京五輪を目指すU-22チームの方だ。A代表には余裕がある。本番となるカタールW杯の開催は通常より半年遅れの2022年11月。3年8ヶ月先だ。さらに本大会出場枠が現行の32から48に拡大することは濃厚で、それに伴いアジア枠も4.5から8.5枠程度に拡大される見込みだという。

 時間的余裕がたっぷりあるA代表と、そうではない五輪チーム。しかし、強化のエネルギーが注がれているのは、もっぱらA代表という印象だ。それぞれの監督を兼任する森保一は、スケジュールが重なればA代表を優先する。二足の草鞋を上手く履けているかといえばノーだ。

 五輪チームの監督として指揮を執ったのはアジア大会(インドネシア・2018年8月~9月)のみ。ドバイカップ(2018年11月)に続き、来る3月22日からミャンマーで開催されるアジアU-23選手権タイ2020予選も、横内昭展氏を監督代行に据えて臨もうとしている。さらに、5月29日から6月16日まで予定されているフランス遠征も、A代表が出場するコパアメリカ(ブラジル・6月14日~)と日程が重複する。

 こうした事態は当初から十分予測できたことだ。サッカー協会はなぜ森保監督を代表専任ではなく五輪チームとの兼任監督に任命したのか。あえて前例を覆すような判断を下したのか。五輪大好きな我が国の国民性に従えば、あるいは、力の入り具合は監督のネームバリューに現れるとの一般的な解釈に基づけば、自国で開催される五輪の監督は森保監督でも地味すぎるほどだ。それ以上の大物を招聘すべきではなかったかと意見したくなる。

 横内氏の監督代行就任が伝えられたのは昨年11月。ベネズエラ戦、キルギス戦に臨むメンバー発表の席上だった。森保監督はそこでこう述べている。

「彼とは長く仕事をしてきて、意思疎通ができている。同じ絵が描けている。横内コーチの指揮は私とすべて同じ。彼が言っていることは、私の言っていることとすべて同じだと自信を持って言える」

 発言の信憑性以上に抱いた疑問は、それは森保監督が口にすべき台詞であるのかということだ。横内氏の監督代行就任に任命責任がない森保監督がいくら太鼓判を押しても、効力はなにも生じない。

 任命責任があるのはサッカー協会だ。会見の席で森保監督の傍らに座っていた関塚隆技術委員長は、協会の代表として監督代行についてどう考えているのか。所見を述べる必要がある。公の場で横内監督代行にお墨付きを与えるべきは技術委員長なのである。

 ところが、コロンビア戦、ボリビア戦と試合の日程が重なる今回も、会見で監督代行に関する説明はなかった。関塚技術委員長はもちろん、前回は口を開いた森保監督でさえ、何も触れなかった。

 そもそも、森保氏がA代表と五輪チームの監督を兼任することが異例なのである。当初から疑心暗鬼になっていた問題が、就任直後から表面化している格好だ。

 森保監督が二足の草鞋を履くことが難しくなり、横内氏が毎度監督代行を務めることが常態化しつつある。話がこんなに簡単に覆る世界、そしてそれに異を唱える人が少ない日本サッカーの現実は、残念ながら異常と言うべきだろう。

 横内監督代行は、かつてサンフレッチェ広島でコーチと監督の関係にあった森保監督とは、まさに昵懇の関係にあるとのことだが、そうした言ってみれば知る人ぞ知る人物が、東京五輪を目指す五輪チームの監督を幾度も代行するならば、協会にはそれなりの説明が必要になる。五輪チームの今後の在り方や見通しについて、会長あるいは技術委員長が記者会見を通して明らかにしなくてはならない。横内氏も森保監督、関塚技術委員長とともに会見に出席し、抱負などを雄弁に語るべきなのだ。それが筋、常識というものである。

「オールジャパンで臨みたい」とは、田嶋幸三会長が再三、口にする内向きな印象を抱かせる台詞だが、代表チームの強化を日本人スタッフで固めるといっても制約はつきものだ。代表監督の座に森保氏が座れば、スタッフはその息が掛かった集団にならざるを得ない。

 ロシアW杯がそうだったように、西野監督の下で森保氏がコーチとして仕える姿は一般的でも、その逆の姿を想像することはできない。

 そのオールジャパン(ジャパンウェイという言葉も好んで使用するが)は、スケールの小さな集団になりがちだ。それはなによりA代表の監督と五輪チームの監督との関係に現れる。

 振り返れば、五輪チームの監督は以下に記したように、これまでネームバリューが高い人物が就いてきた。

・1996年アトランタ五輪=西野監督(加茂周)

・2000年シドニー五輪=フィリップ・トルシエ監督(トルシエ)

・2004年アテネ五輪=山本昌邦監督(ジーコ)

・2008年北京五輪=反町康治監督(岡田武史)

・2012年ロンドン五輪=関塚隆監督(ザッケローニ)

・2016年リオ五輪=手倉森誠監督(ハリルホジッチ)

 カッコ内は時の代表監督になるが、そのネームバリューは五輪監督をさらに上回っていた。山本対ジーコ、関塚対ザッケローニ、手倉森対ハリルホジッチのように、五輪が日本人でA代表が外国人監督になると、後者の優位性は一目瞭然になる。西野対加茂、反町対岡田の日本人同士の関係もしかりで、加茂、岡田両氏にはトップを引くだけのネームバリューがあった。

 だが率直に言って、森保監督のネームバリューは歴代のA代表監督に比べて劣る。従来の五輪監督相当だといっても言い過ぎではない。つまり五輪監督とのバランスは見いだしにくくなっている。五輪監督に相応しい人材を求めにくい状態にある。広島で暫定監督の経験しかない横内氏が適任者に見えてくるほどだ。

 これは、オールジャパンやジャパンウェイの名のもとに、森保監督をA代表監督に据えた瞬間から予想できた問題だった。兼任は五輪監督に森保監督と釣り合いが取れる人材が見当たらないがための苦肉の策。窮余の一策と言われても仕方がない。だが協会は、それさえも機能させることができずにいる。兼任は企画倒れに終わっている。

 兼任や代行には無理がある。森保監督そのものにも無理を感じる。二兎を追うものは一兎も得ずになりかねない。そう言わざるを得ないのだ。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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