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消化試合となったミャンマー戦、シリア戦で長友を選んではいけない理由

杉山茂樹スポーツライター
FC東京戦で活躍した三浦颯太(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 日本代表の両サイドバック(SB)は、右が菅原由勢と毎熊晟矢、左が伊藤洋輝、中山雄太の各2人が優位な立場にいるかに見える。先のアジアカップでは、この4人にほぼ均等に出場機会が与えられた。

 先の北朝鮮戦ではこの中から中山と毎熊が招集外となる。中山は怪我。毎熊が外れた理由は定かではないが、代わって入った選手は橋岡大樹と、37歳の長友佑都だった。長友を選出した理由について森保一監督は「Jリーグで見せているパフォーマンスを評価した」と述べた。

 世の中の反応は概ね良好だった。森保監督の判断に異を唱える声は少なかった。しかし長友は今季のJリーグでもっぱら右SBとして出場している。橋岡も右を主戦場とする。長友を左SBとして招集したと考えるのが自然だが、だとすればJリーグのパフォーマンスとの関係性は失われる。選考理由に整合性が欠けることになる。

 カタールW杯後、森保ジャパンのSBは、上記の選手に加えバングーナガンデ佳史扶、森下龍矢、三浦颯太らが招集され、ピッチにも立った。しかし、北朝鮮戦を前にした森保監督は、彼らではなく長友を選んだ。不安に襲われた自分を落ち着かせるために、と考えるのが妥当だ。

 国立競技場で北朝鮮に1-0で辛勝したその9日後、等々力で行われた“多摩川クラシコ”のピッチには、長友、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、三浦颯太(川崎フロンターレ)の3人がSBとして先発出場した。

 この中で最も活躍が目立ったのは長友ではなく、その対面で構えた三浦颯太だった。象徴的だったのは前半34分のシーンで、左の高い位置で受けた三浦は、長友を見据えるように突っかけていき、フェイントを交えながら縦突破の機会を狙った。三浦vs長友。それは絵に描いたような1対1だった。

 森保監督ならば長友の勝利を予想したに違いない。しかし実際に勝利したのは三浦だった。完勝と言えた。長友を抜き去り縦突破を成功させると、ライン際からマイナスの折り返しを敢行した。FC東京DF木本恭生がスライディングでクリアするも、ボールはポストに当たり跳ね返る。そこに脇坂泰斗が現れ、川崎に先制ゴールをもたらした。

 結果は3-0。川崎の完勝に終わったが、原因はこの三浦のワンプレーにあった。三浦は自慢の縦への推進力を生かし、この他にも長友を選ぶなら三浦でしょと言いたくなるプレーを幾度か披露した。

 三浦は元日に行われたタイとの親善試合が代表デビュー戦だった。その後半23分、森下と交代で国立競技場のピッチに立った。10日前までJ2のヴァンフォーレ甲府に所属していた23歳の若手である。

 それは抜擢と言えた。森保監督にその時は素直に賛辞を送りたくなった。その監督がなぜ再び長友に走ったのか。FC東京のピーター・クラモフスキー監督は、左にバングーナガンデ、右に長友を置く。バングーナガンデは左しかできない。長友も代表ではずっと左だった。右SBとしてプレーしていたら、代表選手になっていたか微妙だ。つまりクラモフスキーは、バングーナガンデにやりやすい環境を与えようとしているわけだ。彼を育てたいとの親心が多少なりとも働いているからだと推察できる。

 肩書きがものを言うこの世界にあって、代表の一枠は貴重だ。タイ戦で交代出場であっても22分間プレーすれば、キャップ1が記録される。それはもう立派な看板だ。箔がついたことになる。欧州へ行きやすくなる。受け入れ先はその肩書きを見て安心する。移籍金にも大きな影響が出る。日本代表監督にとっては、多くの代表選手を誕生させることも代表強化に欠かせない任務になる。

 空いた1枠を長友ではなく、三浦やバングーナガンデのような、これから欧州へ羽ばたいて行きそうな若手に充てる。これがスタンダードなのだ。それを怠ると、ほどなくしてしっぺ返しを食う。自分で自分の首を絞めることになる。

 長友と三浦。知名度が高いのは長友だ。代表キャップは142対1の関係にある。ページビュー命のネットメディアにおいて歓迎されるのは長友だ。森保監督の選択を嘆く人は少ない。むしろ北朝鮮戦で長友を使わなかったことを嘆く声さえ聞こえてきた。 

 北朝鮮がホーム戦をキャンセル。FIFAが没収試合の裁定を下したため、日本は残り2戦を待たずにアジア最終予選進出を決めた。その結果、6月に予定されているミャンマー戦、シリア戦は文字通りの消化試合になった。

 欧州組を呼ぶ必要はない。長友も同様に呼ぶ必要がない。呼んではいけないのだ。多くの若手に代表キャップを与え、欧州組を1人でも多く輩出することが日本の財産に繋がることをここで再確認したい。

 サッカー競技におけるこれこそが代表強化のあるべき姿なのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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