堂安、中島両ウイングの輝きを鈍らせる森保式3バックの幻影とは

堂安律(左)と中島翔哉 写真:岸本勉/PICSPORT

 ミハイロ・ペトロビッチ(現コンサドーレ札幌監督)の後任として監督に就任したサンフレッチェ広島時代、森保監督は前監督が実践した3-4-2-1をそのまま踏襲。他の布陣をあまり使用することなく5年間で3度Jリーグを制した(2012年、2013年、2015年)。現在、とりわけJ2を中心に3-4-2-1が流行している理由を語ろうとしたとき、ペトロビッチと森保一監督は外せない存在になる。

 言い出しっぺとは言わないが、3-4-2-1とその流行に一役も二役も買った旗振り役が、日本代表監督に就任した途端、その使用を止めた。5戦目のベネズエラ戦まで、すべて4-2-3-1的な4-4-2で戦っている。いったいなぜか。

 サッカー監督にとって布陣は大きな選択肢のひとつだ。監督の志向をそこに見ることができるが、森保監督の場合は、代表監督就任とともにそれを一変させた。

 たとえば、もともと4-3-3で戦っていた監督が現行方式に変えたのなら違和感はない。4-3-3から4-2-3-1及び4-4-2への変化は、マイナーチェンジに過ぎないが、3-4-2-1からの変化となると話は別。根本的な変容だ。

 ペトロビッチ式とも言うべき森保式3-4-2-1は、概念的には守備的サッカーに属する。5バックになる頻度が高い3バックだ。

 マイボールに転じ、ビルドアップに入ると、守備的MFの1人(広島の場合なら森崎和幸、かつての浦和レッズなら阿部勇樹)が最終ラインまで降りてきて、3バックの間に入り4バックを形成する。今日的に言うなら可変式3ー4ー2ー1だ。

 それを止め、根本的に性質の異なる4-2-3-1的4-4-2を布くに至った経緯について、森保監督の口から出た言葉は「臨機応変な対応」、「柔軟な対応」ぐらいしかない。欧州でこのような事態が起きれば、メディアは鋭く反応する。起きそうもないことが起きたとばかり、直ちに理由を問いただそうとする。これ以上の突っ込み所はないのである。監督にとっては、覚悟が求められる変更になる。

 臨機応変な対応。柔軟な対応で済まされる問題ではないのだ。判で押したように3-4-2-1を採用し、ある試合後の記者会見では「これから3バックは日本で流行りますよ」とまで言い切っていた広島時代の森保監督。当時の彼に頑なさはあっても、臨機応変さ、柔軟さはなかった。3-4-2-1に確信を抱いていた様子だった。

 それなのに、どうして方針を変えたのか。彼と3-4-2-1の強固な関係はなぜ崩れたのか。これを語らずに、次に進もうとすれば歪みは次第に大きくなる。監督の座は2022年11月まで持たないだろう。

 とはいえ、現在の布陣にも旧来の森保式3-4-2-1の幻影は残っている。具体的な部位は、その4バックの並びだ。森保式3-4-2-1は、前にも述べたとおり、マイボールに転じると、守備的MFが最終ラインに下がり、その3バックは4バックになる。この状態に現在の代表チームの4バック(4-2-3-1的4-4-2)は酷似しているのだ。

 森保式3-4-2-1から変化した4バックは、最終ラインに下がった可変式の守備的MFと、3-4-2-1の3バックの真ん中を務める選手の2人がセンターバック(CB)を形成し、3バックの両サイドが4バックのサイドバック(SB)役をこなす。

 注目すべきは、マイボールに転じると4バックの両SBに変化する選手のポジショニングだ。普段4バックを布くチームのSBより、基本ポジションが低いのだ。4バックのSBはマイボールに転じると、守備的MFと同じ位置、あるいはそれ以上の位置で構える。センターはほぼ2バックの状態になる。

 上級なチームはさらに、その2枚のCBが広い間隔を取ることで、両SBの押し上げを促す。森保ジャパンの4バックは、それに比べると腰がずいぶん重たい。全体的に後ろ目で構える。森保式3-4-2-1がマイボールに転じた際に形成される4バックの並びと酷似したデザインを形成する。布陣は変わっても、マイボールに転じた際の最終ラインの状況には大きな変化がうかがえないのだ。

 するとどういう現象が起きがちかと言えば、トップと最終ラインとの間が開く。中盤が間延びしてスカスカになる。就任4戦目のウルグアイ戦後半、森保ジャパンが陥った現象がまさにそれだった。レベルが高いか低いかと言えば完全に後者。褒められないサッカーの典型である。

 前線と後ろをいかに圧縮させるか。SBには高い位置を維持し、それぞれを繋ぐ接着剤の役割になることが求められる。

 それに加えて、日本期待の前線4人(大迫勇也、南野拓実、中島翔哉、堂安律)の中で、サイドアタッカー役を務める中島、堂安をサポートする役割も兼ねている。彼らが魅力的な存在として、試合でどれほど長い時間、輝けるかという問題に、両SBは誰よりも深く関与している。

 酒井宏樹、佐々木翔。先日のベネズエラ戦で先発したこの2人には、そうした意味で不満が残った。彼らが高い位置に進出し、中島、堂安とコンビネーションプレーに及んだ機会は幾度もなかった。

 特に左の中島は単独プレーが目立った。佐々木のサポートを得られず、孤立していた感があった。その姿は、3-4-2-1のウイングバックのようでさえあった。彼らを生かすも殺すもSB次第。しかしその立ち位置は低い。仕事量そのものが少なく見える。

 そこに攻撃的な4バックで戦った経験がほとんどない森保監督の弱点を見る気がする。SBをいかに機能させるか。現代サッカーにおけるこの生命線をどう改善し、活性化させるか。厳しい目を向けるべきポイントだと思う。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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