アジア大会初戦で露呈した森保式サッカーが日本をミスリードする恐れ

(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 ネパールと対戦したアジア大会グループリーグ第1戦。U-21監督としてすでに何試合か戦っている森保監督だが、日本代表監督と兼任になってからはこれが初めての試合。代表の今後を占う意味でも、森保式サッカーは注目された。

 ネパールは過去、日本と代表Aマッチを5度行っている。結果は0勝5敗、得点0、失点28。実力で日本に大きく劣る。5-0なのか6-0なのか。日本が何点差をつけて勝つかも見どころのひとつだった。

 しかし結果は1-0。決定的チャンスを外しまくったわけではない。シュートは20本放ったが、絶対に決めなければならないシュートを外したシーンはなかった。決定力不足ではなくチャンス不足。たまたま点が入らなかったのではない。もっと根深い構造的な問題が見て取れる。そこで「森保ジャパン白星発進!」なる、順調さをアピールする見出しを見ると、ダメな4年間の始動を見るような暗澹たる気持ちになる。

 森保氏が代表監督の座をどこまで維持できるか。はなはだ怪しいと言わざるを得ないが、そのゴールは一応2022年だ。監督の評価というのは、そこから逆算する形で下されるべきもの。この調子で進んで行ったら4年後どんなチームになるのか。4年先が難しいなら2年後でもいい。現状を見て今後の行方を推理するのが、メディアやファンの在り方だ。いま、その1-0という結果に悲観的になるのは、弱者に1点しか決められなかったからではない。

 日本サッカーの構造的な欠陥が集約された一戦といっても過言ではない。相手が引いて構えたこともあるが、パスは何本も繋がった。ある範囲では。

 3-4-2-1はこの日、森保氏が選択した布陣だが、パス交換はその布陣の型通りの範囲で行われた。後ろが広く、先に行くほど狭くなるまさに表記通りのクリスマスツリー型。ボールは後ろではよく回る。ボール支配率は必要以上に上昇する。だが3→4→2→1と、ゴールに近づくほど行き詰まる。「2→1」になると、大抵、相手にカットされる。パスの難易度が途端に上昇するためだ。

 相手は典型的な弱者。パスをカットしたところで、前進していく力はない。ボールを奪われても失点の心配はいらない。しかし、相手が強ければ、例えばベルギーならば、カウンターの餌食になることは明白だ。

 奪われる場所はほぼ真ん中。サイドではない。ピッチの中央はサイドに比べ自軍ゴールまでの距離が近い。奪われた瞬間、逆モーションになる選手も多く発生する。前回2014年ブラジルW杯で言うならばコロンビア戦だ。強者相手にボール支配率で上回りながら、奪われる位置がピッチの中央に偏っていたので、日本はそこそこ深い位置まで攻め込みながら、その度に反転速攻を食らった。

 パスの奪われ方、特に奪われる場所に問題がある。ネパール戦で起きた現象も同じだった。クリスマスツリーに似たその先細りのデザインを見れば、問題点は一目瞭然になるのだった。

 サイドを活用していないからだ。3-4-2-1の並び通り、両サイドはウイングバック各1人。彼らは孤立しがちで、高い位置まで深々と進入する環境にはない。サイドを意図して突く態勢にないのだ。よって、ボールは早い段階で中央に集まる。攻撃は見え見えのルートを辿ることになる。相手はその分、奪いやすくなる。

 例外は前半7分の得点シーンだった。右ウイングバック、長沼がゴールラインまで深々と進入。ゴールエリア近くに食い込んでから送ったマイナスの折り返しを、三苫がゴール正面から決めたプレーである。

 しかし繰り返すが、これは布陣の特性上、コンスタントに発揮しにくいプレーだ。サイドを有効に使え。両サイドをえぐり、深い位置まで入り込めという引いた相手と戦うときの鉄則を忘れ、日本はスペースのないピッチの真ん中をゴリゴリと、ドリルでこじ開けるように前進した。自らの先制ゴールをお手本とすることができなかった。

 パスサッカーといえば聞こえはソフトだが、行為としては強引だ。非効率極まりないサッカーの典型を90分間見せられると、時代を逆戻りしている気になる。

 森保監督は試合後、「選手にはもっとアピールして欲しい」とハッパを掛けたというが、1-0で終えた原因は、選手側より監督にある。あえて難しい設定を選手に課して戦った責任は大きい。これまでの日本代表の戦いから得た教訓が、学習効果として発揮されていない初歩的な失策である。これでは、いくら試合をこなしても選手は育たない。その監督としての資質を問いたくなる。

 西野ジャパンがロシアW杯で魅せたサッカーと、それはともすると似て見えるかもしれない。パスサッカーで一致しているように見える。プレーする選手と同じレベルのローアングルで眺めれば。

 しかし両軍が交わる攻防の図を俯瞰するならば、それぞれの差は歴然となるはずだ。俯瞰ではデザイン性に目が行く。2つの群れが交わった瞬間の化学反応が見て取れる。この模様を描いたときは必ずや悪い症状に陥るという傾向が浮き彫りになる。

 西野ジャパンはその点で優秀だった。過去6度戦ったW杯本大会の中で一番優秀なデザインをスタンドから俯瞰することができた。田嶋幸三会長はそれを「ああいうサッカー」とか「ジャパンズウエイ」とか「日本人らしいサッカー」などと曖昧な表現で語り、目指すはこの路線だとして、熟慮することもなく森保ジャパンを誕生させた。

 森保監督の志向が、西野さんがロシアW杯で魅せたものと大きく異なっていることが、はじめから(こちらには)分かっていたにもかかわらず。ネパール戦は、それが改めて確認されたに過ぎない。いまは無駄な時間を費やしている状態にある。

 どんなサッカーがしたいのかと問われ、「柔軟な対応ができる臨機応変なサッカー」と、代表監督就任記者会見で述べた森保監督。だが、ネパール戦で見せた采配に臨機応変さは、つゆも拝むことができなかった。無策。采配のレベルは低かった。そのうえ、苦戦の原因を選手に求めるならば、その評価はさらに下がる。

 森保式に適しているのは、ダイレクトプレーを多用するタテに速いサッカーだ。カウンターサッカー。ハリル式と言ってもいい。3-4-2-1は守備的な布陣。それでいながら、細かいパスを繋ぎたがるサッカーをする。ジーコジャパンに近いサッカーと言ってもいいだろう。それを日本式サッカーと自ら称し、この後も続けるならば、先は思い切り暗い。

 ピッチ上で起きている化学反応を、ベンチ脇にいながらも、俯瞰するような目で捉えることができるか。それができない監督は、よい監督とはいえないのである。

 見られているのは選手だけではない。それ以上に厳しい目が兼任監督に注がれていることを監督本人はもっと知るべきだろう。この日本人監督で本当に大丈夫なのか? 初戦を終えた段階で、すでに怪しい状況を迎えている。

 

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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