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激戦必至。W杯準決勝は好勝負になる要素だらけだ!

杉山茂樹スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ロシアW杯はここまで、ベルギー対日本をはじめ、面白い試合に遭遇する確率が従来の大会に比べて高い。番狂わせも多ければ、接戦、激戦も数多い。理由はいろいろと考えられるが、ひとつ確実にいえるのは気候だ。この時期のロシアは他の北半球の国より暑くない。ボルゴグラードなどの例外も存在するが、現地時間で21時からの試合ならば、不快指数は限りなく低い。

 準決勝の舞台は、フィンランドにほど近いサンクトペテルブルクと、ルジニキ(モスクワ)で、いずれも21時からだ。むしろ、肌寒いくらいのなかでの試合になる。サンクトペテルブルクに先乗りしている知人記者によれば、メディアセンターには暖房が入っているとのこと。この気候が、好勝負を後押ししてくれそうだ。

 サンクトペテルブルクで行なわれるフランス対ベルギー戦。

 大会前の下馬評で、フランスはブラジル、ドイツ、スペインとともに優勝候補に推されていた。4強を形成していたが、他の3カ国はすでに敗退。優勝候補として、フランスは唯一勝ち上がってきた国になる。

 だがここまでの5試合、いい試合をしたことはない。さすが優勝候補だけのことはあると納得させる、フランスの魅力が全開になる試合は、いまだ披露されていない。

 看板選手は19歳の10番、キリアン・ムバッペだ。そのウリはご承知のように速さ。とりわけ、アルゼンチン戦ではその本領を存分に発揮、勝利に貢献した。しかし、チームがその速さとどう向きあおうとしているのか。どう活かそうとしているのか。不明確な点が気になる。

 アルゼンチン戦がそうだったように、その速さに頼りすぎると、サッカーは雑になる。ペースを相手に奪われる。そのスピードは相手にとって十分脅威になるが、一方で、自軍にも悪い影響を及ぼす。周囲と折り合いがついていない。チームのなかでも暴れてしまっている感じだ。

 もうひとつ目につくのは、中盤のポール・ポグバのパフォーマンスがいまひとつということだ。この選手は、つい何年か前までは現在のムバッペ的な存在だった。フランスの中心選手というよりも、欧州を代表する選手として大きな期待を集めていた。だがいま、当時の魅力はどこへやら。名前の大きさでスタメンを維持しているものの、ごく平凡な選手になり下がっている。フランスに勢いを感じない理由である。

 とはいえ、あいかわらず優勝候補筆頭の座を維持している。

 チームには、速すぎるムバッペとは対照的な技巧派FWのアントワーヌ・グリーズマンがいる。90分間、力をコンスタントに発揮しにくいムバッペに対して、こちらは歯車が合っている。センターフォワードのオリビエ・ジルーも、やや"うどの大木タイプ”のきらいはあるが、効いている。

 中盤の底にはエンゴロ・カンテが控え、CBにはレアル・マドリードとバルサで守備の要として活躍しているラファエル・ヴァランとサミュエル・ウムティティが、デンと構える。不安視された両サイドバックも、若手のリュカ・エルナンデスとバンジャマン・パバールが台頭。及第点のプレーを披露する。メンバーは他のチームに比べるともっとも豪華だ。

 優勝候補に推さざるを得ないチームというべきだろう。問題はこの境遇をフランスがどう受け止めるか、だ。受けて立ってしまうと危ない。特にベルギー戦は。

 ベルギーにとって、フランスは頃合いのいい格上。おあつらえ向きの相手だ。隣国であるフランスを大国とするならば、ベルギーは小国。一方で現在のサッカーの力は、国力の大小関係とは対照的に、大きく接近している。こうした状況のなかで、両者が大きな舞台で対戦するのはこれが初。ベルギーのモチベーションは相当高いと考えるべきだろう。

 準々決勝のブラジル戦でベルギーは、従来の3-4-3を4-3-3に変更して臨んだ。「後ろ体重」を「前体重」に変更したといったほうがわかりやすい。強者ブラジルに対して、怯(ひる)むことなく攻撃的な姿勢で打って出た。

 ロメロ・ルカクを右、エデン・アザールを左、そしてケビン・デブルイネをその間のトップ下気味に配置。サイドを制す者は試合を制すとばかり、ブラジルの両サイドバックに高い位置からプレッシャーをかけた。この攻撃的な戦法が奏功し、ブラジルに後手を踏ませることに成功した。

 フランス相手にはどうするのか。ブラジル戦と同じ作戦でいったほうが、フランスには嫌なはず。そしてそのほうが、試合も面白くなる。ベルギーが無欲を貫き、チャレンジャー精神を存分に発揮すれば、両者の関係は逆転する可能性が高い。なにより注目はベルギーの布陣だ。

 ルジニキで行なわれるもうひとつの準決勝、クロアチア対イングランドは、イングランドが若干優位か。メンバー的に優勢なのはクロアチアだが、イングランドのほうがクロアチアに比べて余裕がある。

 イングランドはグループリーグを早々に突破したため、第3戦でメンバーを入れ替える余裕を持てた。決勝トーナメント1回戦のコロンビア戦で見たイングランドは、そのぶん選手の動きがキレていた。このコロンビア戦こそ延長PK勝ちという長い戦いだったが、準々決勝のスウェーデン戦は90分の決着(2-0)だった。

 対するクロアチアも、グループリーグ3戦目でメンバーを入れ替えているが、決勝トーナメントでは2試合連続で延長PK戦に突入。イングランドにコンディション面で劣る。

 イングランドのサッカーは、けっして洒落ているわけではないが、どこよりも直進性がある。ハリルホジッチ的といったら、もはや流行らない言い回しになるが、ボール支配にこだわらない、縦に速い攻撃が武器だ。問われるのはコンディション。選手の身体にキレがあるうちは、相手の嫌がるサッカーができる。

 過去の栄光を背負っていない点もいい。イングランドはここまで、ほぼ無欲で勝ち上がってきた。準決勝でも、そのスタンスが貫けるか。英国ブックメーカー各社は、イングランド有利と予想する。そして、クロアチアに勝てば決勝だ。欲が出て、戦い方が慎重になると危ない。イングランドの魅力は消える。荒削りで泥臭いサッカーを、準決勝という晴れの大舞台で貫けるか。

 クロアチアは準々決勝で、内容的にはロシアに90分で勝てたはずの試合を、延長PK戦に持ち込まれた。疲労感の残る勝ち上がり方をした。そのうえ、クロアチアの切り札的な選手である右サイドバック、シメ・ブルサリコも、延長戦で大腿部の裏を抑えながら退場する悲劇に見舞われた。

 彼が出場できるか否かは大きなポイントだ。イヴァン・ラキティッチ、ルカ・モドリッチ、それにサイドバックのブルサリコが、中盤的な動きでゲームをコントロールするサッカーは、見栄えもいい。日本が目指したいピッチを広く使ったパスサッカー。好感度の高いサッカーをするのだが……。

 ブックメーカー各社の優勝予想は、フランス、イングランド、ベルギー、クロアチアの順で、均等間隔に並ぶ。1番から4番まではわずかの差。どのチームにもチャンスはあると分析している。まさしく混戦だ。

 繰り返すが、準決勝も試合は面白くなるはず。必見である。

(集英社 webSportiva 7月10日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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