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1人で全得点も、ポルトガルは C・ロナウドのワンマンチームにあらず

杉山茂樹スポーツライター
モロッコ戦、決勝ゴールを決めたC・ロナウド(写真:ロイター/アフロ)

 ポルトガルがモロッコを1-0で下し、イランに1-0で勝利したスペインととともに、勝ち点4でB組の首位に並んだ。

 2年前、フランスで開催されたユーロ2016。ポルトガルはこの大会を制した現欧州チャンピオンだ。しかし、ユーロ2016では出だしから好調だったわけではない。ハンガリー、アイスランド、オーストリアと組んだグループリーグは3戦3分で3位。ユーロはこの大会から、本大会を24カ国で争うことになったため、決勝トーナメントを争う16強入りの可能性は、計6組のグループリーグの3位チームにもあった。

 ポルトガルは3位のチームのなかで3番目の成績(全体では15番目の成績)でグループリーグをきわどく突破。ベスト16入りを果たした。そこから次第に調子を上げていき、決勝では前評判の高かった開催国フランスを撃破。戦前の予想を覆す優勝を飾った。

 ポルトガルといえばクリスティアーノ・ロナウド。グループリーグの初戦で対戦し、3-3で引き分けたライバル国、スペインとは対照的だ。絶対的なエースはいないものの、全員が高い知名度を持つスペイン。これに比べるとポルトガルはワンマンチームのように映る。

 確かにC・ロナウド以外の選手の知名度は落ちる。しかし、ユーロ2016の決勝ではC・ロナウドを前半早々にケガで欠いたにもかかわらず、難敵フランスに勝利している。実はポルトガルの魅力はチームワークにあるのだ。全員で戦う術(すべ)をどこよりも高く備えている。

 光るのはフェルナンド・サントス監督の采配だ。この監督はユーロ2016のグループリーグで、突破が危ぶまれる状況でもベンチにいる選手、全員を使おうとした。サブ、スタメンの境界がないメンバー構成で戦い、つまり、戦力がある程度落ちることを覚悟の上で戦った。

 決勝までの計7試合で、GK以外のフィールドプレーヤー20人全員を起用。その末の優勝だった。逆算する能力が高い監督なのだ。おそらく今回も、逆算の始点は7試合目になっているはずだ。

 その2試合目にあたるモロッコ戦。F・サントス監督は、初戦とスタメンを3人入れ替えて臨んだ。加えて、メンバー交代で送り出した3人も、スペイン戦には出場していない選手だった。

 つまり、起用された選手はスペイン戦、モロッコ戦を通して17人。フィールドプレーヤーに限れば20人中16人だ。出場していない選手は、2試合を消化した段階ですでに4人しかいない。

 この日、ベスト16入りを決めたウルグアイのオスカル・タバレス監督も、2試合で17人の選手を使っている。さらに言えば、スペインのフェルナンド・イエロ監督は16人で、開催国ロシアの監督、スタニスラフ・チェルチェソフは15人となる。上を狙おうとする監督は、このグループリーグを、誰が戦力として使えるかを見定める期間に充てようとするものだ。

 第1戦に勝利して余裕があるウルグアイ、ロシアはともかく、第1戦を引き分けたポルトガルにとって、このモロッコ戦は絶対に勝たなければならない一戦である。まさに監督の力量が問われる瞬間だった。計算ができるメンバーで手堅く勝利を狙いにいくか。リスクを負ってでも逆算の発想を貫くのか。スペイン戦の内容はけっして悪くなかった。並の監督なら迷ったに違いない。

 そのモロッコ戦。ポルトガルの試合内容はよくなかった。開始4分。ショートコーナーから、C・ロナウドがヘッドで叩き込んだまではよかった。しかし、それ以降は、勝ち点3が目の前にぶら下がった状態にあるためか、本来の魅力を出すことができなかった。歯車は残りの80分以上、狂いっぱなしだった。

 それでも、ポルトガルの評価が下がることはない。危ない橋をきわどく渡りながら勝ち進んでいったユーロ2016の戦いぶりを見ているからだ。

 さらに言えば、相手のモロッコが強かった。こちらは初戦でイランにオウンゴールを決勝点とされ、0-1で敗れていた。ポルトガルに敗れれば、その瞬間、大会2戦目にして早くもグループリーグ落ちが決まる。モロッコにとっては絶対に負けられない戦いだったのだ。

 早々と先制ゴールを決めたばかりに、ポルトガルはそれを受けて立つことになった。GKルイ・パトリシオは少なくとも、決定的なセーブを2本見せている。終了間際にハキム・ツィエクのシュートを、身を挺してブロックしたセンターバック、ジョゼ・フォンテの好守も光った。

 好印象を残しながら、モロッコはグループリーグ敗退が決まった。悪くない終わり方をした。A組でこの日、ロシアに敗れ、同様にグループリーグ敗退が決まったエジプトもそうだが、北アフリカ系のサッカーのレベルは上がっている。アフリカ全体のレベルが頭打ちの状態にあるなかで、この地区は例外だ。見ていて面白い。プレーが熱い。それでいて、思いのほか暴れない。今回で言えば、イランもこれに近いサッカーを見せているが、アジア勢に乏しいエネルギッシュな魅力がある。

 そして勝ち点4でスペインと並ぶことになったポルトガル。次戦の相手はイランだ。手を焼きそうなムードが漂うが、F・サントス監督は、それでも逆算の発想を貫くのではないか。出場選手の数が増えれば増えるほど、そのマックス値は上昇する。

 この日に挙げた1ゴールと開幕戦のハットトリックで、計4得点となり、得点ランキングトップに立ったC・ロナウドに目は向きがちだが、「ポルトガルの真髄はチーム力にあり」なのだ。ワンマンチームのように見えて、実はその逆。このギャップが、ポルトガルの価値を高めている。

(集英社 webSportiva 6月21日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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