西野Jの矛盾は守備的なのに楽観的。強豪国から、ボールは誰がどこで奪うのか。

本田圭佑 写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

 西野ジャパン。発表された23人のW杯初戦コロンビア戦時の平均年齢は28.3歳で、2014年ブラジルW杯にあてはめると、32チームの中2番目の高齢チームになる(1番は28.5歳のアルゼンチン。ザックジャパンは26.7歳で18番目)。

 W杯に出場した歴代日本代表に照らしても、2010年南アフリカW杯に臨んだ岡田ジャパン(27.8歳)を上回る過去最高齢の集団だ。30歳以上の選手の数計8人も過去最多。日本代表の今後を考えたとき、これは危ない話だ。西野朗監督は経験値を欲したと言うが、次回の23人が、経験値の低い集団となることが確定したも同然の判断なのだ。

 それは今回、”勝つしかなくなった”ことを意味する。結果が出なければ救いはない。逃げ道はない。自ら退路を断った格好だ。前回の最高齢チーム、アルゼンチンは準優勝を飾って何とか面目を保ったが、ロシアW杯の予選では案の定、大苦戦を強いられている。

 発表の会見で、西野監督の傍らにいた関塚隆技術委員長は、日本サッカー界の発展を総合的に考えなければならない協会の技術委員長だ。代表チーム付きではない。西野監督が経験値重視に走るなら、それに待ったを掛けるべき立場にある。もちろんそれは、田嶋幸三サッカー協会会長にもあてはまる。

 協会首脳3人が、揃って目先の結果に走ってしまった格好だ。

 井手口陽介、三竿健斗、浅野拓磨の3人を落選させた西野監督は、発表の席上で日本の若手選手に対し、「経験値の高い選手を抜いて欲しい」と注文をつけている。確かに、日本の若手は育っていない。いい選手の絶対数は、ひと頃に比べ大幅に減少している。

 だが、これは若手選手個人の責任というより、協会が構築した育成システムに起因する。それが機能していないという意味なのだ。いい指導者なしに、いい選手は生まれない――とは、世界のサッカーの常識である。

 そして、その育成の責任者を長年にわたり務めてきたのが田嶋会長だ。技術委員長時代には、代表のある試合のオフィシャルプログラムに掲載されたインタビューで、日本の育成システムについて「世界のトップ4のレベルにある」と自画自賛していた。過大評価、事実誤認もいいところだ。

 若手に好素材が少なくなったことは、いま急に判明したわけではない。少なくとも危険な兆候は、10年近く前から見えていた。ザックジャパン後は、多少、無理をしてでも若手を登用しなければならない4年間だったのだ。

 だが、ハリルホジッチはそれを怠った。もはや若手と呼べない大島僚太でさえ、ハリルは試すことをためらった。当時の西野技術委員長がハリルに、積極的に登用してほしいと注文をつけたという話も聞かれない。手をこまねいていたのだ。若手が育たない責任は大人にある。前技術委員長、西野監督もそのひとりなのである。

輝きを失って久しい香川真司
輝きを失って久しい香川真司

 ガーナ戦後、そして23人のメンバー発表の会見で、饒舌とは言えない西野監督の口から複数回、口をついて出た台詞が「対応力」と「中盤」だった。

 ガーナ戦に3バック(3-4-1-2)で臨んだ理由について、西野監督は対応力を身につけるためだと答えた。「本番では押し込まれることが予想される。ハリル時代に4-3-3と4-2-3-1しかやってこなかったので、対応力を身につけるために3-4-2-1をテストした」のだと。「ひとつのパターン、ひとつのシステムに固執するより、そういうオプションを持たせたい」とも。

 その対応力には、守備的サッカーも辞さないという意味が含まれている。引いて守ることを「対応」と称しているのだ。

「強い相手に対応するために、3(バック)も4(バック)も5(バック)もできるようにしておきたい」と言われれば、もっともらしく聞こえるが、その対応方法は、けっして今日のスタンダードではない。ジーコジャパン時代(いや加茂ジャパンぐらいかもしれない)に逆戻りしたような前時代的発想だ。

 強者を相手にしたとき後ろに下がって守れば、ボールを奪う位置は必然的に低く(後方に)なる。そこからボールを繋いで前に出ようとすれば、相手のプレスを長時間浴び続けることになる。数的不利な状況に陥っているサイドは使いにくい。となれば、攻撃のルートは真ん中になる。逆に危ないのだ。

 低い(自軍ゴールに近い)位置、しかもサイドより直線距離で自軍ゴールが近い真ん中付近でボールを失えば、大ピンチ到来。失点の危機だ。それを恐れれば、ハリルジャパンのように、大きく縦に蹴り込まざるを得なくなる。

 ところが西野監督は、後ろで守ることを辞さない一方で「中盤」も大切にしようとする。

「中盤の攻守で主導権を取れるか。中盤でボールを動かし、保持することができれば、当然サイドアタックの回数も増えていくはずだ」と、「中盤」を強調した。真ん中を支配すればゲームが作れるとの考え方を示した。

 だが、後ろで守れば、中盤は作れない。対応力と称する守備的サッカーを重視するのか。中盤サッカーを重視するのか。この2つを同時に叶えることは、理屈的に不可能なのだ。

 繰り返すが、西野式の対応で強者に向かえば5バックになる。相手に両サイドを制されることになる。サイドは真ん中に比べ、プレスがかかりにくいので、相手のボール支配率は上昇する。ゲーム支配を許すことになる。「中盤を制するものは試合を制す」とは、サッカーの格言のひとつだが、プレッシング全盛の現代、それは「サイドを制するものは試合を制す」に変化した。

 しかし、西野監督は真ん中に固執する。真ん中まずありき。サイドは二の次。真ん中あってのサイドとの考え方を示す。3-4-2-1なる布陣の採用にもそれは表れている。この布陣におけるサイドアタッカーは両サイド各1人のみ。両サイドで数的不利に陥るので、クロスを上げようにも、ゴールライン深くに進入していきにくい。その結果、後方からプラスの度合いがきつい低レベルの象徴というべき「放り込み」をせざるを得なくなる。

 同じ3バックでもアギーレが実践した4-3-3からの可変式3-4-3、中盤フラット型3-4-3、あるいは中盤ダイヤモンド型3-4-3(バルセロナ、アヤックス、マンチェスター・シティ)とは、その点で大きな開きがある。

 日本の中盤選手は、サイドの協力があまり得られないなか、強者から厳しいプレッシャーを浴びながらゲームを作ることを求められている。

浮沈のカギを握る大迫勇也
浮沈のカギを握る大迫勇也

 ガーナ戦の大島僚太は及第点のプレーを見せた。西野監督もメンバー発表会見の席で「センターでボールをよく動かしていた」と評していた。期待を寄せる選手であることが伝わってきた。こちらもそれについては同感だ。

 ボール操作術に関しては大島が、現在の日本ではナンバーワンだと思う。大島と同学年で、ガーナ戦に交代出場を果たした柴崎岳も、大島同様、技術系。両者がピッチに立てば、そのパス交換に期待が募る。

 しかし、そのボールは誰がどこでどうやって奪うのか。西野監督には、相手ボール時の言及がない。ボールを奪う位置について、奪われる位置についての言及もない。発せられるのはマイボール時の話ばかり。W杯本番では強者と3試合戦うというのに、とても楽観的に聞こえる。5バックで「対応」すれば、それでオッケー。問題は解決すると言わんばかりだ。

 大島、柴崎等、日本が誇る技巧派の中盤が活躍しにくい環境を、西野監督自身が作り出そうとしているようにさえ見える。

「中盤」と「対応力」。それぞれに説得力がないうえに、両者は矛盾した、整合性の低い関係にある。ガーナ戦を観戦し、メンバー23人の名前を聞き、そしてそれぞれの会見で、西野監督から多くの話を聞かされたが、率直に言って「古いな」との印象を抱いた。

 W杯の舞台で、「対応力」の象徴であり、大島、柴崎の活躍の機会を奪いそうな3-4-2-1だけは、見たくないのである。

(集英社 webSportiva 6月1日掲載原稿「W杯メンバー23名に思う。強豪国から、ボールは誰がどこで奪うのか」に加筆)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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