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大迫の「9.5番」起用で劇的変化を。西野ジャパンの選択肢を探る

杉山茂樹スポーツライター
実はポリバレントな大迫勇也(真ん中)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 梅雨を思わせるしつこい雨がやむことなく降り続いていた。西野ジャパン合宿3日目。ピッチには招集メンバー27人のうち15人が姿を現したが、故障を抱える乾貴士と岡崎慎司は別メニューで、この日合流した3人(井手口陽介、遠藤航、槙野智章)も、身体慣らしに終始した。

 全体練習に参加したのは吉田麻也、酒井高徳のDF2人と、香川真司、本田圭佑、宇佐美貴史、原口元気、浅野拓磨、武藤嘉紀、大迫勇也のアタッカー陣7人。乾、岡崎が調整中とはいえ、アタッカー陣はすべて合宿入りしたことになる。

 そこは競争が最も熾烈なポジションだ。W杯の23人の枠から外れるのは、全9人中、少なくとも2人。こうした前提にもとづき、この日のメイン練習であるセンタリング&シュートに目を凝らした。アタッカー7人を右、真ん中、左に分け、真ん中の選手がクロスに飛び込むごく一般的な練習である。

 7人の適性は一般的にはこう考えられる。

 右=本田、(浅野)、真ん中=大迫、武藤、浅野、左=宇佐美、原口、香川。

 香川の適性は4-2-3-1の1トップ下がベストと思われるが、3FWとなれば左。別メニューの乾は左。岡崎は真ん中だ。

 前にも述べたが、右候補である本田の優位は明らかだろう。一方、左は激戦だ。中島翔哉が落選した理由でもある。

 西野監督はメンバー選考に際し、ポリバレントという言葉を多用した。複数のポジションをこなすことができる多機能な選手の優位性について、その点だけは珍しくハッキリと言い切った。

 採用する布陣が4-2-3-1なのか4-3-3なのか、はたまた4-4-2なのか定かではないが、4-2-「3-1」なら「3-1」のところを、試合中、状況に応じて動かしたがっている口ぶりだった。

 実際、たいていのチームのメンバー交代は「3-1」に集中する。後ろ目に位置する選手より、前目に位置するアタッカー陣を動かすことが、オーソドックスな采配だ。

 西野監督もそれに従おうとする様子である。センタリング&シュート。大迫こそ真ん中の位置に固定されたままだったが、その他の選手は右でも左でもプレーした。適性が左にありそうな選手も、右からクロスを送り込み、右に適性がありそうな選手も、左からクロスを送り込んだ。

 人形がディフェンダーという緩い設定の中で行なわれた練習ながら、西野監督が各選手の適性をチェックするいい機会、まさにテストになっていた。

 左、真ん中、右。対応の幅が広い選手は誰か。2トップ、3トップ、1トップ。いずれにもフレキシブルに対応できる選手は誰か。合宿初日の練習後、西野監督は「ポリバレント」がひとり歩きしていることを察してか、「もちろんスペシャリストも必要だ」と述べたが、それはどちらかと言えば、後ろで構える選手にあてはまる。

 アタッカー4人の中で、動かせない選手の数が多いほど、交代の選択肢は減る。全員がすべてのポジションをこなすことができれば、選択肢は膨らむ。ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手を投入する戦術的交代も行ないやすくなる。戦術的交代が決まれば、攻撃の目先は大きく変わる。相手を驚かす効果がある。

 布陣が4-2-「3-1」だとしたら、「3-1」の先発を飾るのは誰で、行なわれるはずのメンバー交代は誰になるのか。

 本田は右に適性があると先述したが、左利きなので左も可だ。2014年南アフリカW杯では1トップも務めている。ポリバレント度はナンバーワンだ。それに迫るのが岡崎だ。本職の真ん中に加え、右も左もできる。浅野は右と真ん中、2トップにも対応できる。また、武藤も浅野と同じレベルを維持している。

 この次にランクされるのは宇佐美だ。左と右。1トップ下もできなくはない。ただ、彼に限らず、代表で試したケースは少ない。西野監督は、ポリバレントな選手はリストの中にたくさんいると述べたが、選手の感覚が錆びついている可能性がある。

 左の乾は右も可能といえば可能だが、なんとかこなせる程度。同じく左の原口は、乾以上に非多機能的だ。極めつけは香川だ。プレーする場所は1トップ下に限られる。ザック時代は4-2-3-1の3の左を任されたが、最後までポジションに適合しなかった。

 本田>岡崎>浅野=武藤>宇佐美>乾>原口>香川。多機能性を順に表せばこのようになる。

 大迫はセンターフォワード。ストライカーというスペシャリストの扱いになるのだろう。実際、サイドに適性があるとはいえないが、キープ力はある。ディフェンダーに背を向けたポストプレーがなにより得意だ。だとすれば、1トップ下という選択肢も残される。1トップに岡崎や浅野を据え、その下で構える9.5番的な選手としての可能性を大迫は持ち合わせているのだ。

 4−2−3−1ならば、4人のアタッカーの中で、最も外したくない選手だとは、こちらの大迫評だが、もし彼に9.5番(1トップ下)が務まれば、見えてくる世界は大きく変わる。変化の幅は大きく、バラエティ豊かになる。戦術的交代も行いやすくなる。

 さらに、西野監督は「MFのリストに載っている選手でも前線に入ってくる可能性はある」とも述べている。これに該当する選手は誰かといえば柴崎岳だ。所属のヘタフェでは2トップの一角でプレーしたり、4-4-2のサイドハーフでプレーしたり、鹿島時代以上に多機能性を発揮している。アタッカー兼MFとなれば、貴重な役割を担うことになる。

 アタッカーを前線にどう配置するか。戦術的交代をどこまでフレキシブルに行なえるか。これこそが西野ジャパンの浮沈のカギを握る大きな要素だと、雨の練習を見ながら、強く確信するのだった。

(集英社webSportiva5月24日掲載原稿=本田>岡崎>浅野=武藤…。 西野ジャパンの「ポリバレント度」を判定ーーに加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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