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レアルは「ひどい目にあったユーベ戦」を CL準決勝対バイエルン戦の教訓にできるか

杉山茂樹スポーツライター
CL準々決勝対ユベントス戦で際どい勝利を飾ったレアル・マドリード(写真:ロイター/アフロ)

 バイエルンとレアル・マドリードを優勝候補とすれば、ローマとリバプールはダークホース。4月24、25日(現地時間)に第1戦が行なわれるチャンピオンズリーグ(CL)準決勝は、組み合わせ抽選の結果、ダークホース同士、優勝候補同士の対戦になった。リバプール対ローマ(24日)。バイエルン対レアル・マドリード(25日)。すなわち、2試合とも実力伯仲の戦いだ。

 準々決勝でマンチェスター・シティを破ったリバプールは、プレミアの他のCL常連クラブ(マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナル)にはない特性がある。扱いは常にダークホース。優勝候補ではないことだ。

 マンUはビッグクラブ。チェルシーは成金クラブ。アーセナルはCLでも強者のイメージを残していた。2004~05シーズンに優勝し、その後CLの常連になった頃でさえ、リバプールは下馬評でアーセナルに後れを取っていた。両者の間には見えざる境界線が引かれていた。

 言い換えると、マンU、チェルシー、アーセナルには、リバプールにはないプレッシャーがかかっていた。アーセナルなどは優勝候補と言えないようなときでも、そちら側に立たされていた。最近のマンCもしかり。CLでは決勝にさえ進んだことがないのに優勝候補に推されてしまう。受けて立つことになる、その立ち位置に不幸を抱えている。

 マンCが、実力の割にダークホースを気取れるリバプールに、準々決勝、通算スコア1-5で敗れてしまった理由も、まさに両者の立ち位置に起因していた。

 しかし、準決勝で対戦するローマに、リバプールはその特異性を発揮できるだろうか。

 今度はCLにおける”身分”で上回るのは、むしろリバプールだ。格上のマンCを倒したノリで戦いたかったのは、ローマではなく、バイエルン、レアル・マドリード相手だろう。その牙は、強者に向けられてこそ鋭さを発揮する。

(左から)サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、モハメド・サラー。リバプールの最大の武器は前線3人の縦への推進力だ。ダークホースという立ち位置に、そのスタイルはピタリとはまっている。彼らがどれほど縦に走れるか。俗に言うショートカウンターをどれほど決めることができるか。

 布陣は4-3-3。これはローマも同じだ。こちらは1トップのエディン・ジェコにボールを預けながら、ボールを展開していくマイルドなサッカーだ。しかし、それでいながらバルサに打ち勝った。監督のエウゼビオ・ディ・フランチェスコは突如、3-4-3のバルサ型というべき3バックを採用。1-4で迎えた準々決勝第2戦に臨み、見事、大逆転勝利を飾った。フロック勝ちではなく実力勝ち。必然を感じる勝利だった。この自信は大きい。

 準決勝はユルゲン・クロップ対ディ・フランチェスコの監督対決といっても過言ではない。勝利を収め、決勝進出を決めれば、監督としてワンランクアップは必至。その色気をどれほど抑え、ダークホースの立場を貫けるか。

 一方のバイエルン対レアル・マドリード。こちらは、勝ったほうが優勝に大きく近づく、まさにビッグマッチだ。昨季は準々決勝で対戦。レアル・マドリードが延長戦に及ぶ激闘を制したが、今回はその再戦となる。

 バイエルンは昨季のこの一戦に限らず、ここ数シーズン、必ず終盤の大一番でスペイン勢にやられている。苦手にしているようにさえ見える。準々決勝の対セビージャ戦(通算スコア2-1)も、そう感じずにはいられない試合だった。他のブンデスリーガのクラブにはないうまさに面食らい、持てる力をフルに発揮できなかったという印象だ。

 バイエルンの悩みは、バイエルンを追う2番手との差が大きすぎるというブンデスリーガの特殊事情にある。毎シーズン、この時期にしか大一番を体験できないハンディをどう克服するか。ドイツ王者がレアル・マドリードに対し、チャレンジャーに徹することができるか、だ。受けて立って苦戦したセビージャ戦を教訓にできるか。

 レアル・マドリードは、準々決勝第2戦でユベントスに思わぬ返り討ちに遭った。アウェーでの第1戦0-3の勝利から、3-3に追いつかれ、延長まであと数十秒という段まで追い込まれようとは、予想だにしていなかったはずだ。

 この試合は、ユーベがクラブ史上過去最高ではないかと言いたくなるほど、文句なしのサッカーを展開したこともあるが、レアル・マドリード側にも問題はあった。

 このチームが苦戦する原因はハッキリしている。誰をピッチに送り込むか、だ。中盤系のイスコを起用すれば、カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチと合わせ、中盤系の選手は4人になる。自ずとFWは2人、2トップになる。そして中盤4人はいずれも真ん中系。組ませるなら否応なく中盤ダイヤモンド型になる。

 だが、その並びには非効率性が宿り、たいていうまくいかない。試合の途中から中盤1人を落とし、サイドアタッカーを入れた4-3-3、あるいは4-2-4的な4-4-2に布陣の変更を余儀なくされる。サッカーの効率性は、断然、後者の方が高い。

 ユーベ戦もそうだった。その中盤系の4人をダイヤモンド型に並べた4-4-2は、出だしで後手を踏み、相手を勢いづかせることになった。ジネディーヌ・ジダンが後半開始と同時という早いタイミングで、布陣と選手を代えたのはその証拠だ。

 ピッチに送り込んだのはルーカス・バスケスとマルコ・アセンシオの両ウイング。ベンチに下げたのは、クリスティアアーノ・ロナウドと2トップの一角を組んでいたガレス・ベイルとカゼミーロだった。

 つまり、レアル・マドリードの中盤は、以降、イスコ、モドリッチ、クロースの3人になった。イスコを残し、アンカーのカゼミーロを落とした。イスコとキャラが被るのはモドリッチ。バランスを考えれば、ベンチに下げるべきは本来、このどちらかになる。最後まで、危なっかしく映った原因だ。

 バイエルン戦でジダンは選手をどう並べるか。バイエルンは、ユーベ以上の実力派だ。非効率性を露呈させれば、それはそのままスコアとなって現れる。

 注目はなにより、両ウイングを置くか否かだ。バイエルンにはアリエン・ロッベン、フランク・リベリーという準バロンドール級の両ウイングがいる。後手を踏めば、サイドで主導権を持っていかれる可能性が高い。まずは、両軍のスタメンに目を凝らしたい。

(集英社 webSportiva 4月14日掲載に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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