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あえて言う。国内最高のSB、 車屋紳太郎と西大伍は「海外組」に勝る

杉山茂樹スポーツライター
車屋紳太郎(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 近代サッカーでは「サイドバック(SB)が活躍したほうが勝つ」「SBが活躍するサッカーのほうが勝ちやすい」――とは、何人もの評論家、指導者から直(じか)に聞かされた言葉だ、欧州において。監督は、SBをいかにして活躍させるかに、まず頭をひねろうとする、と。

 6月にロシアW杯に挑むハリルジャパン。SBは、左が長友佑都(ガラタサライ/トルコ)、右が酒井宏樹(マルセイユ/フランス)という両者がスタメンを務める。

 活躍がコンスタントなのは長友だ。何より、それぞれが構える平均的な高さが違う。酒井宏は後方待機が目立つ。2人のセンターバック(CB)とともに、最終ライン付近に位置することが多い。

 ハリルホジッチ監督のサッカーは、よく言えば縦に速い。前線にロングボールを蹴り込むことを辞さないサッカーだ。言い換えればラフ。ボールを失いやすいサッカーだ。

 両SBの2人がそろって高い位置を取れば、相手にとってその背後は、確かな狙いどころになる。酒井宏が引いて構える理由だと思われるが、それでは古いサッカーに陥る。SBの活躍が期待できないサッカーになる。

 事実、日本の右サイドからの攻撃は、チャンスメークという点で左に比べて数段劣っている。言い換えれば、相手に前に出てこられやすい(プレスのかかりにくい)状況を作り出している。

 機を見て攻撃に参加する、いわば遊軍と言われてきたSBだが、その域にとどめておくとサッカーの質は上がらない。望まれるのは、右SBも前に出ていきやすいサッカーであり、コンスタントに攻撃に絡むサッカーだ。

 Jリーグで昨季、最も両SBが活躍するサッカーを見せたのが、優勝した川崎フロンターレだ。そのサッカーを語ろうとすれば、まずその短めのパスワークが取り沙汰される。「パスをつなぐサッカー」として括(くく)られる。両SB、左の車屋紳太郎と右のエウシーニョの存在意義は、つい後回しになる。

 だが、これは本来、パスをつなぐサッカーとセットで語られるべきモノだ。彼らなしでは"川崎らしさ"は生まれない。優勝はなかったと断言できる。2人そろってJリーグのベスト11を受賞したことは、きわめて妥当だと言える。

 昨年10月のキリンチャレンジカップ、ニュージーランドとハイチと対戦した際に日本代表入りした車屋は、途中出場したハイチ戦で、敗戦を免れる同点ゴールをアシストした。

 同12月に行なわれた東アジアE-1選手権でも、3試合中2試合に先発。長友を追いかける存在であることをアピールした。

 長友の利き足は右。対する車屋は左だ。

 また、右SBと左SBの両方をこなして、代表の控えに回っている酒井高徳(ハンブルガーSV/ドイツ)は右利き。左SBでプレーするときは、左利きのような構えでボールを持つことができる器用さを売りにするが、その前で構える乾貴士(エイバル/スペイン)、原口元気(デュッセルドルフ/ドイツ)は、いずれも右利きだ。

 左サイドで構える2人のうち、どちらか1人は左利きが望ましいという一般論に照らせば、酒井高、さらには長友より、車屋は優位な立場にいることになる。

 小さくて俊敏。神出鬼没さも兼ね備える長友。ミスも少なく安心して見ていられる数少ない選手ながら、活力は往年に比べ低下した。プレーが圧倒的ではなくなっている。左利きのSBがスタメンを張るメリットと今後の日本代表を考えると、車屋を推したい気持ちになる。

 問題があるとすれば、その守備力だ。ハリルホジッチは実際、その点を必要以上に重視しそうな、率直に言えば守備的な監督だ。車屋はこの障壁をクリアできるか。

 一方、右SBの強化は、左以上にハードルが高い。ただでさえ守備的な右を攻撃的に転じさせることは、ハリルホジッチにとっては大きな決断になる。

 だが、右にも車屋と同じぐらい攻撃が期待できるSBを置かなければ、そのサッカーに大きな変化は生まれない。よりよいサッカーは期待できない。

 探るべきは、川崎におけるエウシーニョ役だ。後方待機ではなく、攻撃に絡めるSB。

 昨季のJリーグベスト11に話を戻せば、ディフェンス4人のうちSBが3人を占めるという不思議な人選だった。重なっていたのは右SB。エウシーニョとともに選ばれたのは、鹿島アントラーズの西大伍だった。

 縦への推進力という点ではエウシーニョに劣るが、周囲との絡みはエウシーニョ以上。西は周囲と絡みながら、前進していくジワジワ型のSBだ。

 SBの攻撃参加と言えば、オーバーラップ。後方からタッチライン際を長躯疾走する姿を想像させるが、これは(ハリルジャパンの酒井宏についてはともかく)守備的MFとほぼ同じ、高い位置で構える現代のSBには適さない言い方だ。

 今やSBは、より中盤的になっている。例えば、4-2-3-1で言えば、マイボールに転じると布陣は、2-4-3-1同然に様変わりする。

 西のプレーはまさに中盤的。現在30歳ながら、Jリーグにおいては最も今日的なSBと言っていい。

 昨季のJ1最終戦。鹿島はジュビロ磐田に0-0で引き分け、川崎に逆転で優勝をさらわれた。特に後半、圧倒的に押し込みながら、1点が奪えず涙を飲んだ。

 だが、そのときそこに西の姿はなかった。前半早々に怪我で退場を余儀なくされていたからだ。西が最後までピッチに立っていれば、川崎の優勝はなかったかも……と思わずにいられなかった。右サイドからの攻撃は、鹿島の生命線でもあったからだ。

 さらに西は、この怪我のために招集されていた代表チームへの参加を辞退。国内組にとっては"最後のチャンス"と言われた東アジアE-1選手権出場を逃すことになった。

 その後、今季開幕を前にしても、いまだ復帰のメドが立っていない西。W杯代表レースでは厳しい立場に置かれているが、よりよいサッカーに変えようとするなら、怪我から復帰したなら、本大会に連れて行かなければならない選手だと考える。

 海外組重視。そしてJリーグのサッカーに否定的なコメントを吐き続けるハリルホジッチ監督に、届きそうもない声であることを承知のうえで、あえて言い切りたい。

 車屋と西。この2人の国内組は、長友、酒井宏の海外組に勝る。

(集英社 WebSportiva 2月16日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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