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言い訳ばかりのハリルと訣別のとき。 そのサッカーは誰も幸せにしない

杉山茂樹スポーツライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 韓国は後半24分に4点目のゴールを奪うと、攻撃の手を緩めた。2001年3月、トルシエジャパンに5-0で大勝したフランス代表が、後半なかばからそうしたように。あるいは先日、リールで対戦したブラジル代表が3-0で後半を迎えるとそうしたように。無理をせず流しに入った。

 サッカーは、例えばラグビーなどと異なり、力をセーブすることが可能なスポーツだ。強者がもうこれ以上、点を奪う必要なしと判断すれば、それをピッチ上で実践することができる。強者が弱者に慈悲の手をさしのべることが可能なスポーツなのだ。相手から必要以上に点を奪って勝利することは非親善的な大人げない行為。すなわち上等なマナーとしないのである。

 日本はただ1-4で敗れただけではない。韓国から優しい気配りをされた挙げ句の果てに大敗したのだ。遊ばれたといっても過言ではない、日本サッカー史に残る汚点。哀れ極まりない敗戦だ。その場にいたたまれず、試合をタイムアップまで観戦せずに帰路を急いだ観衆が、これほど目立った試合も珍しい。

 ハリルホジッチのダメぶりが最大限、発露した試合だった。これまでにも問題点を露呈するケースに多々、出くわしているが、監督がそのつど試みる言い逃れに丸め込まれる人は多くいた。先述の1-3で敗れたブラジル戦にしても、ハリルホジッチが「後半だけなら我々は勝っていた。もし前半0-0だったら、日本は快挙を成し遂げていたかもしれない」と詭弁を口にしても、大きな反発は湧かなかった。

 試合後の会見で韓国に対して、これでもかと言わんばかりに称賛の言葉を贈ったハリルホジッチ。言い訳の材料を考え抜いた末に辿り着いた敗因なのだろうが、日本と韓国との力関係は、ハリルホジッチより数段、日本人の方が熟知している。前提となる解釈は5対5。悪くても4対6だ。けっして3対7、2対8の関係にはない。

 5対5、あるいは4対6が、なぜ、3対7、2対8の状態に陥ったか。通常とは何が違っていたのか。本来の関係はなぜ今回、大きく崩れたのか。これまでとは何が違ったのか。選手の力が、突如大きく低下するはずがない。

 それでも、敗因を選手の気合い不足にする人は、相変わらずいるのかもしれない。しかし、A代表のボーダーライン上にいる選手が、ここで頑張ろうとしないはずはない。ほとんどの選手が、この韓国戦に相当な覚悟で臨んでいたに決まっている。

 これは言い逃れの材料が一切、見出せない敗戦なのだ。両国の力関係が、実際以上に大きく開いて見えた理由が、ピッチ上に明確に暴露された試合。そのサッカーを主導してきたハリルホジッチの責任は、逃れられないものになっている。更迭の時期に、これほど相応しい瞬間はない。

 その問題点について、これまでさんざん述べてきたつもりだが、100%確定的な場面に遭遇しなかったため、あくまでも個人的な意見というスタイルを取っていた。しかし、化けの皮が完全に剥がれたいま、なお敗因をハリルホジッチ采配以外に見出そうとする人がいるなら、もはやこれまでだ。どうぞご自由にと、説得を断念したくなる。

写真:岸本勉/PICSPORT
写真:岸本勉/PICSPORT

 韓国戦。日本のサッカーは北朝鮮戦、中国戦と同類だった。バックラインから前線にドカンと蹴り込むことに、一切、躊躇しないサッカーだ。日本の可能性はその瞬間、激減する。案の定、ボールはその直後、韓国に渡る。この非効率極まりないサッカーを繰り返す日本。それは異常にアタマの悪い集団に映るのだった。

 鹿島、ガンバ大阪各6人、川崎5人、柏、FC東京各2人、磐田、鳥栖各1人。これが今回選ばれた23人の内訳だが、この中で普段からハリル式サッカーを実践している選手はゼロ。選手たちは特殊なサッカーをハリルホジッチに強いられていたわけだ。

 おそらく選手たち自身が一番わかっているハズなのだ。ハリル式の問題点について。だが、そのことを彼らは絶対に口にしない。口にすれば、外されるからだ。ならば、辞退せよとも言いたくなるところだが、W杯はサッカー選手にとって憧れの舞台だ。出場したか否かは、歌手が紅白歌合戦に出場したか否か以上に、その後の人生に関わってくる。ハリル式に染まる以外に選択の余地はない。

 

 だがその結果、彼らはおそろしく間抜けな選手に映る。大きな代償を払うことになる。気合い不足だとの的外れな指摘も、甘んじて受け入れざるを得なくなる。哀れとはこのことだ。プレーしていて楽しくないだろうなと同情する。ハリル式は選手の価値を貶(おとし)めるサッカーとも言い表せる。

 ここまで極端なサッカーをするハリルホジッチを、なぜ日本代表の監督に招いたのか。そうと知ってか知らずか、呼んでしまった原博実氏、霜田正浩氏の責任は重い。その昔、来日するやいきなり「フラット3」と言い出したフィリップ・トルシエにも驚かされたが、20年前は情報が限られていた。当時ならやむなしと受け流すことができるが、情報化社会が発達した現代において、見込み違いの監督を招いてしまった責任はその何倍も重い。

 だが、それ以上に責任が重いのは、ハリル式をここまで放置した現サッカー協会の首脳陣だ。田嶋幸三会長、西野朗技術委員長。名誉を挽回したいなら、今すぐハリルホジッチを更迭し、新監督探しに入るべきだろう。

 ボーダーラインの選手を見極めることを一番の目的に臨んだE-1選手権。しかし、誰よりも無能ぶりを露呈させたのは代表監督だった。彼こそが落選候補の一番手になろうとは。笑えない話だが、監督交代を恐れる必要はない。代表は現在が最低の状態なので、新監督に誰を招いても、これ以上、悪くなることはないのだ。

 アジア予選をともに戦ったオーストラリア、サウジアラビアも代表監督を代えている。次の代表戦は3月。探す時間は十分ある。誰もハッピーにしないハリル式とは、いまこの瞬間、キッパリと訣別すべしと、声を大に叫びたい。

(集英社 Web Sportiva 12月17日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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