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あらためて、ハリルホジッチは限界だ。 欧州遠征は見切りをつけるラストチャンス

杉山茂樹スポーツライター
ついに日本代表から落選した香川真司(写真:松尾/アフロスポーツ)

 日本サッカー協会は10月31日、欧州遠征でブラジル、ベルギーと戦うメンバー発表記者会見を行なった。

 ニュージーランド、ハイチ戦から、中村航輔、植田直通、香川真司、小林祐希、武藤嘉紀の5人が外れ、西川周作、三浦弦太、長谷部誠、森岡亮太、長澤和輝、興梠慎三が加わった。

 3−3で引き分けた前戦のハイチ戦後、怒り心頭に発し、メンバーの大幅な入れ替えを示唆したハリルホジッチだったが、その数は思いのほか少なかった。試合に出場した選手のなかで落選の憂き目に遭ったのは、香川、小林祐、武藤の3人(中村と植田に出場機会はなし)。

 問題はその中身だ。

 とりわけ、香川の落選は大きなニュースと言うべきだろう。背番号10を背負い、本田圭佑と共に長らく日本の顔役を果たしてきた選手だ。本田に加え、その香川も落選させることは、チームに大きな変化が起きたことを意味している(もっとも、香川のクオリティその他について、かねてから疑問を抱いていた筆者には妥当な選択に見える。むしろ、遅すぎる選択だと言いたくなるが)。

 欧州組を含めたフルメンバーで戦う試合は、今回の欧州遠征が終われば、来年3月に行なわれる1試合と5月末の壮行試合の計2試合だ。ロシアW杯本番まで7カ月。時間は十分あるように思われるが、代表の国際試合デーは限られている。本番から逆算すれば、チーム強化は仕上げの段階を迎えていなくてはならないのだ。

 そこで迎えたブラジル戦、ベルギー戦には、4年間の集大成と言うべき最強の布陣で臨むのが、あるべき姿ではないか。にもかかわらず、中心選手がいきなり落選するなどバタつきを見せているハリルジャパン。

 ニュージーランド、ハイチ戦では、香川の代役として小林祐が使われた。しかしハリルホジッチは今回、香川に加え、その代役候補まで落選させた。これは監督自ら選手の選択眼を否定したことを意味する。

 2人に代わって選出されたのは、森岡亮太と長澤和輝。森岡はアギーレ前監督時代に代表で2試合プレーした経験があるが、長澤の代表メンバー入りはこれが初。強化の仕上げ段階を迎えるこの局面で、香川の後任候補として国際試合の経験に乏しい2人をテストせざるを得ない状況こそ、混乱を象徴する事象と言える。

 ハリルホジッチが長澤を見始めたのは4、5試合前からだという。森岡についても、自分の目で見て確信を掴んだという様子ではなかった。選出理由を説明する言葉に、歯切れの悪さを感じた。

 大丈夫か、この監督で。今になって初めて抱く不安ではないが、会見を聞きながら、その思いはあらためて膨らむのだった。記者会見の場に居合わせただけで、危うさは見て取れる。限界を覚える。

 記者の質問に監督が答える。それが記者会見の常識的なスタイルだ。記者と監督がまさにコミュニケーションを図る場でもあるが、就任から2年9カ月が経過しても、会見における両者は円滑な関係にない。対話ができておらず、ハリルホジッチの一方的な姿勢ばかりが目立つ。気がつけば、記者会見は彼の独演会と化しているのだ。

 記者の質問に、的確な答えが返ってくることはまれだ。質問に対する答えは最初の一言二言で終わり、あとの大半は質問とは直接関係のない話を延々と展開する。ひとりの記者が質問を2つした場合など、話に夢中になるあまり、2つ目の質問に答えることを忘れてしまうこともしばしばある。

 この日の会見も例外ではない。香川落選の理由を尋ねた質問にも、それについて返した言葉はごくわずか。その後は質問の趣旨から大きく外れた話を数分間にわたり喋り続けた。質疑応答の時間は併せて30分以上あったが、質問できた記者は5人だけ。通訳の日本語訳が終わらないうちから、大きな声で興奮気味にフランス語をまくし立てた。

 記者はただ、それを聞かされるばかり。司会に立つ協会の広報が、監督に「的確に答えてください」と注意を促すこともない。そう言えるようなムードではないのだ。協会内部の実態が垣間見える瞬間でもある。ハリルホジッチに何か意見できそうな人は見当たらず、手を焼いている状態ではないか、と。

 話す内容のおよそ半分は同じ台詞の繰り返し。会見の後半には苦痛を覚えるほどになっている。ハリルホジッチは会見で「選手のコミュニケーション能力に問題がある」と不満を口にしたが、それはお互い様ではないだろうか。選手がよほど大人でない限り、ハリルホジッチとうまくコミュニケーションを交わすことは難しい。意思の疎通は図れない。僕はそう思う。これは、ピッチの上の問題より、はるかに深刻だ。

 こんなことは、歴代の日本代表監督ではもちろん初めて。イビチャ・オシムにも、若干長く説教モードに入るクセがあったが、話の中身はハリルホジッチのそれより断然面白く、サッカーを学ぶ機会になっていた。年配者に相応しい機知もあれば、笑いを誘う話術もあった。曲者ではあったが、冗談が通じそうな柔らかさを兼ね備えていた。

 そうした要素がハリルホジッチには全くない。人の話を聞かない頑固な偏屈監督に見えてしまう。任期はまだ7カ月間残されているが、ピッチの上でも、ピッチの外でも限界は訪れている。ブラジル、ベルギー戦後は、最後に残された交代のタイミングだと思う。

 計画性のない強化策も問題だが、コミュニケーション能力のなさは、それ以上に深刻。選手、監督、お互いがそれならば、サッカーがうまくいくはずはない。

 (集英社 Web sportiva 11月1日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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