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ネイマール、アウベス大暴れ。 欧州の「国内番長」対決はPSGが完勝

杉山茂樹スポーツライター
PSG対バイエルン。試合後、ロッベンとユニフォームを交換するネイマール(写真:ロイター/アフロ)

 チャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第2節、パリ・サンジェルマン(PSG)対バイエルン・ミュンヘンは、3-0という一方的なスコアに終わった。好勝負を期待したこちらには、バイエルンのなんとも言えぬ淡泊な戦いぶりが恨めしく思われた。

 大一番になると、いつもこうだ。バイエルンはCLで同じ種類の過ちを繰り返している。レアル・マドリード(2013~14)、バルセロナ(2014~15)、アトレティコ(2015~16)、レアル・マドリード(2016~17)。決勝トーナメントで敗れた相手はいずれもスペイン勢で、舞台は準決勝と準々決勝だった。いずれも互角、あるいは前評判では上回っていた相手に、敗れ去るというパターンだ。

 国内では断トツのナンバーワン。ライバルはいない。そのお山の大将の気分をリセットできず受けて立ち、「アレっ?」となる。こんなハズじゃなかったと焦る。毎度同じ印象を抱かせる格好よくない敗戦を4シーズン続けてきた。その癖が今回も治らなかった。

 PSGも似た境遇にある。昨季こそ国内リーグ2位に終わったが、それまでの4シーズンは連続で優勝。カタールの石油資本をバックに選手をかき集め、欧州の強豪チームに躍り出たものの、最近のCLでの最高位はベスト8だ(23シーズン前にベスト4入りしたことが1度ある)。国内では強さを発揮するが、舞台が欧州に広がると、ビッグな存在ではなくなる。国内番長の傾向が強いのだ。

 昨季も決勝トーナメント1回戦でバルセロナにまさかの大逆転負けを喫している。CLの流れにうまく乗れていないチームだ。バイエルン同様、そろそろなんとかしなければならないときを迎えている。

 悪い流れを断ち切ろうとしたのだろう。PSGは今季、バルサから2億2000万ユーロ(約288億円)の巨費を投じてネイマールを獲得。昨季モナコで大ブレークしたキリアン・ムバッペをもレンタルで獲得するなど、豊かな資金力を背景にさらなる戦力拡充を図った。それがこのバイエルン戦では実を結んだ。

 例によって、警戒心なくフワッと立ち上がったバイエルンに対し、PSGは抜け目なく対峙した。先制点は開始2分。ネイマールのドリブル&カットインから生まれた。ネイマールが内に切れ込み、ラストパスを送った相手は、バルサ時代の同僚。PSGが今季獲得したもう1人の有名選手、ダニ・アウベスだ。そのクリーンシュートが決まると、バイエルンは浮き足立ち、試合は完全にPSGペースになっていった。

 昨季ユベントスでCL決勝進出に貢献したこの右サイドバックは、さらなるステップアップを図ろうと、34歳のベテランにもかかわらず、パリに活躍の場を求めてやってきた。欧州一の味を知る選手。そのためには何が必要かを知る選手。王者の気質とはなにかをバルサ時代に習得したこの2人によってPSGは勢いづいた。一方のバイエルンは、ペースを失った。

 ダニ・アウベスは結局、3得点すべてに絡む活躍を演じた。前半31分、エディソン・カバーニが挙げた2点目のシーンでは、アシストを演じたムバッペに切れ味鋭い縦パスを送り、ネイマールが挙げた3点目のシーンでも、60~70メートルをドリブルで駆け上がり、やはりアシスト役を演じたムバッペに、ラストパス同然のパスを送っている。

 バルサ時代より縦への推進力が増した気さえする。同様の印象はネイマールからも受ける。バルサ時代より逞しく映った。とりわけ縦への推進力が増している。

 バルサ時代にはメッシがいた。まず脚光を浴びるのはメッシで、ネイマールはルイス・スアレスにも劣る順列だった。毎年、クリスティアーノ・ロナウドとメッシで争うバロンドールには届かない選手、好敵手にはならない選手と見られていた。

 今回の移籍で、一気に彼らと同列に見られるようになってきた。バルサという大企業に漂うヒエラルキーにおとなしく従っていた選手が、その枠から解放され、ワンランクスケールアップした。バロンドール争いで前者2人に並びかけようとしている。気分よくノリノリでプレーしているようだった。

 とはいえ、PSGの3トップを形成する残る2人、実力者カバーニ、欧州期待の大器ムバッペに対して、ネイマールが圧倒的優位に立っているわけでもない。MSN(メッシ、スアレス、ネイマール)、BBC(ベンゼマ、ベイル、C・ロナウド)のような3人セットの略語がほしくなるほど、それぞれは強力だ。

 そんな魅力はバイエルンにはない。今季、獲得した大物、ハメス・ロドリゲスは、スタメンを飾ったものの、後半開始時にはキングスレイ・コマンと交代でベンチに下がっている。バイエルンは支配率の高いパスワークのチーム。その中に入ると、ハメスは濃すぎる選手に見えてしまう。ゲームメーカー的な非アタッカー。”作りすぎ”な感じが出てしまうのだ。

 2連覇を達成したレアル・マドリードを10とするなら、バイエルンには9あるいは8.5のレベルで固まってしまったという印象だ。ドイツでは最強でも、欧州レベルでは頭打ちの状態に見える。

 PSGはどうなのか。10を超えることはできるのか。シーズンはまだ始まったばかりだ。バイエルンに3-0で完勝したことで、PSG株はさぞ急上昇したに違いないが、バイエルンとの真の力関係も、グループステージのリターンマッチを見なければ正確なことはわからない。

 バイエルンは今回、受けて立ってしまった。PSGは今回、チャレンジャーの立場で戦ったが、次回はその立場が入れ替わる。受けて立ったとき、PSGのサッカーはどのように変化するか。

 CLで直近の20年のうちベスト8が最高位のチームが、いきなり優勝するケースは稀。この時点ではまだPSGを全面的に信頼するわけにはいかない。

 もちろん3連覇を目指すレアル・マドリードが、10の力を11に伸ばす可能性にも目をこらしたいが、いまはそれと同時に、打倒レアル・マドリードの可能性を秘めたチームの動向が気になる。願うのはハイレベルの混戦だ。10を超えるチームの出現に、期待を寄せたいのである。

(集英社 Web Sportiva 10月29日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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