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ブンデス、プレミアがスペインリーグの牙城を崩せない理由

杉山茂樹スポーツライター

チャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2戦。バイエルン・ミュンヘン対アトレティコ・マドリード(3日・火曜日)と、レアル・マドリード対マンチェスター・シティ(4日・水曜日)。単純にどちらが面白かったかと言えば、3日の試合になる。

R・マドリード対マンC。挑戦者のマンCに、番狂わせを狙う意欲はどれほどあっただろうか。あったには違いないが、バイエルンに向かうアトレティコには遠く及ばなかった。一発逆転を狙う弱者になりきれなかった。ハラハラドキドキ感にもう一つ欠けた理由は、その割り切り感のない中途半端な立ち位置にあると思う。

金満クラブ。その点ではR・マドリードと一致する。だが、R・マドリードには及ばない。そのミニ版のようなものだ。今季のプレミアリーグでレスターに優勝をさらわれたとはいえ、リーグ内に同格のクラブはあっても格上は存在しない。挑戦者としての気質を掻き立てられる格上と戦う機会に普段、恵まれていないのだ。

強者の気質で1シーズンをフルに過ごす。唯一の例外がこの準決勝だった。とはいえ、とっさに立ち位置やそれに基づく気質は変更できない。結果、受けて立つかのような横綱相撲を展開してしまった。

R・マドリードのサッカーも決して褒められるものではなかった。アウェーゴールを恐れていたはずなのに、好ましくないボールの奪われ方を随所で繰り返した。アトレティコが相手なら、やられていた。そう思いたくなる戦いぶりだった。それが接戦の割に好試合度が低かった原因だが、ジネディーヌ・ジダンの采配には見るべき点もあった。

後半11分、ルーカス・バスケスを右ウイングに投入。クリスティアーノ・ロナウドをセンターフォワードのポジションに1トップとして置いた采配だ。

最も守備をしない選手を、センターバックという最も攻撃に参加してきそうもない相手選手の前に置く作戦。0トップの発想にも通じる布陣を取ったことで、残る9人のフィールドプレーヤーは「4−5」−1の中に、きちっと収まることができた。これで穴はなくなった。マンCの後半の戦いが迫力不足に終わった理由とそれは深い関係にある。

ルーカス・バスケスと交代でベンチに下がったのはヘセ・ロドリゲス。カリム・ベンゼマが欠場したことでこの2人のスペイン人選手に出場機会が訪れたわけだが、ガレス・ベイルを含めたB・B・CがFWの3枠を占めるより、こちらの方がサッカーそのものは安定して見える。

ベンゼマ(B)、ベイル(B)、C・ロナウド(C)の3人はともすると流動的に動きがちだ。流動的といえば聞こえはいいが、相手ボールに転じた時、それは大きなリスクになる。誰がどこにいるか分からない状態では、網はかかりにくい。だが、ルーカス・バスケスに、流動的なプレーをしたがるヘンな欲はない。右のスペシャリストとして計算できる選手になる。さらに言えば、実は巧い。

アトレティコとの決勝戦で、監督ジダンはどんな名前を前線に並べるつもりなのか。少なくとも準決勝のマンC戦では、そこのところに気を配りながら戦っていた。ジダンはさぞ頭を悩ますに違いない。

シーズン当初から、バルセロナとともに本命の座に就いていたバイエルン。ラウンド16でユベントスに大苦戦。準々決勝でもベンフィカに手こずったが、サッカー的には大きな穴を抱えているわけではなかった。アトレティコ戦もしかり。悪いサッカーをしたわけではない。だが、敗れた。

本命と目されたビッグクラブがまさかの敗戦を許せば、そこにはそれなりの理由があるものだ。準々決勝でアトレティコに敗れたバルセロナには、確かに存在した。メッシの王様然とした振る舞いは、エゴイスティックなプレーとしてマイナスに作用した。

だが、バイエルンにその手の選手は見あたらない。つい先輩風を吹かせたくなる実績十分のフランク・リベリーでさえ、協調性の高いプレーを一貫して披露した。悪いところはほぼ皆無。敗因をあえて挙げるなら、トーマス・ミュラーのPK失敗。そして相手のアトレティコが強かったことだ。

強者と対戦することに慣れたチーム。アトレティコは言い換えればそうなる。バルサとR・マドリード。この2つの巨大チームと常に向き合っているアトレティコと、ライバルと呼べるチームが、せいぜいドルトムントぐらいしか見あたらないバイエルンと。普段の環境の甘さこそが、一番の敗因と言えるのではないか。ブンデスリーガにアトレティコは存在しないのだ。

アトレティコに限らず、スペインの3番手チームにはCLにおいて番狂わせを繰り広げてきた過去がある。99~00と00~01シーズンにCL決勝に進出したバレンシア、03~04シーズン、CLベスト4に進出したデポルティーボ、さらには05〜06シーズン、同じくCLベスト4に進んだビジャレアルしかり。クラブの規模を考えれば、称賛に値する結果になるが、その背景として挙げられるのが、圧倒的な強者(バルサ、R・マドリード)と対戦することへの慣れだ。これはイングランドの3番手と、スペインの3番手との大きな違いでもある。

R・マドリード対アトレティコ。5月28日、ミラノのサン・シーロで行なわれるCL決勝は、3年ぶりにスペイン勢同士の顔合わせになった。同国同士の決勝対戦は、下記に続くチャンピオンズリーグ史上6回目だ。

1)99~00 R・マドリード対バレンシア(スペイン)

2)02~03 ミラン対ユベントス(イタリア)

3)07~08 マンチェスター・ユナイテッド対チェルシー(イングランド)

4)12~13 バイエルン対ドルトムント(ドイツ)

5)13~14 R・マドリード対アトレティコ(スペイン)

そしてその6回中、スペイン勢同士の対決は半分(3回)を占める。過去24シーズン中、スペインは欧州リーグランキング1位の座に計12回も就いているので、順当な結果と言えるが、このスペイン勢同士の対決の中にバルサの名前はない。欧州の2大クラブの対決は実現していない。R・マドリードと戦ったのはバレンシアでありアトレティコ。スペインの3番手、4番手だ。そしてバルサは今回も含め、その3度とも同国勢の前に屈している。バルサの決勝進出を阻んだのは、バレンシアであり、アトレティコだった。

R・マドリード対バルサをCL決勝で見たいとはサッカーファン共通の願望だが、それをスペイン勢が簡単に許そうとしないこの皮肉。いま時代は完全にスペインの手の中にある。

UEFAカントリーランキング(リーグランキング)24年間の変遷
UEFAカントリーランキング(リーグランキング)24年間の変遷

(初出 5月6日 集英社 Web Sportiva「CL決勝はマドリードダービーに。 バイエルンとマンCが敗れた理由」)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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