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日本辛勝。得点力不足はアタッカーのせいではない

杉山茂樹スポーツライター

「結果が内容を表していない試合」

アギーレは試合後、そう語った。一方、ジャマイカのシェーファー監督は「チャンスの数で日本は上回ったが、これは我々にとって大きな問題ではない」と語った。彼は試合後、ロッカールームで選手たちに「おめでとう」とまで言ったそうだ。

この1-0という結果をどう見るか。日本にとってはホーム戦。お互いのベストメンバーの度合いを比較すれば、日本が3-0で勝利してもおかしくない試合だ。実際、もう少し運に恵まれれば、そのような結果に終わっていたかもしれない。だが日本は、少なくとも格上という立場に相応しいプレイができていなかった。

何といってもプレイに余裕が見られなかった。一生懸命プレイしていた。真剣にボールを追いかけていた。勤勉、忠実、真面目。まさに日本人らしいプレイで、ジャマイカ相手に試合を優勢に進めたことは事実だった。しかし、一本調子だった。同じリズムで抑揚なく90分間戦ってしまった。

「ボールを奪ったらできるだけ早く攻める」

アギーレはそう指示を与えたと言うが、日本の選手は、その「早く」を、急ぐことと勘違いしてしまったような、慌ただしいプレイに終始した。物事を落ち着いて考えることができない集団。相手の裏をかけない集団。試合の流れが読めない集団と化していた。チームとして頭脳的では全くなかった。

バカ正直。リッチ感ゼロ。理由は様々あると思う。良いチームは、攻撃のリズムを調整するブレーンが後方にある。センターバックと守備的MFだ。彼らがワンテンポ置いたり、攻める方向を変えたりするものだ。しかし現在のアギーレジャパンは、そこが経験の浅い選手で固められている。森重真人、塩谷司、細貝萌。このジャマイカ戦は特にその傾向が強かった。

細貝はよく頑張ったと思う。まさに勤勉、忠実、真面目にプレイした。しかし、それ以上のことはできなかった。9月に行なわれた2試合(ウルグアイ戦、ベネズエラ戦)では、彼は「Vの字」に並ぶ中盤の、高い位置でプレイした。そのときは、ゲームメーカー的なセンスが求められるポジションでプレイしたことを、ミスキャストではないか、守備的MF、アンカーに置くべきではないかと意見する声が多く聞かれた。

だが、4-3-3にそのポジションは一つしかない。細貝にボールを的確にさばく力、展開する力がなければ、それはそのままチーム全体に大きく反映することになる。このジャマイカ戦は、細貝が持つ負の側面がチーム全体に波及したように見えた。そこで交通整理ができないまま、ボールは落ち着きなく前に進んでいった。

この試合で細貝がプレイしたポジションは、バルサでは4番のポジションと言われる。かつてグアルディオラが4番をつけてプレイしたからだが、そのグアルディオラが現在、監督を務めるバイエルンでは、今季からシャビ・アロンソがそのポジションに就き、大成功を収めている。グアルディオラは、昨季も従来サイドバックだったラームをそこにコンバートし、成功を収めている。前線の選手が秩序なく、せかせかと一本調子で攻めていくこの日の日本代表を見せられると、4番のポジションの重要性を、改めて痛感させられるのであった。

細貝を4-3-3で使うなら、9月に行なわれた2試合のようにVの字を描く中盤の高い位置に配置した方が理に叶っている。そして、フィード力のある柴崎岳をこの日の細貝の位置に使った方が、攻撃全体は数段滑らかになる。僕はそう思う。

チャンスがあったのに奪ったゴールはわずかに1。しかもそれは相手のオウンゴールだったという事実に基づけば、前線の決定力不足に話は行き着く。実際、試合後の監督記者会見でも、そのことを指摘する質問が多く飛んだ。しかし、最後が決まらない理由、チャンスがより決定的なものにならなかった理由は、アタッカーの問題というより、後方の問題にある。攻撃の始点にあるというのが僕の意見だ。

この日、起用法が最も注目された香川真司は、結局、Vの字を描く中盤の左前方に収まることになった。評価を言えば、5と5.5の間ぐらいになる。局面では見せ場も作ったが、ポジションに相応しいプレイができたかと言えばノーだ。

Vの字を描く中盤の左上部は、身体の向きを臨機応変に変える回転力が求められる。いわゆる中盤的な抑揚のある身のこなしが求められるが、香川は前を向いて初めて力を発揮するタイプだ。プレイは概して直線的。そして淡泊だ。視野も広い方ではない。

その結果、後方で生まれた単調な流れは、彼を経由しても是正されることはなかった。むしろ単調さに拍車がかかったと言うべきだろう。Vの字を描く中盤左上部には、マッチしていないと僕は見る。少なくとも、彼のストライクゾーンのド真ん中にあるポジションとは言えないのだ。

強い相手と戦った時、それはいっそう顕著になるのではないか。そう思っていたところ、ブラジル戦欠場のニュースが舞い込んできた。ポジションの適性が分らないまま次に進むことになった。すなわち、謎は深まることになった。

アギーレジャパンの現在の姿は、必ずしも「中盤天国ニッポン」ではない。改良の余地が残された場所になる。長谷部、遠藤をコンビで長年、固定して起用してきたしわ寄せが、いまここに現れている恰好だ。

候補者はそれなりにいる。選択肢はあらゆるポジションの中で最も多い。改良の余地は最も多く残されている。アギーレにはMFのベストな組み合わせをとことん追求して欲しいものである。

(集英社・Web Sportiva 10月11日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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