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大和西大寺駅配線図、ダウントラバーサー……「近鉄とファン大研究読本」はマニアすぎておもしろい

杉山淳一鉄道ライター
自著を片手に製作裏話を披露する久野知美さん(筆者撮影)

2月11日、女子鉄アナウンサーこと久野知美さんの著書「近鉄とファン大研究読本」の重版出来記念イベントが開催されました。場所は東京神田神保町の「書泉グランデ」でした。書泉グランデといえば鉄道ファンの聖地のひとつ。5階はまるごと鉄道フロアです。鉄道の本、鉄道会社公式グッズなどがズラリと並びます。イベントは7階のイベントスペースでした。5階で本を買って7階でサイン会。いい流れですね。

久野知美さんはどんな人?

久野知美さんの本業はアナウンサーです。テレビ番組やイベントの司会など多方面でご活躍ですが、元来の旅行好き、鉄道ファンを公言され、ホリプロ所属時代は鉄道好きで知られる南田マネージャーに出会ってしまったからサア大変。女子鉄アナウンサーとして、かの名番組「タモリ倶楽部」をはじめ、鉄道番組の数々に出演されました。現在はBS日テレ「友近・礼二の妄想トレイン」、BSフジ「Let'sトレ活!」などで活躍中。しかも東武鉄道や西武鉄道では自動車内放送も担当されており、鉄道業界人でもあります。

「近鉄とファン大研究読本」は久野さんの6冊目の著書です。「大研究読本シリーズ」としては5冊目。1冊目の「鉄道とファン大研究読本」で鉄道ファンの生態を解き明かし、2冊目の「京急とファン大研究読本」で鉄道会社に直撃取材、3冊目は東京メトロ、4冊目は東急電鉄とつづき、今回は大手私鉄として最大の路線網を持つ近畿日本鉄道(近鉄)を直撃取材です。「私たち、ついに関西に乗り入れました」と副題がつきました。

鉄道書は6冊目。鉄道ライターもビックリの活躍(筆者撮影)
鉄道書は6冊目。鉄道ライターもビックリの活躍(筆者撮影)

久野さんはアナウンスに留まらず、鉄道レポーター、タレントとしても活躍されています。だからこの本もタレント本のひとつだろうと思ったら大間違い。鉄道ファンの琴線に触れまくる鉄道本です。もちろん、近鉄の多様な特急車両、中川短絡線も押さえています。しかし内容は鉄オタの私でさえ「知りたかったー!!」と思うものばかりです。

マニアックだからおもしろい

たとえば「大和西大寺の線路配線図」が見開きでドーン! これだけでも買いです。大和西大寺駅はポイント(分岐器)が盛りだくさんの駅。近鉄奈良線が貫き、近鉄京都線と近鉄橿原線も発着します。しかも近鉄京都線と近鉄橿原線、近鉄京都線と近鉄奈良線は直通列車があります。これらすべての路線が立体交差なし。平面交差となっています。1日に1300本の列車を41基のポイントで仕分けているそうです。鉄道ファンなら一日中見ていられる場所を徹底解説です。いろんな種類のポイントも紹介されています。この配線図を指でなぞり続けたいですね。

大和西大寺駅の配線をしっかり解説。この駅は高架化が予定されているので今のうちに観に行きたい! (筆者撮影)
大和西大寺駅の配線をしっかり解説。この駅は高架化が予定されているので今のうちに観に行きたい! (筆者撮影)

塩浜検修車庫の「ダウントラバーサー」の仕組みも徹底解説。電車の台車のみ移動させる機械は珍しいかもしれません。南大阪線から長野線が分岐する古市駅では、日常的に行われている電車同士の「連結」と「解放」をレポート。近鉄が好きすぎて近鉄グループの産業医となったお医者さんのインタビューも感心しました。目の付け所がファンを超えています。本書のスーパーバイザーは元近鉄広報でBOSS-Fukuharaこと福原稔浩さん、監修はホリプロマネージャーの南田裕介さんです。盤石の布陣ですね。徳永ゆうきさん、野月貴弘さん、中川家礼二さん、友近さんも応援出演です。

良書の王道「楽しくてためになる」内容で、「近鉄とファン大研究読本」は売れているようです。イベントの案内は「発売記念トーク&サイン会」でしたが、行ってみたら「重版記念イベント」になっていました。初版発売の2023年12月18日から2カ月足らずで重版出来です。久野さんはテレビ出演も増えていてファンも盛り上がっています。

イベント開催までに増刷決定

イベント当日は所定の50席を超える大盛況となりました。久野さんはお得意の「相互乗り入れ(コラボ)」「連結して(一緒に)」など「久野語」を連発。久野さんの半生と路線図をかけた「人生とご案内」ではクスクスと笑いがこぼれ、「友近・礼二の妄想トレイン」とコラボした企画の「ここだけの話」で笑い声が溢れました。

イベント参加の皆さんと記念撮影(久野知美さん提供)
イベント参加の皆さんと記念撮影(久野知美さん提供)

目次では近鉄本体のボリュームが多く、「ファン」を紹介する第2章が後半に押し込められた感もありました。しかし、近鉄の中の人のインタビューを読むと、みんな近鉄ファンだと思いました。「近鉄とファン大研究読本」のタイトルに偽りはありません。近鉄ファンはもちろんのこと、鉄道の仕組みを知りたい人も楽しめる本です。マニアックでありながら、久野さんの優しい文章でわかりやすく、鉄道好きのお子さまにも安心してオススメできる本です。

「近鉄とファン大研究読本 ~私たち、ついに関西に乗り入れました~」久野知美(著) 福原稔浩(スーパーバイザー) 南田裕介(監修)カンゼン刊 1870円(税込)
「近鉄とファン大研究読本 ~私たち、ついに関西に乗り入れました~」久野知美(著) 福原稔浩(スーパーバイザー) 南田裕介(監修)カンゼン刊 1870円(税込)

2024年2月14日18時01分 語句修正、お名前を修正しました。お詫び申し上げます。

鉄道ライター

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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