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新金線旅客化実現へ、試乗会とプラレールで楽しく推進活動

杉山淳一鉄道ライター
新金線いいね! 区民の会はほぼ9カ月ごとに試乗会を開催している(筆者撮影)

2023年10月29日(日)、東京都葛飾区の新小岩駅と金町駅を結ぶ「新金貨物線(新金線)」を団体貸し切り列車が走りました。主催は新金線の旅客列車運行を目指す「一般社団法人新金線実現の会」です。この団体は市民グループ「新金線いいね! 区民の会」を母体とし、ボランティアの枠を超えた非営利事業を実行する組織です。2022年に設立されました。

「新金線いいね! 区民の会」は過去に2回の試乗会を開催しました。1回目は松戸発、新金線を経由して千葉県の銚子駅で折り返しました。銚子駅では自由行動時間があり、銚子電鉄の旅を楽しめました。2回目は両国発で、新金線を経由して大宮駅で折り返しました。大宮駅と言えば鉄道博物館ですね。鉄道ファンも親子連れも大満足の旅でした。

第1回と第2回の使用車両は185系電車でした。伊豆方面の特急「踊り子」や、群馬方面の特急「草津」「あかぎ」などで活躍した国鉄型車両です。定期運行を終了し、団体列車として余生を送る電車です。これも鉄道ファンにとっては「お名残乗車」となりました。

新金線の試乗会というだけなら、新小岩と金町の往復だけで目的を達成します。しかし、ちょっと遠足気分で銚子や大宮に足を延ばす。そんな楽しい旅に仕立てています。旅を楽しんでもらっても良いんです。その旅の中で新金線を認知し、旅客化を応援してもらおうという目的があります。185系電車や貨物線乗車が目的でもウェルカム。鉄道ファンだからこそ、新金線旅客化を応援してくれるでしょう。

「葛飾区民のお楽しみ旅行会」になっているかも

さて、今回は3回目の試乗会。目的地は宇都宮です。この試乗会の約2カ月前、8月26日に宇都宮ライトレール「ライトライン」が開業したばかりです。新金線旅客化もライトレール化を目指しているので「先輩路線を表敬訪問しよう!」という趣向です。

新金線試乗ツアー第3回 両国から宇都宮を目指す(国土地理院地図を元に筆者加工)
新金線試乗ツアー第3回 両国から宇都宮を目指す(国土地理院地図を元に筆者加工)

団体貸し切り列車は両国駅を出発、総武本線を東進して千葉駅で折返し、新金線を経由して金町駅へ。金町駅からは常磐線で馬橋駅を通過。その先の短絡線を通って武蔵野線に入り、武蔵浦和駅の先で再び短絡線に入って、東北本線の貨物列車用線路を通って大宮駅へ。ここからは東北本線をひた走り、宇都宮に至ります。宇都宮では約3時間の自由行動があって、帰路は宇都宮駅から上野駅へ直行し、解散となりました。

分岐器の方向に注目。新小岩駅から新金線へ進む。(筆者撮影)
分岐器の方向に注目。新小岩駅から新金線へ進む。(筆者撮影)

使用車両は前回までの185系電車に替わって257系電車になりました。E257系電車はかつて中央本線の特急「あずさ」「かいじ」に使われた車両です。中央本線の特急がE353系に置き換わり、現在は伊豆方面の特急「踊り子」に使われるほか、臨時列車や団体列車などの波動対応用になっています。スタッフの中には鉄道ファンに人気のある185系電車を推す人もいたそうですが、乗り心地はE257系の方が各段に良く、宇都宮までの長距離利用には適していると思いました。

さらに、今回の旅は「新金線乗車」「貨物線乗車」「ライトライン訪問」だけではなく、「大宮~宇都宮間の在来線特急の旅」が大きな魅力です。同じ区間を走る東北新幹線は速くて便利。しかし、在来線特急の旅は車窓と街が近く、景色を楽しめます。しかも大宮~宇都宮間ノンストップですから、駅をスイスイ通過していきます。国鉄時代の特急列車のようで、なんとなく優越感も感じます。

スタッフが車内を巡回して新金線と活動を紹介する(筆者撮影)
スタッフが車内を巡回して新金線と活動を紹介する(筆者撮影)

車内に目を向けると、「新金線乗車」「貨物線乗車」というより、旅そのものを楽しむ人が多いようでした。グループでおしゃべり、お酒も少し入っているような。第3回にして、この試乗会は「葛飾区民の旅行会」みたいです。でも、それでいいんです。葛飾区民は9カ月ごとに団体列車の旅を楽しめる。ちょっと車内放送に耳を傾けていただいて、新金線について知ってもらう。「楽しみながら理解を深める」という狙いがあります。4号車のグリーン車は販売されず、地元の小学生による「新金線とLRT」の研究成果が展示され、常に見学者で賑わっていました。

金町駅に到着して新金線試乗は終わり。列車はさらに常磐線へ。(筆者撮影)
金町駅に到着して新金線試乗は終わり。列車はさらに常磐線へ。(筆者撮影)

宇都宮駅到着後、参加者の行動は「宇都宮観光」「ライトライン乗車」に2つに分かれました。私はもちろんライトライン初乗車です。起点の宇都宮駅東口から終点の芳賀・高根沢工業団地までは片道約48分。往復ですると2時間をちょっと切るくらい。休日の昼ですから通勤客はいません。終点まで行く人はライトレール乗車そのものが目的です。

宇都宮駅東口をほぼ満員で出発して、終点までに乗客の半分以上が降りました。つまり、途中駅に用事がある人、遊びに行く地元の方がかなり乗っています。開業して2カ月、早くも市民の生活に活用されていると感じました。新金線もこうなったら良いな、と思いました。

宇都宮ライトライン。新規LRT路線としては全国初。路面電車としては75年ぶりの新路線。市民の足として定着している。新金線の目指す姿だ。(筆者撮影)
宇都宮ライトライン。新規LRT路線としては全国初。路面電車としては75年ぶりの新路線。市民の足として定着している。新金線の目指す姿だ。(筆者撮影)

線路配置プランをプラレールで展示

「新金線いいね! 区民の会」は「沿線ウォーキング」「クリーン(お掃除)作戦」などさまざまなイベントで葛飾区民の親睦を深めています。そのなかでもうひとつ、ユニークなイベントが「プラレールで新金線」です。新金線を旅客化すると、どんな線路配置になるでしょうか。葛飾区に提案し、プラレールで再現します。それを区民に見える形で紹介しよう、というイベントです。そういえば、プラレールを製造販売するタカラトミーは葛飾区の会社ですね。

2030年までに新小岩から新宿(にいじゅく)まで先行開業、2035年に踏切を立体交差化し全線開業。さらに2040年には支線も構想。(資料提供:新金線いいね!区民の会)
2030年までに新小岩から新宿(にいじゅく)まで先行開業、2035年に踏切を立体交差化し全線開業。さらに2040年には支線も構想。(資料提供:新金線いいね!区民の会)

2023年11月11日(土)、新小岩駅に隣接する「スカイデッキたつみ」の「あそびばプロジェクト」で「プラレールで新金旅客線を再現 第4回」が開催されました。第3回以降、コロナ禍で休止されていましたが、4年ぶりの開催となりました。「スカイデッキたつみ」は新小岩駅北口とバスターミナル「東北ひろば」を結ぶ通路です。人通りも多く展示に最適な場所です。

新金線旅客化計画をプラレールで再現(筆者撮影)
新金線旅客化計画をプラレールで再現(筆者撮影)

この日は新小岩北地域まちづくり協議会による「東北ひろばまつり」も開催されていました。小松菜入りのやきそばや肉まん、福島の特産品の出店やステージイベントが行われていました。ふだんの休日よりも家族連れが多く、「スカイデッキたつみ」も賑わっていました。子どもたちがプラレールに夢中になり、親御さんも観ていきます。そこで「新金線の未来を紹介しています」となるわけです。

現在の新金線は単線ですが、旅客化に当たって駅やすれ違い場所の設置が必要になります。一部は複線として貨物列車と分離する必要もあります。そして最大の課題は、国道6号線の交通渋滞の原因となっている新宿(にいじゅく)踏切をどうするか。これらを視覚的に理解してもらおうという趣向です。新金線7kmを20m×2mで再現します。

これが問題の新宿(にいじゅく)踏切。国土交通省が国道6号の拡幅と立体交差事業を進めている。しかし進捗が見えない。(筆者撮影)
これが問題の新宿(にいじゅく)踏切。国土交通省が国道6号の拡幅と立体交差事業を進めている。しかし進捗が見えない。(筆者撮影)

しかし、実際には「楽しいプラレールイベント」です(笑)。全国各地の特急電車が走ります。ポイントは手動ですから、列車の進行を見守りつつ、あちこちで衝突、追突。スタッフが復旧に大忙し。車両の持ち込みも可能で、電池のない「手ころがし車両」で遊んでもOKです。でもちょっと待って、展示やチラシで「このプラレール線路が何を模しているか」を知れば、この青いレールで葛飾区の未来が描かれていると解るはずです。

駅とバスロータリーを結ぶ「スカイデッキたつみ」はPRにピッタリ。子どもは必ず立ち止まる。(筆者撮影)
駅とバスロータリーを結ぶ「スカイデッキたつみ」はPRにピッタリ。子どもは必ず立ち止まる。(筆者撮影)

次の新金線試乗会は9カ月後、2024年の夏に開催予定とのことです。興味のある方は公式サイトやFacebookページをチェックしましょう。

新金線いいね!一般社団法人新金線実現の会(新金線いいね!区民の会)

新金線いいね!(Facebook)

「プラレールで新金線」次回は2023年11月24日(金)~25日(土)。東京理科大学葛飾キャンパスの「葛飾理科大祭」で展示されるとのこと。次回は実際のルートに即したS事カーブ状のレイアウトにチャレンジするそうです。プラレールが好きな方も、新金線に関心がある方も、ぜひお出かけください。

葛飾地区理大祭実行委員会

※2023年11月16日 8時14分 一部修正しました

※2023年11月16日 15時02分 語句修正しました

※2023年11月16日 19時09分 語句修正しました

※2023年11月17日 22時36分 リンクを修正しました

鉄道ライター

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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