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【2023国際ロボット展】JR西日本が採用した人型ロボット「零式人機」を見てきました

杉山淳一鉄道ライター
関西しか見られない零式人機が東京に! (筆者撮影)

零一式カレイド2023年11月29日から12月2日まで、「2023国際ロボット展」が東京ビッグサイトで開催されました。そのなかで鉄道ファンが注目すべきは「株式会社人機一体」のブースです。2024年からJR西日本が導入する「多機能鉄道重機」が展示されていました。

「ついにホンモノのレイバー(人間型作業機)が稼働する!」

2022年4月、そんな話題で盛り上がったことを覚えていますか? きっかけはJR西日本が公開した「生産性・安全性向上に向けて多機能鉄道重機を開発しています」という報道資料です。その姿はまさに人型ロボット。クレーンの先端に人間の上半身に似た機械を載せた姿です。頭にはカメラがあり、人間の遠隔操作によって両腕を動かします。アニメ「機動警察パトレイバー」に登場した作業機を連想するため、鉄道ファンだけではなく、ロボットファン、アニメファンからも注目されました。

鉄道業界にやってきた「人型ロボット」、なぜ人型? 開発者に聞いた | マイナビニュース(2022年4月)

零式人機 ver2.0 デザインは敢えてフレンドリーにしない。危険な現場に人が近寄りにくくするため、あえて少し怖さを与えているという(筆者撮影)
零式人機 ver2.0 デザインは敢えてフレンドリーにしない。危険な現場に人が近寄りにくくするため、あえて少し怖さを与えているという(筆者撮影)

この作業機「零式人機」は、滋賀県の「株式会社人機一体」と「日本信号株式会社」と「JR西日本」が共同で開発しています。2024年春から実戦……もとい、実用化するスケジュールです。JR西日本は零式人機で電化区間の架線の交換、保守に使う予定です。従来はバスケット型のクレーンに人が乗って実施した危険な作業を、零式人機で行います。腕などを絶縁すれば、簡単な補修程度は通電したまま実施できるかもしれません。大幅な作業効率向上が期待できます。

零式人機のコクピット(筆者撮影)
零式人機のコクピット(筆者撮影)

現在は実用化に向けた試験中とのこと。人機一体は滋賀県にあり、実用化されてもJR西日本管内でしょうから、私を始め関東住まいの人々は実機を見る機会がないな、残念。と、思っていたところ、東京ビッグサイトに来ているとのこと。

零式人機 ver2.0 コクピットからはこう見えている(筆者撮影)
零式人機 ver2.0 コクピットからはこう見えている(筆者撮影)

私は日頃から鉄道ニュースを欠かさずチェックしています。しかしロボット業界は盲点でした。皆さんにも早くお伝えすれば良かったと後悔しつつ、12月1日に2023国際ロボット展へ。零式人機の実機を見たい。メール取材でお世話になった開発リーダーの金岡克弥博士にご挨拶しなくては!

今回、人機一体は「零式人機 ver2.0」のほかに、小型の「零式人機 ver1.3」、「零一式カレイド Ver1.0」という人型マシンのほかに、「人機GSP(スチュワートプラットホーム) ver1.3」など、人機で培った技術を応用した「人型ではない」マシンを展示していました。

人機一体のブースは川崎重工のとなり(筆者撮影)
人機一体のブースは川崎重工のとなり(筆者撮影)

「零式人機 Ver2.0」のデモンストレーションは、当初の導入動機だった架線作業ではなく「トンネル掘削時のダイナマイト装填」でした。人機の腹部にダイナマイトを装着し、トンネル工事現場を模した壁へ向かいます。壁の細い穴にダイナマイトを挿入し、さらに棒を手に取って、ダイナマイトを奥へ送り込みます。現在は人間が実施している作業ですが、ごく稀にトンネル断面が崩れて作業員を巻き込む事故が発生します。こうした危険な作業を、零式人機と遠隔作業で解決します。

腹部に搭載していたダイナマイトを取り出し、周囲に見せる(筆者撮影)
腹部に搭載していたダイナマイトを取り出し、周囲に見せる(筆者撮影)

細い穴にダイナマイトを装填する(筆者撮影)
細い穴にダイナマイトを装填する(筆者撮影)

ダイナマイトが入った。このあと、細い棒を使ってダイナマイトを奥へ(筆者撮影)
ダイナマイトが入った。このあと、細い棒を使ってダイナマイトを奥へ(筆者撮影)

「零一式カレイド Ver1.0」は少年サイズの遠隔操作ロボットです。零式人機の脚部はクレーンでしたが、こちらは二本足です。今回は足を固定していました。しかし現在、二足歩行の実装を目指して開発が続いています。金岡克弥博士によると、鉄道車両を解体するとき、古い車両には断熱材としてアスベスト(石綿)が使われています。アスベストは発がん性が指摘されており、作業するときはまるで宇宙服のような防御服が必要です。そんな作業に零一式カレイドを使ってほしいとのこと。

零一式カレイドと金岡博士。金岡氏は株式会社人機一体の社長でもある(筆者撮影)
零一式カレイドと金岡博士。金岡氏は株式会社人機一体の社長でもある(筆者撮影)

人機操作機 はどの人機にも使える遠隔操作システム。今回は零一式カレイドに接続。手振りや頷きなどのボディランゲージも現場で役立つ(筆者撮影)
人機操作機 はどの人機にも使える遠隔操作システム。今回は零一式カレイドに接続。手振りや頷きなどのボディランゲージも現場で役立つ(筆者撮影)

鉄道車両や建築物などは、人が組み立てる、人が使うという構造物です。解体作業もネジや治具など人手がもっとも早いわけで、人型が適していると言えます。遠隔操作システム「人機操作機 ver.3.2」には小柄な女性が「搭乗」しており、なんだかこの景色、ロボットアニメで見たことあるかも! と思いました。

「人機GSP ver1.3」はとても興味深いデモンストレーションでした。人型ではなく、シリンダーのような直動型電動アクチュエーターを並べ、パラレルリンク構造としています。各アクチュエーターの駆動部に人機GSPの技術が使われており、水平移動、回転移動が微細に、そして正確に行えます。この機構を使って重量物のハンドリングを行います。

荷台に載っている黒いフレームが人機GSP。重いコンクリート部材を保持している。下の画面が課題解決すべき現場のイメージ(筆者撮影)
荷台に載っている黒いフレームが人機GSP。重いコンクリート部材を保持している。下の画面が課題解決すべき現場のイメージ(筆者撮影)

デモでは壁に突き出た複数のボルトに対して、対応する穴を開けた箱を水平にピッタリ取り付けました。この作業は道路橋脚の補強部品の取り付けを想定しています。実際の部品の重さは約700kg~1tだそうです。具体的には橋脚の壁と橋桁の裏の直角部分に取り付ける作業です。現在はクレーンで部品をつり上げます。

所定の高さで壁へスライドし、コンクリート部材を取り付ける(筆者撮影)
所定の高さで壁へスライドし、コンクリート部材を取り付ける(筆者撮影)

しかしクレーンの高さよりも上には引き上げられないため、そこからワイヤーチェーンを使って吊り上げて取り付けました。ワイヤーチェーンのバランスが崩れると部材が落下する怖れもあり危険な作業です。そのため複数の作業員が必要で、1つあたりの作業時間は約2時間です。しかし「人機GSP ver1.3」はこの作業を数分で終らせます。ある高速道路会社から「試作機でも良いから使わせてほしい」と頼まれているそうです。しかし、現在の実験を反映し、もう一度試作機を作って仕様を固めてから製品化する予定とのこと。慎重ですね。

私は国際ロボット展を初めて訪れました。全体もざっと歩き回り、自動化やロボットには大きく分けて3種類あるのかな、と思いました。「人手不足を補うロボット」、「人より効率よく作業するロボット」、「いままで人が危険にさらされていた仕事を担うロボット」です。人機一体の出品は10点ありました。共通点は「いままで人が危険にさらされていた仕事を担う」でした。

人機一体株式会社の現在の社員は11名とのこと。少数精鋭でこれだけの開発を担うとは驚きです。開発リーダー兼社長の金岡に聞くと社員募集中とのことです。エリート集団に加わりたい人は、ぜひ公式サイトをごらんください。

株式会社人機一体 | Man-Machine Synergy Effectors, Inc.

国際ロボット展は2024年も9月18日~20日に「Japan Robot Week 2024」として開催されるようです。また来年、人機一体さんも来てほしいなあ。どんな進化を見せてくれるでしょうか。

鉄道ライター

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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