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東京・神田に「木次線スイッチバックの巨大ジオラマ」がやってきたぞー!!

杉山淳一鉄道ライター
木次線スイッチバックジオラマが東京にやってきた(筆者撮影)

昨年秋に島根県で開催された『鉄道マンガ展@奥出雲』が名前を変えて『出発進行ー! ジオラマと鉄道マンガ展 がんばれ! 山を登る列車・木次線』として東京で開催中です。会期は2023年7月14日から同年8月13日まで、会場は東京・神田の「TOBICHI東京」です。地下鉄神保町駅A9出口からたった5分歩くだけで着きます。入場券は100円の硬券きっぷになっていて、ダッチングマシン(日付刻印機)、改札鋏の体験ができます。

最大の見どころはJR木次線の三段式スイッチバックを再現したジオラマです。Nゲージ(縮尺1/150)で、幅は360cm、奥行き90cmで、出雲坂根駅周辺の風景が再現されています。駅舎はもちろん、線路配置、周辺の建物、線路の高低差も本物ソックリです。

出雲坂根駅を出発しスイッチバハックに挑む列車(杉山淳一撮影)
出雲坂根駅を出発しスイッチバハックに挑む列車(杉山淳一撮影)

しかも自動運転システムで列車が動きます。標高の高い方、低い方から列車が降りてきて出雲坂根駅に到着。それぞれ方向を逆転して、高い方からきた列車は低い方へ、低い方からやってきた列車は坂道を上り、信号場でまた向きを変えて坂道を上っていきます。

ジオラマの企画制作者は元マンガ雑誌編集者の江上英樹さん(と仲間たち)です。江上さんはかつて小学館のマンガ雑誌『IKKI』の編集長でした。鉄道マンガの名作『鉄子の旅』では本人も登場するほどの鉄道ファンでもあります。江上さんはとくに「スイッチバック」が大好きとのこと。

江上英樹さん。まるでマンガから出てきたようなポーズをキメてくれました(杉山淳一撮影)
江上英樹さん。まるでマンガから出てきたようなポーズをキメてくれました(杉山淳一撮影)

スイッチバックとは「列車が駅に到着して、進行方向を逆転し、別の駅に向かう」仕組みです。出発した駅に戻れば「折返し」ですが、別の駅に向かえば「スイッチバック」になります。スイッチバックは主に山岳路を克服する方法として採用されました。自動車道路で言うところの「つづら折り」です。鉄道車両は急勾配を登れないので、緩やかな勾配を折り重ねて、上っていくわけです。関東では箱根登山鉄道が有名です。

スイッチバックは長大トンネル技術が未発達な時代に峠を越える路線で作られました。峠の難所を克服するための、当時の鉄道技術者の知恵と技術の結晶です。乗り鉄的には、同じ場所で行ったり来たりする間に、景色の高さが変わっていくところがおもしろい。線路好きにとっては分岐器がたくさんあって制御がおもしろい。そして、山岳路線だけに景色が良く、ローカル線を旅する人々にも人気があります。

左上に見える列車が折り返して右側の出雲坂根駅に到着します(杉山淳一撮影)
左上に見える列車が折り返して右側の出雲坂根駅に到着します(杉山淳一撮影)

こちらは実物の出雲坂根駅(杉山淳一撮影)
こちらは実物の出雲坂根駅(杉山淳一撮影)

江上さんはそんなスイッチバックに魅せられて各地を旅しました。ところが、大好きなスイッチバックがある路線のひとつ「JR木次線」が廃線のピンチです。木次線は山陰本線の宍道駅から斐伊川沿いに木次(きすき)駅を経由して、中国山地の備後落合駅に至る路線です。備後落合駅には芸備線が接続して、広島に通じています。かつては山陰と山陽を結ぶ「陰陽連絡線」として重宝された路線です。

木次線とスイッチバックの位置(地理院地図を筆者加工)
木次線とスイッチバックの位置(地理院地図を筆者加工)

しかし現在は高速道路の発達もあって「陰陽連絡線」としての利用者はほとんどいません。JR西日本の路線の中でも木次線は利用客が少なく、とくにスイッチバックのある出雲横田~備後落合間は平均通過人員(1日1kmあたりの利用客数)が下から2番目の35人。それも観光列車「奥出雲おろち号」のおかげで最下位を逃れている状況でした。ちなみに最下位は芸備線の東城~備後落合間の13人です。

ところが「奥出雲おろち号」は車両の老朽化によって今年で引退することになりました。後継の観光列車としてディーゼルカー「あめつち」の木次線乗り入れが決まりましたが、この車両はスイッチバックを上る性能がなく、出雲横田駅で引き返してしまいます。

このままでは木次線がピンチ。いや、出雲横田までは残るかもしれないけれど、スイッチバック区間はビンチ!! というわけで、江上氏は「木次線・出雲坂根スイッチバックをなんとかするプロジェクト」を立ち上げます。

(杉山淳一撮影)

その第一弾として、昨年秋に道の駅おろちループに併設された「鉄の彫刻美術館」で『鉄道マンガ展@奥出雲』を計画しました。クラウドファンディングを実施し、多くの鉄道ファン、鉄道マンガファンの賛同を得ました。なんと江上さんは木次線沿線にアパートを借りて、半年間にわたり風景取材とジオラマ制作を敢行しました。もちろん通勤は木次線です。定期券も買ったそうです。

『鉄道マンガ展@奥出雲』で展示されたスイッチバックジオラマ(杉山淳一撮影)
『鉄道マンガ展@奥出雲』で展示されたスイッチバックジオラマ(杉山淳一撮影)

この巨大スイッチバックジオラマは、『鉄道マンガ展@奥出雲』の終了後、木次線沿線のイベントで展示されました。そしてついに東京進出です。見たかったけど奥出雲は遠くて行けないよ……と思っていた皆さん、良かったですね。出前が届きましたよ。しかもさらに樹木や建物が増えてリアルになっていましたよ。でも、これを見たら奥出雲へ行って木次線のスイッチバックに乗りたくなっちゃいますよ……。

開催初日のテープカット。左から島根県雲南市副市長の吉山治さん、江上英樹さん、鉄道大好き女優の村井美樹さん、島根県奥出雲町政策企画課長の石原耕司さん。(杉山淳一撮影)
開催初日のテープカット。左から島根県雲南市副市長の吉山治さん、江上英樹さん、鉄道大好き女優の村井美樹さん、島根県奥出雲町政策企画課長の石原耕司さん。(杉山淳一撮影)

奥出雲の頃よりディテールがアップしたジオラマで、お気に入りの場所を指さしてください、と無茶振りしました(笑)(杉山淳一撮影) 
奥出雲の頃よりディテールがアップしたジオラマで、お気に入りの場所を指さしてください、と無茶振りしました(笑)(杉山淳一撮影) 

ジオラマの周囲の壁に『鉄道マンガ展@奥出雲』で展示されたマンガのパネルがあります。木次線は『鉄子の旅』のほか、数々の鉄道マンガに登場しています。鉄道マンガって、たくさんあるんですね。タイトルを覚えて、帰りに神保町の書店街で買って帰りましょう。

入場券は100円です。ホンモノのダッチングマシンで日付を入れて、鋏を入れて、きっぷは記念に持ち帰りましょう。(杉山淳一撮影)
入場券は100円です。ホンモノのダッチングマシンで日付を入れて、鋏を入れて、きっぷは記念に持ち帰りましょう。(杉山淳一撮影)

木次線グッズや奥出雲の名産品も販売しています(杉山淳一撮影)
木次線グッズや奥出雲の名産品も販売しています(杉山淳一撮影)

詳しくはこちらをごらんください。

『出発進行ー! ジオラマと鉄道マンガ展 がんばれ! 山を登る列車・木次線』

会場のTOBICHI東京は、コピーライターの糸井重里氏が主催する「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」が運営する場所です。ほぼ日グッズを販売する「店舗」とイベント会場があります。公式Twitterでジオラマ運転スケジュールなどを発信しています。

(2023年7月19日15時12分 タイプミスなどを修正しました)

鉄道ライター

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴半世紀超。2021年4月、日本の旅客鉄道路線完乗を達成。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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