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デュラント、アービングは波乱を起こせるか ネッツの混沌のシーズンの行方は

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 同市ライバルのニックス相手に21点差を逆転勝利

 ブルックリン・ネッツの今季を象徴するような一戦と言えたのかもしれない。

 4月6日、マディソンスクウェア・ガーデンで行われたニューヨーク・ニックス戦。まずまずのスタートを切ったネッツだったが、すぐに懸案のディフェンスが崩壊してしまう。第2クォーターには大量38失点を奪われ、前半終了時点で17点、第3クォーター途中で最大50-71と21点のリードを許した。

 この日まで35勝44敗と低迷し、プレーオフ進出の可能性がなくなったニックスは若手中心のメンバーだった。そのチームに数え切れないほどのオープンショットを許す様は、開幕前は優勝候補に挙げられたパワーハウスの戦いぶりには到底見えなかった。

 「前半は良くなかった。戦っていなかったし、魂もエナジーもなかった」

 スティーブ・ナッシュHCのそんな言葉通り、まさにシーズン途中にカンファレンス1位から10位まで急落していったチームらしいと思えたのだった。

 ところがーーー。後半に入ると、19.812人の観衆(ソールドアウト)を飲み込んだ“ザ・ガーデン”の空気は変わり始める。第3クォーターのネッツは見違えるように守備を引き締め、この12分間はニックスを15得点(FG5/20)に封じて反撃体制。その後、切り札のケビン・デュラントが引き継ぎ、KDは第4クォーターだけで13得点、9リバウンド、6アシストをマークして追撃の牽引車になった。

 さらにカイリー・アービングが例によって第2のプレーメイカーになり、この日はセス・カリー(3ポイントシュート3/7)、パティ・ミルズ(同5/7)という2人のシューターも好調だった。こうして攻守がようやく噛み合ったネッツは、後半だけなら60-31という圧倒的な大差で突き放し、同じニューヨーク市内のライバルから貴重な1勝を挙げたのだった。

今後を楽観視するのは難しいが

 「前半は常々心掛けているネッツらしいバスケットボールができなかった。ただ、後半は僕たちらしかった」

 デュラントのそんな言葉が示す通り、前後半であまりにも両極端だった最新のニックス戦は、冒頭で述べたように、ネッツの短所と長所が分かり易く示されたゲームだった。緊張感に欠けるときのディフェンス難は深刻で、ディフェンシブ・レイティングは全30チーム中20位。最終的にはひっくり返したとはいえ、ジュリアス・ランドル、デリック・ローズ、ミッチェル・ロビンソンを欠いたニックスに、そもそも前半だけで70点も許してしまうこと自体が大きな問題に違いない。

 4月5日のヒューストン・ロケッツ戦、6日のニックス戦で連勝したネッツは現在、イースタン8位。シーズン残り2戦を連勝すれば7位に浮上し、プレイイン・トーナメントでは地元で2試合を戦える可能性が膨らんできたのは好材料ではある。ただ、今季の不安定さを見る限り、ポストシーズンでの勝ち抜きを楽観視するのは容易ではない。

ネッツ移籍後も、シモンズはなかなかプレーの準備が整わない
ネッツ移籍後も、シモンズはなかなかプレーの準備が整わない写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「シモンズがプレーオフでプレーしたら、私は心底から驚くよ」

 あるネッツ番記者はそう述べていたが、実際にヘルニアを患っている好ディフェンダーのベン・シモンズは移籍以降、まだ1戦もプレーしておらず、守備面の援護は得られそうもない。だとすれば、プレイインでトレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)、ラメロ・ボール(シャーロット・ホーネッツ)といったスターたちに追い詰められても不思議はない。

 プレイインを突破しても、プレーオフ第1ラウンドでディフェンスのいいマイアミ・ヒート、ミルウォーキー・バックス、ボストン・セルティックスといった強豪との7戦シリーズを制す姿は想像し難い。そうなってくると、今季はプレーオフ早期敗退の可能性が最も高そうではある。

 ただ・・・・・・。すべての後で、ネッツはそれでも上位陣には厄介なチームではあるのかもしれない。ニックス戦で示された通り、デュラント、アービングというリーグ最高級のデュオを軸に、波に乗った際の爆発力は時に守備の弱点を補って余りあるものがあるからだ。

イースタンのダークホース

 もちろん低迷中のニックスが相手の逆転勝利を大袈裟に騒ぎ立てるべきではないが、シモンズの古巣との対戦でモチベーションが高かった3月10日のフィラデルフィア・76ers戦、イースタン1位チームを粉砕した同26日のマイアミ・ヒート戦など、守備面で緊張感がある日のネッツはこれまでも随所にポテンシャルを感じさせてきた。オーバータイムの末に119-120で敗れたものの、昨季王者のバックスと激闘を演じた同31日のゲームも見応えがあった。

”現役最高の選手”とも称されるデュラントの存在ゆえにどんなチームが相手でも勝機はあるという見方も
”現役最高の選手”とも称されるデュラントの存在ゆえにどんなチームが相手でも勝機はあるという見方も写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「僕たちはどんな日でも仕事をやり遂げられるのはわかっている。最後に勝ち残るのは自分たちがだと信じている」 

 単発で良いゲームはあっても、層の厚いイースタンを突破するのは至難に思えるだけに、ミルズのそんな言葉は少々楽観的に過ぎるのかもしれない。

 とはいえ、プレーオフに入れば苦手の連戦がなくなり、デュラント、アービングは連日40分以上をプレーできるのは好材料。オフェンスでもこの2人の個人技頼みという批判はあるが、スター選手のタレントがモノをいうNBAにおいて、そのシンプルな戦術は極めて効果的ではある。特にカリー、ミルズといった周囲のシューターが好調な日のネッツは、上位陣にとっても警戒を要するダークホースではあるのだろう。

 アービングのワクチン未接種問題、故障者続出、ハーデンの移籍志願、シモンズ獲得後も続いた混沌・・・・・・。短くない期間、NBAの取材を続けてきた筆者から見ても、これほどクレイジーなシーズンは珍しかった。アップ&ダウンが極めて激しいネッツの長い旅は、いよいよ大詰めを迎えようとしている。

 ブルックリンのタレント集団の2022~22シーズンは、プレイイン・トーナメントが行われる来週中にも終焉するのか。それともストーリーはもうしばらく続くのか。ここまでの経緯を考えれば、最後の最後まで、波乱の日々が継続してももう誰も驚くべきではないのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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