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NBAで衝撃の移籍劇 大型トレードの未来予想図を地元紙コラムニストが分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米スポーツ界を震撼させた大トレードの勝者はどちらかーーー。

 NBAトレード期限の現地2月10日、ブルックリン・ネッツがベン・シモンズ、セス・カリー、アンドレ・ドラモンドと未来のドラフト1巡目指名権を2つ、フィラデルフィア・76ersはジェームズ・ハーデン、ポール・ミルサップをそれぞれ獲得するトレードの成立が発表された。

 まだ25歳のシモンズは過去にオールスター3度、新人王1度のスター選手だが、チームとの不和から今季は出場を拒んできた。一方、オールスター選出10度、得点王3度、シーズンMVP1度という32歳のスーパースター、ハーデンは昨季途中にネッツに移籍するも、チームの方向性に不満を持っていたと伝えられる。

 こうして2人のスターが絡んだ特大トレードはどちらにより大きな旨味があり、両チームにどんな結果をもたらすのか。フィラデルフィア・インクワイヤラー紙のコラムニスト、マーカス・ヘイズに意見を求めた。1990年代からフィラデルフィアで取材、執筆し、街の気質まで知り尽くしたベテランライターの言葉には説得力がある。

76ersは大きく戦力アップ

 私は今回のトレードは76ersにとって素晴らしいものになったと考えています。今季のチームにまったく貢献していなかったシモンズ、SGのレギュラーではあってもロールプレーヤーのカリー、控えセンターのドラモンド、上位にはなり得ない2つのドラフト1巡目指名権という交換要員で、将来の殿堂入り選手を獲得したのですから。

 もちろんシモンズもスター選手ですが、もう76ersでプレーすることはないと分かりきっていたのであれば、その選手を代わりのスーパースターを獲得するトレードに生かしたダリル・モーリーGMは見事な仕事をしたと思います。このトレードでネッツも向上したはずですが、76ersにとってより良いものだったというのが私の意見です。

 フィラデルフィアに住む人間でなければ、タイリース・マキシー、マティス・サイブルがどれだけこのオーガニゼーションとそのファンから感謝されているかを理解するのは難しいかもしれません。ハーデンというスーパースターを獲得するトレードで、その2人のうちのいずれも放出せずに済んだのは76ersにとって本当に重要なことでした。

短期間に2度目の移籍希望

 このトレードが短期間で成立までいったことに私も驚きましたが、中でも最大のサプライズはハーデン本人が移籍を希望したことでした。ネッツはハーデンを含む3人のスーパースターを軸に構成されたチーム。そこからこれほど短期間に出ていくことを本人が望むとは考えてもいなかったのです。

 ネッツはケビン・デュラント、カイリー・アービング、ハーデンというトリオが健康であれば今季中に優勝できると考えていたはず。このトレードはハーデン自身が熱望しなければ起こり得なかったでしょう。

 ハーデンはヒューストン・ロケッツ時代に移籍志願したのに続き、これで短期間に2度も所属チームに放出を要求したことになります。様々な意見があると思いますが、私はそのことは大きな問題とは思いません。

シモンズ(右)とマッチアップするロケッツ時代のハーデン
シモンズ(右)とマッチアップするロケッツ時代のハーデン写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 アンソニー・デービス、カワイ・レナードもトレードを希望し、デービスはレイカーズに、レナードはラプターズに移籍後にそれぞれ優勝を飾りました。そのような成功例があるのなら、自身の運命をコントロールしたいと考えるスター選手のやり方を私は否定できません。

 ハーデンが76ersでファイナル制覇を成し遂げたなら、フィラデルフィアの街にとって素晴らしいことですし、このやり方はスター選手のビジネスモデルとしては有効なものとみなされるでしょう。NBAで優勝するのは本当に大変なことなので、1度でもそれを果たせばすべては正当化されるのです。

シモンズの欠点とは

 76ersを去ることになったシモンズについて触れておくと、彼はこの街でプレーするには繊細すぎたと思います。これまでのキャリアでも甘やかされており、「ノー」と言われることに慣れていなかった印象です。周囲の人間も、彼にとってベストになるはずのことを告げてはきませんでした。シモンズはルイジアナ州立大学も良い辞め方をしなかったのはよく知られていることです。

 私はバスケットボールプレーヤーとしてのシモンズを高く評価していたので、昨季プレーオフ(アトランタ・ホークスとのカンファレンス・セミファイナル第7戦)でノーマークの状況でダンクにいかなかったこと、これほどまで76ersから自身を切り離してしまったことには驚かされました。彼のキャリアを見てきて、もっとプロ意識のある選手だと考えていたのです。

 しかし、今季のやり方はプロとしての姿勢からはほど遠いものであり、自分の意思を示すのには臆病な方法だったと思っています。そんな彼の性格的な部分は変わらないはずですし、私がネッツの人間であれば懸念せずにはいられないでしょう。

 とはいえ、シモンズはネッツでは活躍すると思っています。デュラント、アービングと同じチームであれば多くのシュートを打つ必要はないですし、得意の守備でチームディフェンスの向上に貢献できるに違いありません。サイズに恵まれたパワフルなボールハンドラーとしても、相手ディフェンスにプレッシャーをかける役割を果たせるのではないでしょうか。

 そう考えていくと、やはり今回のトレードは両チームにとって良いトレードでした。ただ、繰り返しますが、76ersの方により大きな戦力アップをもたらすというのが私の見方です。

76ersにファイナル進出の絶好期到来か

 ハーデンがチームに導入されることで、ハーデンとエンビードがメインのオフェンスを担当し、トバイアス・ハリスとマキシーには“2つめの波”を任せることができます。もともとハリスはキャリアを通じて相手の第3、4ディフェンダーを相手に得点を挙げてきた選手であり、マキシーも同様。この2重の分厚い攻撃陣は相手チームにとって脅威となるでしょう。

 ハーデン、エンビードが健康な状態であれば、76ersはどのチームと対戦することになってもイースタン・カンファレンス・ファイナルまで進む力はあります。

 プレーオフがどんな組み合わせになるかはわかりませんが、最大の強敵はやはり総合力の高い昨季王者ミルウォーキー・バックス。ネッツ、マイアミ・ヒート、シカゴ・ブルズと対戦しても76ersには十分に勝機があるし、バックスともすごいシリーズを展開することになるんじゃないでしょうか。今春はフィラデルフィアのファンにとってエキサイティングな季節になることでしょう。 

ヘイズ記者は今季プレーオフでの76ersの上位進出を予想する 撮影・杉浦大介
ヘイズ記者は今季プレーオフでの76ersの上位進出を予想する 撮影・杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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