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私が井上尚弥との戦いで学んだこと──ジェーソン・モロニー復帰戦直前インタビュー

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank

8月14日 オクラホマ州タルサ

WBC世界バンタム級シルバータイトル戦

ジェーソン・モロニー(オーストラリア/30歳/21勝(18KO)2敗)

10回戦

ジョシュア・グリーア Jr.(アメリカ/27歳/22勝(12KO)2敗2分)

井上尚弥との戦いで学んだこと

――井上尚弥(大橋)に7回KOで敗れて以来、久々のリング登場は間近に迫っていますが、コンディションはいかがですか?

ジェーソン・モロニー(以下、JM) : 調子は最高ですよ。リングに立つのが待ちきれません。井上戦からもう約10ヶ月が経ちましたが、もっと前に復帰戦を行いたかったというのが正直なところです。ここでブランクができてしまったのは残念ですが、その間もハードワークを続けてきました。今回のグリーア戦でその成果を示し、バンタム級のトップ戦線に戻り、次のタイトル挑戦の機会を勝ち取りたいと考えています。

――改めて井上戦を振り返っていただきたいのですが、あの試合はあなたにとってどんな戦いだったのでしょう?

JM : ちょうど何日か前に、あの試合の映像をトレーナーと一緒に見直してみたばかりです。今、言えるのは、井上は特別な選手だということ。試合前から井上の強さはわかっていたつもりですが、そうやって覚悟を持って臨んだ私にとってもやはり巨大な相手でした。私は最強の選手を相手に自分を試し、あの日に関しては力が及ばなかったということです。ただ、あの試合で多くを学ぶことができたので、ポジティブな経験だったとも考えています。

――具体的には井上戦であなたは何を学んだのでしょうか?

JM : あの試合で学んだのは、私が目標を達成するために辿り着かなければいけない位置です。井上は本当に素晴らしいファイターであり、ベストと呼ばれる選手のレベルを見せてくれました。スピード、パワー、技術、ペースの取り方など、彼はすべての面で優れており、対処するのは簡単ではありませんでした。私が世界王者になるためにやらなければいけないものを井上が見せてくれたのです。おかげでまた新しいモチベーションを得て、以降も可能な限り最高の選手になるための練習をこなしてきたつもりです。

――あなたはベストを尽くしたと思いますが、振り返ってみて、細かい反省点はありましたか?

JM : こうすれば良かった、ああすれば良かったという反省点はどんな試合後も常にあります。井上戦に関しては、アウトボクシングをしようとし過ぎたところがありました。本来ならもっと近づき、より積極的に仕掛けるべきだったのかもしれません。ただ、私にそれをできなかったというよりも、賢明で爆発力を備えた井上がそうすることを許してくれなかったということなのでしょう。

――敗れはしましたが、井上戦の後、あなたの勇敢な戦いぶりと礼儀正しい態度に好感を持ったファンは日本にも多かったようです。

JM : 今でも日本のファンからソーシャルメディアなどでメッセージを受け取ることがありますよ。彼らが私のこともフォローし続けてくれることには感謝していますし、その気持ちにグリーア戦の勝利という形で応えたいと願っています。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

絶対に負けられない“マスト・ウィン”の戦い

――今回の対戦相手であるグリーアの印象は?

JM : 良い選手だと思います。シャープだし、ハンドスピード、パワーも備えています。ただ、グリーアが私が目指すレベル、私が現時点でいるレベルにいるとは思いません。グリーア戦では良い内容の試合をして、私が一段上のレベルにいると示さなければいけないのです。

――2連敗を喫するようなことがあれば、評価、商品価値に大打撃です。絶対に負けられない、いわゆる“マスト・ウィン”の戦いだというプレッシャーは感じていますか?

JM : 私とグリーア、両方にとって絶対に勝たなければいけない戦いですね。多くのものが委ねられた試合だというのは理解しています。ただ、必要以上のプレッシャーは感じていません。これまでもボクシングを真剣に捉えてきましたし、それだけのことはやってきました。積み上げてきたものがあるからこそ、今回も自分の仕事をやるだけだと感じられるのです。

――ただ勝つだけではなく、勝ち方が問われる一戦という意識もあるのでしょうか?

JM : その通りです。パウンド・フォー・パウンド最高級の選手が相手だったとはいえ、私は前戦で敗れたわけで、そんな試合の後にどうやって巻き返すかに人々は注目するものです。私は負けた後により良いボクサー、より強いボクサーになったことをここでアピールしなければいけません。必要なのは支配的なパフォーマンス。井上相手の敗戦が、私のキャリアを象徴するわけではないことを示さなければいけないのです。

――まずはグリーア戦に集中ですが、この試合に勝った後の方向性をどんなふうに思い描いていますか?

JM : またバンタム級の世界タイトルに挑戦したいです。井上は統一戦路線に足を踏み出しているので、彼との再戦が今の私の手の届くところにあるとは考えていません。ただ、バンタム級には他にもノニト・ドネア、ジョンリエル・カシメロ(ともにフィリピン)、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)といった王者たちがいます。まずは井上がドネア、カシメロ対リゴンドーの勝者のどちらとの対戦を望むか次第。それを見極めてから、私もまた世界王者を目指して前進していきたいと思っています。その目標に近づくためにも、まずはグリーアに勝たなければいけません。今回の試合は、これまでの私のキャリアでも最も重要な一戦だと言って良いのでしょう。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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