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アメリカ代表「史上最高の五輪選手」が威力発揮 男子バスケはベスト4の激突へ

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

一時は二桁リードを許すも、逆転勝利

 “The greatest American Olympic basketball player ever(アメリカ・バスケットボール史上最高の五輪選手)”―――。

 このままアメリカが勝ち進めば、ケビン・デュラントがそんなふうに呼称され始めたことに異議を唱えるものはほとんどいなくなるだろう。8月2日、スペインを相手に行われた東京五輪の男子バスケットボール準々決勝でも、アメリカの最終兵器はその威力をまざまざと誇示してくれた。

 結果的にアメリカは95-81でスペインに快勝して準決勝進出を決めたが、すべてが順調だったわけではない。第1クォーターだけでリッキー・ルビオに13得点を許し、最初の10分終了時点で19-21と2点のビハインド。第2クォーターもリバウンドを支配され続け、一時は29-39と二桁リードを許してしまった。

 “負ければ終わり”のプレッシャーの中で、アメリカは最初の15本の3Pシュートのうちの12本をミス。オフェンスがなかなか機能せず、ドレイモンド・グリーンは「少しパニックを起こした」と認めている。しかし、そんな中でも一気に流れを変えられるタレントがいることがアメリカの強さである。

 前半を14-3のランで締め括って43-43の同点にしたアメリカは、第3クォーター開始早々から再び力強い攻守で引き離しにかかる。勝負を決めたこの時間帯に力を発揮したのは、やはりデュラントだった。

自己3個目の金メダルを目指す切り札が得点力を披露

 第2クォーター終盤、3Pシュートとダンクでチームに勢いをつけた通称“KD”は、エンジン全開となった第3クォーターは合計13得点。3本の3Pシュートを軽々と決め、さらにスティール、アシストと大黒柱の働きでチームを引っ張った。

 「ケビン・デュラントは素晴らしかった。彼は僕たちが必要としていることをやってくれた。彼こそが世界最高の選手だと示し、僕たちにはそれが必要だった」(米メディアの報道より)

 試合後、ドレイモンド・グリーンはそう語ったが、実際にまだ勝負の行方がわからない状況でのエースの活躍には千金の価値があった。

 ようやく主導権を掴んだアメリカは、以降は安定した強さを披露する。第3クォーターはディフェンス面でも最初の5分44秒は相手にFGを許さず、チーム全体でゲームを通じて14スティール。ジェイソン・テイタムはベンチ登場で13得点を挙げ、さらにドリュー・ホリデーの攻守両面での貢献も目立った。

 第3クォーターも残り4分33秒の時点で16点差をつけられながら、その後に再び追い上げた2年前のW杯王者スペインの粘りも見事ではあった。中でもルビオは圧巻の出来で、ゲーム最多の38得点。それでも後半のアメリカのプレーには安定感があり、最終クォーターに4点差まで粘られた際にもそれほどの危機感は感じられなかった。

次戦では今大会無傷の4連勝のオーストラリアと激突

 「序盤はなかなかシュートが決まらず、そこにつけ込まれてしまった。適切なショットを打っても入らず、7、8点差をつけられた際には少し慌ててしまった。ただ、第2クォーターに同点にできたのは大きかった。第3クォーターには相手を圧倒し、その後に追い上げられたけど、そこから締めくくることができた」

 試合後、NBCのインタビューを受けたデュラントはまるで人ごとのようにゲームを振り返ったが、KDこそが勝利の立役者だったことに疑問の余地はない。

 前戦のチェコ戦でアメリカ代表史上最多得点記録を更新した切り札は、苦境時にも流れを手繰り寄せてくれるウィニングチケット。英語には”セキュリティ・ブランケット(=安心毛布。安全を保証するもの)”という表現があるが、今回のチームでは、過去2大会でも金メダルを勝ち取った実績があるデュラントこそがその存在なのだろう。

 準決勝の相手はアルゼンチンに大差で勝って上がって来たオーストラリア。アメリカは過去、オーストラリアにはエキジビションゲームで2連敗を喫している。今大会は無傷の4連勝と好調で、男子バスケでは初のメダルを目指して臨んでくる強豪が難敵であることは間違いない。

 ただ、身体能力を生かした守備で相手を食い止め、攻撃時のボールムーブメントも向上し、デュラント、テイタムを先頭とするタレントの個人技で必要な得点を奪えるアメリカは、今回のメンバーでの戦い方を確立させてきているようにも思える。だとすれば、準決勝もエキサイティングな攻防は必至か。

 有力国、スター選手の活躍で盛り上がる男子バスケもいよいよ大詰め。ついに勢いを感じさせ始めたデュラントとアメリカのスパートの時間が、まもなく始まろうとしている。

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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