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アメリカの敗戦はもはや”衝撃”ではない 五輪4連覇を目指すバスケ王国は立て直せるか

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

フランスには世界選手権に続いて2連敗

 もはや“大番狂わせ”と呼ばれるべきではなかったのだろう。

 7月25日、さいたまスーパーアリーナで行われた東京五輪のバスケットボール男子予選ラウンドで、FIBA世界ランキング1位のアメリカは同7位のフランスに76-83で敗北。NBAのスター選手をそろえた金メダル争いの本命は黒星スタートとなった。

 第4クォーターの残り3分30秒まで7点をリードしながら、以降、アメリカは9本のFGをすべて外して沈黙。残り1分を切ったところでゲームハイの28得点を挙げたフランスのエバン・フォーニエに3Pシュートを決められて逆転を許すと、ケビン・デュラント、バム・アデバヨ、ザック・ラビーン、ドリュー・ホリデーが放った決まれば同点か逆転のショットがことごとく外れて万事休すとなった。

 アメリカが五輪で敗れるのは銅メダルに終わった2004年のアテネ大会以来。その後に続けて来たオリンピックでの連勝が25でストップした形だが、そんな記録的な背景からくる衝撃は今回の敗戦にはなかった。

 「素晴らしい勝利だ。母国の人たちは誇りに感じてくれているだろう。ただ、まだ1試合に過ぎない」

 試合後、今戦を中継したNBC局のインタビューを受けたフォーニエはそう答え、実際にフランスの選手たちは喜びを爆発させたわけではなかった。

 エキジビションゲームでは日本代表に敗れる不覚も経験したフランスだが、ロースターには多くのNBA選手が敷き詰められた強豪だ。2019年の世界選手権に続き、アメリカはこれでフランスに2連敗。世界選手権で7位に終わったのに続き、今大会前のエキジビションでもナイジェリア、オーストラリアに敗れたアメリカが、ここでフランスに屈することはもう予想できない結果ではなかったのだ。

アメリカ代表の五輪最多得点更新も視界に捉えたデュラントだが、フランス戦では母国を救えなかった。
アメリカ代表の五輪最多得点更新も視界に捉えたデュラントだが、フランス戦では母国を救えなかった。写真:ロイター/アフロ

準備不足は顕著のアメリカ

 今回の試合に限っていえば、やはりエーススコアラーであるデュラントのファウルトラブルは痛かった。前半だけで3ファウルを献上した通称“KD”は、20分40秒のプレー時間で10得点止まり。これまで国際試合では強さを発揮してきた主砲に存在感がなく、最後までリズムに乗れなかった印象がある。

 そんな誤算もあって、この日のアメリカはチーム全体でFG成功率36%、3Pは同31%とオフェンスが不発。NBAファイナル終了直後に駆けつけたホリデーの頑張りなどで第3クォーターに最大10点をリードした時間帯もあったのだが、そこでもサイズで上回るフランスを一気に引き離すには至らず。デュラント、デイミアン・リラードといった切り札の不振もあって、終盤は完全に手詰まりになった。

 ただ・・・・・・こうしてエースが多くの時間をプレーできなかったことも、もちろん“不運”などという言葉で片付けられるべきではあるまい。

 「(NBAとFIBAでは)多くの違いがある。まずはオフィシャル(レフェリー)だ。ケビン(・デュラント)がフィジカルに良い仕事をしたら、ファウルを吹かれてしまっていた。僕たちはNBAの判定に慣れている。今日の試合から学ばなければいけない」

 リモート会見でホリデーが残していたそんな言葉は、何より、アメリカの一部の選手たちの準備不足を物語る。

 デュラントは代表チームでも最高級の実績を残して来ているが、今回のチームには国際試合の経験が少ない選手が多いことはすでに語られて来た通り。前回のリオ五輪経験者はデュラント、ドレイモンド・グリーンの2人だけ。2年前の世界選手権の経験者もジェイソン・テイタム、クリス・ミドルトンの2人のみと、継続性のなさは顕著だ。

王国はここから立て直せるか

 パンデミックゆえにNBAの2020~21シーズンの日程が後ろ倒しになり、例年以上に急ごしらえのチーム作りを余儀なくされたのもアメリカにとって痛かった。近年はアメリカと世界各国のタレント数の差が詰まったのに加え、多くの強豪国はより長期視野での経験を積み重ねている。これらの諸条件ゆえにチームとしての成熟度に大きな違いがあるのだとすれば、アメリカの苦戦は当然か。

 五輪前のエキジビションゲームでも、今回のフランス戦でも、相手のディフェンスがタイトになるとアメリカはなかなかボールが回らず、結局はアイソレーション頼みとなってしまう要因をチーム内のケミストリー不足に見出すことができる。

NBA史上屈指の名将と評価されるポポビッチHCもアメリカ代表では苦戦続き。今後の適応に注目が集まる。
NBA史上屈指の名将と評価されるポポビッチHCもアメリカ代表では苦戦続き。今後の適応に注目が集まる。写真:ロイター/アフロ

 ここまでは厳しい要素を盛んに述べて来たが、だからといってアメリカの金メダル獲得が絶望的になったなどと言いたいわけではない。

 まだ予選リーグで1敗を喫しただけで、巻き返しは十分可能。ファイナルに出場した3選手が前日に合流したばかりという厳しい条件だったにもかかわらず、フランス戦でも最後まで勝機を残したことからも明白な通り、アメリカにはやはり個人技に秀でた人材は豊富だ。デュラント、リラード、デビン・ブッカー、テイタムらを擁したパワーハウスなら当然のことながら、チームとしての伸びしろももちろん残している。

 「今夜の後でもまだポジティブに捉えてる。フランスは良いチームだけど、僕たちは毎試合ごとに向上していくよ」

 聡明なホリデーのそんな言葉も単なる強がりには思えず、実際にアメリカは今後、ゲームを重ねるごとに徐々にまとまっていくのだろう。

 ただ・・・・・・・問題は、時間的に間に合うのかどうか。他国と比べて急ごしらえのアメリカが、短期間にどれだけ成熟度を高められるかが勝負。これから先、“アメリカの4連覇への道”は時間との戦いでもある。

 グループリーグでの残りゲームはイラン、チェコとの対戦で、ここで2勝すればベスト8進出は確実。この2チームはフランスよりも力が落ちると目されており、実戦を通じてチーム力を整えていくには適した相手と言える。目論み通り、戦いながらケミストリーを養成できるかどうか、王国の行方から目を離すべきではない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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