ファンの期待に応えることの意味 〜ルーカス・マティセ対ルスラン・プロボドニコフ戦より
Photo By Emily Harney-HoganPhotos/GoldenBoyPromotionsBannerPromotions
4月18日 ニューヨーク州ベローナ
ターニングストーン・カジノ
スーパーライト級12回戦
ルーカス・マティセ(アルゼンチン/37勝(34KO)3敗)
2−0判定(114-114、115-113、115-113)
ルスラン・プロポドニコフ(ロシア/27勝(17KO)4敗)
予想通りの激しい殴り合い
マティセは2014年(対ジョン・モリナ戦で11ラウンドにストップ勝ち)に、プロボドニコフは2013年(対ティム・ブラッドリー戦で判定負け)に全米記者協会選定の年間最高試合に絡んでいる。そんな2人が対戦すれば、好ファイトとなるのは必然。そして、ニューヨーク郊外ベローナに集まった4500人(チケットは完売)のファンの前で、2人の激闘王は期待通りの打ち合いで魅せてくれた。
序盤はスピード、スキルに勝るマティセが主導権を握り、タフネスと果敢な連打で応戦しようとするプロボドニコフは第2ラウンドに早くも左目をカット。それでも第4ラウンドには両者がKOパンチを振りまわし合い、“年間最高ラウンド候補”と言えるバトルとなった。
以降は再びマティセが高確率で左右をヒットし続け、ポイントをコレクト。しかし、プロボドニコフも敗色濃厚となった第11ラウンド、強烈な左フックでアルゼンチン人をぐらつかせる見せ場を作った。
「11ラウンドには横顔にパンチを受け、効いてしまった。目眩がしたよ。だから足を動かすことを心がけたんだ」
試合後、マティセもこのラウンドは厳しかったことを認めていた。
そんな終盤のドラマの後でも、この試合は一部で予期されたディエゴ・コラレス対ルイス・カスティーヨのような伝説的な死闘にまでは至らず、年間最高試合にも届かないかもしれない。そうだとしても、山場が散りばめられた激しい好打戦で、12ラウンドを通じて観客を飽きさせなかったことに変わりはない。
結局、試合は判定に持ち込まれ、ジャッジ3人のうち2人がマティセを支持。接戦ではあったが、ヒット数でマティセが327発、プロボドニコフは201発と大きな差があっただけに、まずは妥当な採点ではあっただろう。
マティセ対クロフォード?
2013年9月にダニー・ガルシアに敗れて以降、これで3連勝のマティセは商品価値を回復させた感がある。そうなると、注目は“マシーン”と呼ばれる32歳のパンチャーが次に誰と対戦するか。
「ルーカスはマニー・パッキャオ、フロイド・メイウェザーのようなビッグネームと戦う機会を与えられるべきだ。オプションを探っていくことになる。休養が必要だから少し休んで、次の試合のことはその後。アルゼンチンで試合をすることになるかもしれない」
プロボドニコフ戦後、ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のオスカー・デラホーヤ・プロモーターはそう語っていた。
GBPとアル・ヘイモンの関係を考えれば、当面はメイウェザー戦は考えにくい。パッキャオ戦はあり得るが、フィリピンの雄の今後は5月2日のメイウェザー戦の内容、結果に大きく左右されるはずだ。
そんな状況下で、現実的に最も待望されるのが、同じ18日にテキサスでトーマス・ドゥローメを6ラウンドでストップしてWBO世界スーパーライト級王者となったテレンス・クロフォードとの対戦である。
26戦全勝(18KO)のまま2階級制覇を果たしたスピードスターには、“次期スーパースター候補”の声も挙がり始めている。GBPとクロフォードが所属するトップランクは協力体制だけに、マティセ戦はマッチメイク的にも問題もない。この試合はHBOもサポートすることが確実で、ぜひとも実現させて欲しいファン垂涎のカードである。
プロボドニコフもまだ終わっていない
一方、敗れたとはいえ、プロボドニコフのマーケットバリューもほとんど下がっていない。通称“シベリアン・ロッキー”は過去5戦で2勝3敗とはいえ、ブラッドリー、クリス・アルジェリ、マティセ戦はすべてどちらに転んでも不思議はない大接戦だった。
そのアグレッシブな姿勢、頑強さ、独特のキャラクターゆえに、“Bサイド”としては理想的な選手。ダメージを考えればしばらくは休んで欲しい気もするが、スタミナの権化のような本人はそれを良しとはしまい。
ロシアのタフガイは遠からずうちにブランドン・リオスあたりの対戦相手として再びHBOに起用され、悪くない額を稼ぐことになるのではないか。強い相手と戦い、ファンを喜ばせるために全力を尽くせば、例え敗れても相応の見返りが得られるものなのである。
アル・ヘイモンが陣頭指揮を執る「PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)」のような派手さも良いが、ボクシングファンが何より求めているのは、シンプルに実力者同士が激突する好カード、好ファイト。この試合はそれを供給してくれた。期待を越えるには至らなかったが、期待通りだった。
そう言った意味で、勝ったマティセ、最後まで健闘したプロポドニコフ、さらにはこの対戦を実現させたテレビ局、プロモーターまで含め、関わったすべての人間が”ウィナー”と言える珍しい一戦だったのだろう。