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都が国に先行、子供の命を守り育むこどもの権利擁護機関(こどもコミッショナー)の重要性 #こども基本法

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
こども基本法の成立を求めますPTキャンペーンページより

今国会に提出予定とされるこども基本法ですが、こどもの権利擁護機関(こどもコミッショナー)の条文化が焦点となっています。

こどもの権利擁護機関(コミッショナー)とは、「子ども政策で独立した立場で調査・勧告を行う」機関(公明党案では、子どもコミッショナー)であり、与党公明党だけでなく野党主要政党もその実現に前向きです(2022年1月20日、衆議院本会議・公明党・石井啓一幹事長質問、公明党HPより)。

子供の命を守り育むために非常に重要な機関であるため、こども基本法の成立を求める団体・専門家等も、設置を求めています(こども基本法の成立を求めますPT日本財団広げよう子どもの権利条約キャンペーン)。

1.こどもの権利擁護機関(コミッショナー)とは

こども政策の充実のためには、こども家庭庁の設置だけでは意味がなく、財源・人員と、子供たちの最善の利益を実現するための、こども基本法の3要件が必須であるということを、これまで私も主張してきました。

末冨芳「#最悪のこどもの日 の翌朝に思う #こども庁 は子ども基本法で子どもの声を聴き、子どもを守れ!」(2021年5月6日)

末冨芳「こども庁は財源論と子ども基本法とセットで本気の公約!#子育て罰をなくそう、#児童手当削減やめよう」(2021年4月2日)

こども基本法によって、子供の最善の利益を実現していくための重要な役割を担うのが、国のこどもの権利擁護機関(コミッショナー)です。

聞きなれない言葉なので、簡単に説明すると次のようなものになります(あくまで筆者である私の想定する役割です)。

・子供の重大な人権侵害(いじめ隠蔽・いじめ自殺・行政の対応不足による虐待死等)が発生したとき、行政から独立した立場で調査をし、自治体・関係機関や場合によっては民間子供産業・学習産業等にも改善勧告を行う。

・その後の改善状況のフォローアップも実施し、国民に報告する。

・日本全国において子供の基本的人権が守られているかどうかを定期的に調査し、国の施策等への改善勧告を行う(人権侵害であり違法性の高い理不尽な校則、性暴力、教職員・かかわる大人からの体罰・暴言等虐待的行為等)

・どうすれば子供たちが安全安心に生活したり、人権が守られるのか子供たちの意見も聞いて、改善策を検討する。

2.子供の命を守るためにこそ、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)を!

国土交通省・運輸安全委員会のように迅速・公正な調査で子供の人権侵害重大事態(子供重大インシデント)の検証・再発防止に

こどもの権利擁護機関(コミッショナー)を私が重要だと考えているのは、とくに子供の命が失われる悲しい事件をゼロにしていくうえで、不可欠だからです。

他の行政分野ですと、国土交通省の運輸安全委員会のように、重大事態(重大インシデント)が子供に起きたときに、現地に調査官を派遣し、その原因を究明し、再発防止をはかり、子供の命を守り、安全安心な環境を作っていくことが、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)の重要な役割となるべきだと考えています。

子供の重大な人権侵害(いじめ隠蔽・いじめ自殺・行政の対応不足による虐待死等)の際に、独立した調査・改善を行える役割を、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)が担うことができると、重大インシデントを減らすことにつながり、子供の命や安全が守られやすくなる可能性は高くなります。

大津市事件のように困難な状況の親子を放置し子供の命を守らない自治体や、あるいは川口市事件のようにいじめ・体罰被害者に不誠実な対応を繰り返し二次加害を続けるような、一部の不誠実な自治体・教育委員会・学校をゼロにしていくためにも、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)の設置が急がれるのではないでしょうか。

現在は、文科省や厚労省の官僚が現地派遣されて調査をしていますが、この方式だけで、調査権に限界があり、十分な原因究明も改善策・フォローアップもされてきませんでした。

こどもの権利擁護機関(コミッショナー)は、官僚以外の高い専門性と独立性の高い委員のもと、行政・学校に忖度しない調査権を持つ委員・調査官が、現地調査を迅速に行い、改善策・フォローアップもしていく役割を担うことも想定されています。

3.国に先行し東京都はこどもの権利擁護機関(コミッショナー)の実証事業を開始

都道府県・市町村は子供一人ひとりに寄り添う個別救済機能も重要

昨年3月にこども基本条例を制定した東京都では、市町村に「学校や家庭で子供の権利が侵害された場合に相談を受理して調査、勧告するコミッショナーの設置を促す」ために、約1億5000万円の予算を計上したそうです(産経新聞1月26日報道)。

ここで注意しておくべきは、国にも、地方自治体にも、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)が設置された時に、その役割が異なるだろう、ということです。

―国の役割は、子供の人権侵害の重大事態や、国全体の子供の人権侵害等の調査やその改善策の検討・勧告。

―地方自治体の役割は、自治体単位の子供の人権侵害等の調査やその改善策の検討・勧告のほか、子供一人ひとりに寄り添う個別救済機能も重要だということです。

神奈川県川崎市、東京都世田谷区、兵庫県川西市等では、子供の人権を守る機関(こどもオンブズパーソン、コミッショナーと同様の役割を担う)などの長い蓄積のある自治体もあります。

おわりに:子供は国の宝だからこそ、こどもの権利擁護機関を

子供は国の宝だからこそ、国と地方自治体、双方で子供の生命や安全が脅かされた時の相談体制や調査の体制を厚くし、子供の命が理不尽に奪われる事態をゼロにしていくことは、日本にとって重要なことではないでしょうか?

もちろん子供同士(保護者同士)の言い分がぶつかることもあり、権利擁護機関(コミッショナー)が難しい判断を迫られることもあるでしょう。

権利擁護機関(コミッショナー)の公正性・中立性を担保する仕組みも、重要になってくるはずです。

産経新聞にコメントを寄せられている保守派の論客・高橋史郎氏の指摘は、教育政策の研究者である私も重要であると考えます。

「コミッショナーが権限を乱用したり、相談内容を恣意(しい)的につまみ食いしたりすることを防ぐため、設置の段階で議会や市民のチェック機能を十分に働かせる必要がある」

設置の段階だけでなく、こどもの権利擁護機関(コミッショナー)が、どのような活動をし、子供たちの生命・安全安心を守る仕組みや人権侵害を改善してきたか、議会のチェック機能も大切になってくるでしょう。

議会でも、こどもの生命・安全安心を守り、こどもの人権侵害も許さないための質疑があたりまえのように行われる日本になることは、わが国の未来と子供の健やかな成長にとってとても大切なことだと考えます。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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