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文科省チェックリストはFAX叩きではなく教職員の働きやすさのため#学校のデジタル化 #専門家のまとめ

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
学校のデジタル化は子どもたちのために、先生の働き方を効率化し負担を軽くするため(写真:イメージマート)

文部科学省がFAX叩きをしている、そんな報道しかされていない「GIGAスクール構想の下での校務 DX化チェックリスト」ですが、本質をとらえていません。

実はこのチェックリストの重要な目的はFAX叩きではないのです。

「子どもたちのために、デジタル化によって教職員の校務負担を軽減しよう」ということなのです。

▼文科省チェックリストの目的は「教師が児童生徒と向き合うための時間を確保するための、校務全般のデジタルによる効率化・負担軽減」

文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト」に基づく自己点検結果の報告について(通知)」(12月27日)
※文部科学省が12月27日に発出した通知では、FAX撲滅とはどこにも書かれていません。そうではなく「教師が児童生徒と向き合うための時間を確保するためには、校務全般をデジタルによって効率化し、負担を軽減していくことが必要」であり、そのためにチェックリストを活用してほしいという目的が明記されています。

▼欠席連絡が未だにデジタル化できていない自治体が48.7%、保護者へのお便り・配布物も取り組みが進んでいない学校が66.9%

文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト~学校・教育委員会の自己点検結果~〔速報値〕」(12月27日公表)
※文科省チェックリストを活用した学校の自己点検結果p.3には、欠席連絡やお便り配布のデジタル化が進んでいない学校(一部している(半分未満)+全くしていない)が半数かそれ以上という深刻な実態が明らかされています。

▼FAX・ハンコ使用の原則廃止は「自治体をあげた改革意識」のシンボル指標

学校のデジタル化進まず「業務にFAXを使用」9割以上に(NHK・12月27日)
※集中的に報道された、FAX使用96%、ハンコ使用87.2%ですが、文部科学省が政府全体のデジタル化推進政策に先駆けて推進しています。
学校だけでFAX・ハンコ使用が廃止できるわけではなく、自治体をあげた取り組みが必要なのです。河野太郎大臣はじめデジタル庁が自治体首長部局を後押しすることも重要です。

▼学校のデジタル化で、先生にも余裕ができ子どもたちの学びも進化する

24年も前に「校務の情報化」に着手、愛知県春日井市のICT活用の勘所(東洋経済ONLINE・5月22日)
※なんのために、文部科学省は学校のデジタル化を進めるのか?冒頭に示した通り「子どもたちのために、デジタル化によって教職員の校務負担を軽減しよう」という目的があるからです。
春日井市の取り組みからは、無料ツールの利活用で、先生にも余裕ができ子どもたちの学びも進化することがあきらかになっています。
文部科学省の事例集youtube(小学校中学校)、信州大学の実証研究にも注目です。

文部科学省チェックリストの調査結果を保護者目線でみると、昭和のまま連絡帳を近所の子どもに預けないといけない状態の学校がまだ半数程度あるのではと心配されます。またお便りを教職員が印刷・配布する自治体が7割弱もあることにびっくりしてしまいました。

多くの自治体の研修や委員として活動している研究者としては、デジタル化に前向きな自治体ではすでにハンコが廃止され、諸手続きもデジタル化され、行政効率化だけでなく委員や住民にも利便性が高いことを実感しています。

学校のデジタル化による業務効率化は教職員の負担も軽減し、その余裕が子どもたちへの丁寧な関わりや良い学びにつながる、そのために文部科学省は取り組みを進めているのです。

また不登校経験者の母としては、オンライン授業の力を実感しています。わが子の場合ですが、先生がオンライン授業配信を可能な時間でしていただき、学校は楽しいという気持ちから登校再開に至ったからです。

いじめや教員不信による不登校の場合にも、他の学級や自治体の拠点校からのオンライン授業やオンラインホームルーム配信で学びを続けることができる子どもも少なくないのです。

デジタルの力で、学校をもっと働きやすく、先生も子どもたちももっと元気に。

文科省と学校・自治体の取り組みを私も応援したいと思います。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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