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【2つの「尊」】議員視察で当事者・現場を傷つけないために-議員さんのためのガイドライン【尊厳と尊重】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

 「家に帰れない少女向け施設へ…自民・馳衆院議員ら10人以上で『密視察』 勝手に撮影しブログ等に」、という残念なニュースが先週から社会に波紋をよんでいます。

 私も『学校に居場所カフェをつくろう!-生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』という本を、支援者のみなさんたちと一緒に出版しているだけに、ショックは大きいです。

 どれほどその場にいた当事者のみなさん、支援者のみなさんが、怖かっただろう、傷ついただろうと。

 

 団体の「抗議文と要望書」も、ぜひご確認いただき、政治家のみなさんが考え、行動を変えるきっかけにしていただきたいです。

 現場でのセクハラ行為や、謝罪の行き違い含め、その後もバスカフェのみなさんだけでなく、性虐待・性被害の当事者、支援者、全国の子ども・若者や女性を守る居場所やシェルターを運営されている関係者を深く傷つけていると思います。

 性虐待・搾取の被害者のためのバスカフェでの新宿区議や国会議員、秘書の心ない行動は私も批判されるべきことだと思います。

 とはいえこのような視察加害事案を再発させないことも大切です。

 これを機会に、より良い視察のあり方を共有していきたいと考え、視察をなさる議員さんたちに知ってほしいことをまとめました。

 日本社会におけるマイノリティ(虐待の当時者以外にも、貧困の当事者、居場所カフェの若者、子ども食堂に集まる子どもや親、不登校の子ども・若者、生活困窮者、外国につながる人たち、LGBTs、女性などあらゆるマイノリティ)に関わる場合の視察に、特に気を付けていただきたいことです。

 批判の対象となっている政党の議員さんだけでなく、すべての政党会派の国会議員さん、地方議員さん、官僚や公務員の方、マスメディアやジャーナリストのみなさん、など「権力を持つ人たち」にも読んでいただきたいガイドラインです。 

 受け入れ団体のみなさまにも、議員視察を受けるときやメディア取材を受けるときに、この記事を共有いただくことで、ご自分たちの支援なさる当事者と団体を守る手段にもなりうると考えています。

 キーワードは2つの「尊」=尊厳と尊重、です。

1つ目の「尊」:尊厳

すべての人間は尊厳のある平等な存在です

-自分がされたら嫌なことは他人にしない、の根っこを理解する

 

 まず、厳しい状況にある子どもや大人の現場を視察くださる議員さんたちに、「この人たちの問題や状況をなんとか改善したい」、という熱い思いがあること、私は信じています。

 ただ、視察に行く前に自分の心に確認してください。

 「なんとかしたい」気持ちが、どこかで「なんとかしてやろう」、という上から目線になっていないかを。

 あらためて確認していただきたいのは、すべての人間は尊厳のある平等な存在だということです。

 議員のみなさんには、釈迦に説法で恐縮ですが、日本国憲法第13条に「すべて国民は、個人として尊重される」とありますね。

 それを日常のご自身の言動にあらためて再インストールしていただきたいのです。

 

 たとえ政治家であっても自分や家族が、許可なく写真を撮られたり、ブログやSNSで公開されるのは、嫌ではありませんか?

 性的虐待などの被害者だけでなく、一般の社会の人々にとって、それはとても怖い、嫌なことなのです。

 

 もしご自身の女性の家族(配偶者や子ども)が、痴漢や性犯罪被害にあったと考えてください。

 

 配偶者や娘さんのいる家に、よく知らない大勢の男性がドヤドヤとあがりこんで来たり、家庭のリビングで勝手に座り込んで休憩していることは恐怖ではありませんか?

 

 バスカフェのみなさんの感じた恐怖、というのはこれに近いものなのです。

 困難を抱える当事者や団体を訪れる前に、「その相手を、自分や自分の家族に置き換えて考える」という思考を持つことが、大切です。

 これを折々にできていると、自分がされたら嫌なことは他人にしない、の根っこを理解する=あらゆる人間の尊厳と平等を大切にする、という思考や行動につながります。

2つ目の尊:尊重

受け入れ団体に寄り添ったルール確認を

-「教えてください」の姿勢がトラブルを防止する

 視察に行く際には、訪問団体にルールの確認活動の事前リサーチをすることが必須の前提です。

 逆にルール確認できていない現場や、どんな支援や当事者が集まるのか事前にリサーチをかけていない現場に、ノリと勢いで視察に行くのは絶対にやめてください、議員のみなさん!

 最低でも視察直前に、団体からの事前レクを受けずに現場に入るのは絶対にやめてください

 アレンジされる議員さん、団体さんや行政視察の場合も、不特定多数の議員や仲間に呼びかけるような不用意な視察もやめてください

 

 視察の際のルールの確認は、議員さんたちの方から「教えてください」の姿勢が大切です。

 

 「教えてください」は、相手を尊重する姿勢のあらわれです。

 

 国会議員の場合には、アレンジなさる地方議員・秘書のみなさんや調整するロビー団体のお仕事になるかと思います。

 「教えてください」のひとことを言っていただけると、団体さんや訪問先も、「こういうことを守ってほしい、気を付けてほしい」と言いやすくなります。

 団体だって弱い立場なので、確認をしてもらえなければ、ルールが言い出しづらいのだ、ということに思いを寄せていただけるとうれしいです。

 たとえば、居場所カフェの視察をアレンジするとき、私も運営団体に服装や、その場でのふるまい方を確認して、視察者に共有しています。

 可能な限り私もアテンド(随行)して、視察者と受け入れ団体やその場にいる当事者とのコミュニケーションがスムーズにいくように、気を付けてもいます。

 多くの団体さんも、そもそも人員が少ない中で、一生懸命視察を受け入れてくださっているのです。

 だからこそ、視察者の側に求められるのが、相手のルールや状況を尊重することなのです。

 今回、団体の代表の方が「抗議と要望書」を出されたのは、とても勇気がいることだったと思います。 

 いままで関係をもっていただいていた地方議会議員や、政策の改善に関与してくれるかもしれない国会議員との関係が悪化する可能性を考えると、多くの団体さんがこれまで同じような視察被害に遭いながらも、沈黙をしてしまっているのが実態だと思うのです。

 そのことに思いを寄せていただき、「気にくわないことをした団体とは関係を断つ」ような乱暴な発想はやめていただけませんでしょうか。

 「自分たちにも至らないところがあった」と思い、率直に謝罪し、どうすればよいのか「教えてほしい」と言うことで、必ず次の段階の良いコミュニケーションにつながります。

 もし今回の件にかかわられた議員のみなさまからの謝罪のあり方、またそれに限らず政治家の視察のあり方などについて、アドバイスをしてほしいということであれば、私のほうにメールにてお問合せください(オンライン検索をお願いいたします)。

 真摯なお申し出であると判断した場合には、微力ですがアドバイスをさせていただきます。

弱い立場の人々がいる現場視察で遵守すべきルール

 2つの「尊」(尊厳と尊重)を守ったうえで、政治家や権力をもつみなさん(マスメディア・官僚・公務員等)のみなさんに、弱い立場の人々がいる現場視察で遵守すべきルールを細かく示しておきます。

○写真の無断撮影や無許可のブログ・SNS発信は人権侵害です

 肖像権の侵害を超えて、DVや虐待被害者、子ども・若者の安全を守るために絶対にやってはいけないことです。

 この機会にあらためてご確認ください。

○普段着パーカー・Tシャツを1枚準備しておく(車の中や事務所に)

 スーツは、弱い立場の人々にとって権力や加害者の象徴です。

 (私も永田町や霞が関で、きりっとしたスーツ姿のみなさんが働かれる姿は、性別年代関わらず清々しいものだと思いますが、それとは別問題なのです。)

 車の中や事務所に普段着パーカー(選挙パーカーではなく)を準備いただき、羽織っていただけるだけで、弱い立場のみなさんは安心してその場にいることができます

 

 夏場はTシャツ(ポロシャツ)にお着換えいただけると、やはり安心です。

 女性政治家の場合には、ジャケットの下のトップスの工夫をお願い申し上げます。

 ジャケットを脱げば、普段着に近くなるようにしていただけると、やはり当事者の安心につながります。

 

 政治家ご本人だけでなく、秘書さんや官僚・公務員のみなさん含め、視察に行く全員が気を付けてください

○意識して小声で話す

 職業柄鍛えられているため、政治家のみなさんの声は正直、大きいです、なので、意識して小声で話してください。

 率直に申し上げれば、研究者の私もこわい時があります。

○勝手に話しかけない

 団体さんの許可がえられている場合を除いて、その場にいる当事者に勝手に話しかけないでください。

 

 対人恐怖を抱えている人たちが、とても多い現場です

○ソーシャルディスタンスは、コロナ後も基本作法にしてください

 コロナ後も、ソーシャルディスタンスを守ってください。

 

 虐待や暴力、搾取の被害者たちにとっては、誰かに不用意に近づかれることも恐いことなのです。

 せっかく定着してきたソーシャルディスタンス、視察の際にもぜひ実践してみてください。

2つの「尊」を大切にして、議員さんの視察を

 

 国会議員、地方議員含め、困難を抱えた人々や支援の現場に関心を持ってくださる方は多くはありません。

 

 生活保護バッシングや、貧困自己責任論などは、現場をしらない政治家ほど、簡単にふりかざす政治の現実があるのも確かです。

 逆に、困難を抱える子どもや大人の状況に、目を開き、耳を傾け、心も寄り添ってくださる議員さんたちが、法や政策をなんとか良くしたいと必死に努力してくださっていることを、私は子どもの貧困対策を通じて知ってます。

 だからこそ、議員のみなさん、今回のことで、現場に行くのはやめよう、と思わないでいただきたいのです。

 このガイドラインに示した2つの「尊」、尊厳と尊重を大切にしていただき、議員さんたちの視察はつづけ、困難を抱えた人々や支援する団体のみなさまの現実に寄り添っていただく努力は続けていただきたいのです。

 新型コロナウィルスの影響で、オンラインでの視察になる場合もあるかと思いますが、原則は同じです。 

 マスメディアや、官僚、公務員のみなさんも、2つの「尊」をどうぞ大切にしてください。

 人間の尊厳と平等を大切にしてくださり、弱い立場の人々の厳しい状況、かかわる支援団体のルールや思いを尊重してくださる政治家こそ、いまの日本が必要としている「大衆の選良」たる議員にふさわしい方です。

 どうせこんなことを言っても、議員の考えや行動は変わらないというご意見があることも十分に承知しています。

 

 でも私は、人間への希望、日本の政治と社会への希望を持ち続けています。

 

 同じ目線で、議員と困難を抱える人々が、お互いの尊厳と平等を大切にしながら、語り合える現場がひとつでも多くなることを信じて。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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