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面接の「結論ファースト」「言いたいことは3つです」 実は歓迎されていない理由は「わかりやすさ」の定義

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「私の強みの1つめは、誰にも負けない継続力です!」(写真:アフロ)

■就活生と面接担当者の間には溝がある

私の本業は人事コンサルタントですが、最近なぜか就活生向けのイベントをやることが増えました。模擬面接をすることもあるのですが、そこで感じたのは「面接で何をどう話すべきなのか」の認識が、就活生と面接担当者との間でかなり違うということでした。

そして、その違いは、面接という場を「とても変なコミュニケーションの場」にしてしまっているのではないかとも思いました。いったい誰がこの認識の溝を作っているのか分からないのですが、微力ながら溝を埋めるために本稿で解説したいと思います。

■抽象的な話をしても「情報量はゼロ」

まず、学生はどう考えているのか。彼らは「面接では、分かりやすく話すように」と言われ、次のように指導されているようです。

「結論を先に言え」(「結論ファースト」が合言葉にさえなっています)

「要点をまとめてポイントにせよ」(私の××は3つです、等)

「簡潔に、端的に話せ。長く話しすぎるな」

「最後に必ず『まとめ』を入れよ」(結論の再確認や「学んだこと」など)

しかし、少なくとも採用面接をする立場からすれば、これらのことはすべて余計なおせっかいで、できればやめて欲しいことなのです(異論はあるでしょうが)。

なぜなら、これらのアドバイスを忠実に実行しようとすると、話がとても抽象的になってしまいがちだからです。「結論」も「要点」も「簡潔」も「まとめ」も、たいていの場合、すべて抽象度の高い表現になります。

一方、面接担当者や選考担当者は「抽象的な表現」を聞いて勝手に想像してはいけない、と訓練されています。その人の性格や能力、価値観などを「具体的な事実」から推論することが基本。言ってもいないことを想像で埋めて理解してしまっては、相手のことを評価し損ねるからです。極めて当然のことです。

したがって、抽象的な表現は参考情報に過ぎず、極端な言い方をすると、面接担当者にとっては、結論も要点も簡潔もまとめも「情報量はゼロ」なのです。

■面接の目的は「理解」ではなく「納得」

しかも、面接の時間が限られていることを考えると、「情報量ゼロ」の抽象的な話で時間を使うのは得策ではありません。評価の対象となる「具体的な事実」を伝える時間が、どんどんなくなっていくからです。

もし、時間が無制限になるのでしたら、「結論ファースト」「要点」「まとめ」などはあった方が、確かに理解はしやすいかもしれません。ただ、それも最も聞きたいことである「具体的な事実」が十分に話せていればの場合です。具体的な事実を伝える時間を削ってまで、抽象的な話を入れては本末転倒なのです。

それなのに、なぜ就活生は前述のようなアドバイスを真に受けてしまうのか。おそらくそれが「分かりやすい」と思って納得したからでしょう。

確かに「結論ファースト」とか「ポイント」にすれば、少なくとも何を言おうとしているかという意味を理解することはできるでしょう。「私の強みは、何事も継続してやり遂げることができることです」という一文を理解できない人などいません。

しかし、面接の目的は違うのです。「言っていることの意味」を面接担当者に「理解」してもらうことではありません。「自分がどんな人間であるか」を相手に「納得」してもらって信じてもらうことなのです。

■ライフヒストリーを普通に語ればよい

面接担当者が候補者の就活生を見て、その性格や能力、価値観などを確信するためには、相手が話していることをいかにイメージできるか、にかかっています。

「なるほど、こういう場面で、こんなことを思い、こんなことを行なったのであれば、きっとこの人は、こういう性格や能力や価値観を持った人なのだろう」と思えるかどうかです。

イメージするために必要な情報は、抽象的なまとめなどではありません。例えば「私は継続性がある」と言われたとき、意味は理解できますが、イメージなどできません。むしろ、勝手にイメージしてはいけないのです。必要なのは、とにかく具体的な事実についての詳細情報です。欲しいのは「事実」なのです。

思えば、こんな変な自己紹介をするのは就活の面接の場面だけでしょう。ほとんどの人は、日常の場面で自己紹介をするときに「結論から言いますと、私は○○な人です」などとキャッチフレーズみたいなことは言いません。

「私はこんな場面で、こんなことをしてきた人です」と具体的な事実を羅列して自分を分かってもらおうとするはずです。私は、就職活動(ESや面接)でもまったく同じことをすればいいだけだと思います。

そして、そういう具体的な事実を伝えてさえくれれば、面接担当者はそれを解釈してその人を分かろうとしてくれます。就活生が自分で自分のことをまとめて解釈する必要はありません。事実を解釈するのが、面接担当者の仕事なのですから。

キャリコネニュースにて人と組織についての連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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