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部下の長時間労働がなかなか改善しないとき、上司がすべき3つのこと

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「残業代稼がなければ・・・」(写真:アフロ)

◾️労働時間管理の悩み

管理職の皆さんの中には、自分がメンバーだったときに労働時間管理は自主的にやっていたが、管理職になってみると、労働時間管理がまったくできないメンバーがいて驚く方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしかすると賃金が欲しくて不要な時間外労働をしているとしか思えない・・・と疑心暗鬼になることさえあるかもしれません。

そもそも「労働時間管理」の問題とは何でしょうか。メンバーの労働時間管理がまったくできないと言っても、出社時間(テレワークなら仕事開始時間)と退社時間(仕事終了時間)や休憩時間などが記録できないということではないでしょう。おそらくアサインメント(割り当て)した仕事に対して上司の予想や、メンバー申告より長い時間働いていることを指すのかと思います。

もちろんメンバー自身がセルフコントロールできればそれは素晴らしいことですし、ご相談者はメンバー時代にやっていたとのことですが、そういう意味での労働時間管理はそもそも管理職の仕事であって、究極的にはメンバーに責任はないと考えます。

◾️上司自身に問題がないかを考える

メンバーマネジメントとは、簡単に言えば、メンバーの力量を的確に評価して、それに見合った仕事をアサインすること。そして、途中でフォローをしながら、最終的にゴールへと導くことです。

力量以上の仕事をメンバーに与え、かつ適切なフォローをしなければ、オーバーフローして長時間残業になるのも当たり前です。

ですから、最初にすべきことは、上司自身が「メンバーの力量の評価間違い」「仕事の負荷の評価間違い」「必要なフォローの不足」などの確認をすることです。

結果だけをみて、期待通りになっていなからといって、すべてをメンバーのせいにしてはいけません。

① メンバーの力量の見立ては的確か

まず、「メンバーの力量の評価間違い」について考えます。

自分はメンバーの力量を知っていると思っていても、ある特定の作業を想定して「あのメンバーはこの作業を何時間で完了させられるか?」と問われれば、答えに詰まる人も多いのではないでしょうか。

実施している人は意外に少ないですが、メンバーが何かの作業を終えたら必ず「これはどのくらい時間がかかったのか」を常にヒアリングしましょう。

これを続ければ、メンバーの力量(どんな仕事だとどれくらいの時間でできるのか等)を、解像度高く理解できるようになります。

② 業務の平準化ができているか

次は、「仕事の負荷の評価間違い」です。仕事を分解して、すべての作業の流れや負荷を説明できているでしょうか。

どの作業にどんな能力やスキルが必要で、一般的にどのくらい時間がかかり、どの工程を先にしておかないと全体スケジュールが遅れるのか、などイメージできているでしょうか。

そして、既に各メンバーが抱えている仕事の負荷がどのくらいで、ぞれぞれの余力がどのくらいあるか理解しているでしょうか。

これができなければ、本来は平準化すべき作業負荷を、特定の人には過剰にかけてしまい、一方で暇を持て余す人を生み出してしまいます。

もしかすると長時間労働しているメンバーは過負荷なのかもしれません。そうであれば、何かの仕事を別の人に移すことを上司はしなければなりません。

③ メンバーのピンチを認識しているか

最後は、「必要なフォローの不足」です。

メンバーの力量に対して過剰な仕事だとわかっていながら、仕事を振ってしまうこともあるでしょう。しかし、その過剰さの度合いがきちんとわかっているのと、「なんとなく大変」だと漠然と感じるのとは天と地との差です。

「あのメンバーの仕事量の山は今週だ」とわかっていれば自分やほかの余力あるメンバーにサポートさせることができますし、「あのメンバーはこのスキルを伝授しなければあの仕事は完了できない」とわかっていれば、仕事前にレクチャーをすることができます。

そういうことをしていないと、あとから締め切りに間に合わないとか、間違ったやり方をして二度手間になるとかが起きて、これまた長時間労働になるというわけです。

◾️それでも「生活残業」を疑うなら

ここまでで思い当たる節があれば、部下を疑う前に、ぜひ自分自身を改善してみてください。

それでも部下が残業をやめないということであれば、おっしゃるように、もしかすると、「生活残業」(生活のために残業代を稼ぐためにする残業)をしているかもしれません。

特にここ数十年で日本人の平均年収は下がっていますから、「背に腹は変えられない」場合もあることでしょう。

しかし実際には、生活残業などをするよりも、今の仕事を早く終えて、もっとたくさんの仕事を受けられるようにしたり、もっと質の高い仕事をしたり、余った時間を自己研鑽に充てたりするようにしたほうが、結局のところ会社の評価も高まり、昇進して報酬も上がるはずです。

それなのに、生活残業という短期視点しか持てないのは、そういう長期の見通しができていないからでしょう。しかし、それもまた上司の仕事です。

「生活残業」をしているメンバーには、どういう力を身に付け、成果を出せば報酬が上がるのかという長期的な展望を見せてあげてください。

それができれば、本来やりたくもないはずの生活残業など、誰もしなくなるのではないでしょうか。

OCEANSにて20代のマネジメントに関する連載をしています。こちらもぜひご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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