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人事の6機能はすべて連動しているため一貫性が重要〜それぞれの方針をバラバラに考えていてはダメ〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
どんなことがあっても貫く人事ポリシーがあるか。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

■人事の6機能

人事担当者が日々行っている業務を機能で分けるとすれば、「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」と、大別すると6つの領域があります。

(1)「採用」

企業の外部の労働マーケットに必要な人材を求めて、企業内に採り入れる活動

(2)「育成」

企業の内部の人材を事業や業務が求める特性を持つ人材に変化させる活動。「採用」とまとめて「調達」と呼ぶこともある

(3)「配置」

調達した人材を、社内の業務やポジションとマッチングして、いわゆる「適材適所」を実現すること。人材の方を動かすだけでなく、マッチングする相手側の「組織構造」(階層の数、事業部制組織か機能別組織か等々)や「業務分担」(本来、一連のものであるビジネスプロセス(仕事の流れ)をどう切り分けるか。顧客別や商品別に一人がすべての流れを担当したり、前工程・後工程とプロセス毎に担当したりする等々)自体を変えることも含む

(4)「評価」

配置した人材が、一定の期間の間で、企業側と交わしたミッションや目標の達成基準を満たす行動や成果が実現できたかどうかを基に、その人材の企業に対する価値を評定すること

(5)「報酬」

評価に基づいて、企業全体が期間中に生産した価値(≒利益)を関わったメンバーで配分する。基本的には利益と対応する金銭的価値の配分を指すが、表彰や肩書きなどの「認知的」価値の配分も含む(最終的には金銭的価値に連なっていくものだが、それに至るにはタイムラグがある)

(6)「代謝」

「採用」の逆で、内部にいる人材を外部に退出してもらうという、組織の新陳代謝を指す。日本では多くの場合は(特に大企業では)、定年退職やリストラという「代謝」方法が多いが、普通に転職して退出する場合も当然含まれる

■人事機能はすべて連動しなければならない

これら6つの人事機能は一貫性を持っていなければきちんと効果を発揮しません。ところがそれを阻害するのが、人事部の中の縦割り組織です。例えば、採用担当部署と育成担当部署は分かれていることが多いです。それは、日常的な実務という面においては、採用担当と育成担当ではやることが全く異なるからです。ところが、機能的な面から考えれば、本来は、ある人材を採用した人が、入社後の定着や育成まで見るにこしたことはないというのは自明のことでしょう。

それが、致し方ないことではあるのですが、実務上の理由から別の組織になってしまっていることによって、情報共有がなされなかったり、方針に食い違いが出てしまったりすると、一貫性が失われて、人事が効果的ではなくなってしまうのです。

もっと悪い場合は、採用部署と育成部署が対立しているようなケースも見受けられます。というのも、採用を行った担当者は自分の採った人材は良い人材であると思いたい。ですから、もし採用した人材が入社してあまり伸びずに成果が出せないというようなことになってきたら、育成が悪いのだと言いたくなる。ところが一方で、育成を行っている担当者は、育成がうまくいかないのは、そもそもあまり良い人材を採っていないからだと言いたくなってしまう。それで、多くの会社で、採用と育成の部署は仲が悪いことが結構あるというわけです。

そうならないためには、できれば、人事部内で各役割の部署間で担当者のローテーションを行ったり、兼務者を多くしたり、情報共有の連絡会議を頻繁にしたりするなどして、人事部内の組織構造的にも人事の一貫性を担保できるような体制にするとよいでしょう。

■タレントマネジメントシステムで補完する

最近、様々な企業で導入が進んでいるタレントマネジメントシステムも、人事の一貫性を担保する意味で使われてきています。タレントマネジメントとは、人事協会SHRM(Society for Human Resource Management:世界最大の人事のコミュニティ)によれば、「人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の人事のプロセス改善を通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、現在と将来のビジネスニーズの違いを見極め、優秀人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること。」と定義されています。

また、タレントマネジメントは、ATD(Association for Talent Development:人材開発担当者の集まり)では、「業務の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、適材適所を実現し、仕事をスムーズに進めるため、職場風土(Culture)、仕事に対する真剣な取り組み(Engagement)、能力開発(Capability)、人材補強/支援部隊の強化(Capacity)の4つの視点から、実現しようとする短期的/長期的、ホリスティック(全体的な)な取り組みである。」と定義し、短期/長期的でホリスティックな取り組みとは、将来の目標を実現するため、現在の戦力を組織横断的、グローバルな視野で戦略的に人材開発する取り組みであるとしています。

このようなタレントマネジメントができるようなシステムを導入することによって、組織が分かれているなどの理由で、失われがちな人事の一貫性を補完することが期待されています。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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