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リモートか対面か。リーダーは好きな働き方を軽く公言すべきでない〜まずはみんなの本音を聞き出してから〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「やっぱり出社っていいよねー」「え、ええ(私は嫌だけど)」(写真:cake_and_steak/イメージマート)

■リモート化は大変だったが簡単でもあった

コロナ禍によって政府から何度も緊急事態宣言が出されたことにより、全国の会社はモートワーク化をせざるをえませんでした。対応をされた方々はとても大変だったことだと思います(私もそのひとりです)。

しかし、大変ではあったと思うのですが、不可抗力で「やらねばならない」ことでしたので、社内の合意形成を行うことは必要ありませんでした。

社員の皆さんも「仕方ない」と思っていたでしょうから、誰も文句を言うことはなかったと思います。そういう意味では、ゴールややるべきことは明確だったので、粛々とそこに向かってリモート化を進めればよかったわけです。

■対面に戻っていい、となってから困難が

その後、緊急事態宣言も解除されて、各企業はテレワークを「やらねばならない」という状態からは解放されました。

しかし、多くの経営者や人事の方々は実感されていると思うのですが、「どのような状態に戻すのか」を決めて、「社内の合意形成を得る」という困難が待ち構えていたのです。

「リモート化」は「リモート化」であり、どうすべきか明確です。出社しないでなんとか仕事を継続できるようにすればよかったのです。しかし、「完全リモート化しなくても良い状態」というのは、バラエティに富んでいます。

完全にもとのリアルに戻すということから、リモートワークを続けるまで無数の段階があります。これを自社はどこにするのかを決めなくてはならなくなったのです。

■まず、「どこまで戻すのか」という問題

まずはそもそもどこまでリモート化を解いて、どこまで今までのリアルな対面での仕事に戻すのかというバランスを決めなくてはなりません。

実はここについては、比較的やるべきことは明確で、さまざまな事例や研究などのエビデンスに基づいて、自社の事業や仕事の特性から考えれば、どういう働き方が適しているのかを論理的に考えていけばよいのです。

まだ研究や各社の実践が現在進行系であるということが難点で、確信的に「これがいい」とまでは言えなくとも、それでも既にかなりのエビデンスが集まっています。

それらを踏まえれば、自社はどういう働き方に戻すべきか、ある程度はわかります。

■難しいのは「合意形成」

次に、どういう働き方にするかというゴールが決まったとしても、それを社内に発表して、納得や合意を得なければなりませんが、実はそれが難しいのではないかと思います。

リモートワークのメリットを一度知ってしまった人は、もとのリアル出社に戻ることに反発を感じるかもしれません。リモートワークがつらかった人は、喜ぶかもしれません。このように、全員が完全に納得するような働き方はありえないからです。

つまり、どんな働き方に決めようとも、絶対に誰かは不満を持って、反対しているということです。ここを人事制度を作るのと同じくらいの丁寧さで対応していかねばならないと思います。

■エビデンスがここで効いてくる

もし、働き方を決めるのに、社員各自の「好み」だけで考えていたら、先に述べたように絶対に合意はありえません。

ここで効いてくるのがエビデンス、です。みんながそういう働き方をしたいから、で説得するのではなく、このように働くほうが自社の仕事においては、効率的であり創造的であるということを、事例や研究などによって説得することが必要です。

働く人々の価値観はとても重要ですが、そもそも働く目的は事業を通じて社会に価値を提供することですから、この観点から「この働き方がよいのだ」と言われれば、まともな人なら納得せざるをえないでしょう。

■ただし、うれしいかどうかは別

しかし、「納得せざるを得ない」ということは「心から同意している」こととは違います。理性的に考えてそのほうがいいのであれば、自分は完全リモートワークがいいのだが、渋々リアルに戻ろう、などと考えているわけです。

そこへ、リアルな場で仕事をするのが好きなマネジャーたちが、明るく「やっぱり対面はいいなあ。マネジメントもしやすいし!」などと放言していると、彼らはどう思うでしょうか。きっと「あなたたちのような人がいるから、本当はリモートワークができたのに、リアルに戻ってしまった」と思うことでしょう。

現状の各社員やマネジャーのリテラシーが理由でリアル化を進めた場合は特にそうです。

■誰がどういう働き方の価値観を持っているか知る

ですから、つまらない話ではありますが、明るく「リアルがよい」とか「リモートがよい」とか、仮にも多くの人をまとめるマネジャー層や経営や人事は言ってはいけないのです。

どんなゴールを作っても、誰もが少しずつ我慢しているというのが実態なのですから。それを察することなく、決めた新しい働き方、自社における「ニューノーマル」を礼賛していると、「人の気持ちのわからない鈍感な人」だというレッテルを貼られてしまうかもしれません。

コロナ後の働き方はまだまだ全国で模索中です。くれぐれも軽口を叩かないようにし、社員の「好きな働き方」の本音を聞き出すようにしましょう。

OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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