■終身雇用が終わり、会社と社員の関係は変わった

以前、トヨタ自動車の豊田章男社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べたのが話題になりました。

これまで日系大手企業がなんとか維持してきた終身雇用(実態は既にそうではありませんが)に対してとうとう明確に白旗を挙げたと解釈されました。会社と社員は、終身雇用、つまり「一生面倒をみる」から「会社の言うことを聞け」という関係であったわけですが、「一生面倒をみる」が崩れれば、「自分で生きたいように生きろ」と言うしかありません。

■「自律的キャリア開発」全盛の時代

当然、人材育成の考え方においても影響があります。会社が敷いたレールを走るのではなく、キャリアに関して一定の自由度を社員に与えて、「会社がなって欲しいもの」ではなく「自分がなりたいもの」になってくださいという、いわゆる自律的キャリア開発を促進することに多くの場合つながっていきます。

そこで各社は、様々な選択できるキャリアコースを整備したり、研修も自分で選べるカフェテリアプランにしたりと、自由にさせるかわりに社員本人に自分のキャリアの責任を背負わせることになっているわけです。

■個人も企業も両者にとってメリットがあるようにみえるが

遅きに失した感もあるぐらいで、時代的にみても自由にしたい個人と、責任を負いたくない企業の双方にとって、自律的キャリア開発は両者にメリットがあるようにみえる。特に、自由を奪われていた個人、特に若手にとっては大歓迎でしょう。

しかし、「自律的キャリア開発」は企業にとっては本当によいことなのでしょうか。ある人に会社が期待することを、その人が希望するかどうかはわかりません。得意なことがやりたいことではない場合も多々あるからです。また、一方で、それほど得意でないことをやりたい社員が出てきたら、成果が出なくてもやらせておくのでしょうか。

■世界は次世代リーダー育成競争中

日本が周回遅れで「自律的キャリア開発」と言っているうちに世界の様相は変わったように私は思います。

企業の人材育成競争はスピード感あふれるものとなり、会社を勢いよく引っ張っていける優秀なリーダーをどれだけ量産できるかが勝負となってきています。それなのに個人の能力開発を個人に任せていて、自然に自社が求める優秀なリーダーが生まれるのでしょうか。

いや、一般的な社員に関してはよいかもしれません。しかし、こと次世代リーダー(将来の幹部候補)育成に関しては、自律的どころかむしろ計画的に育成していかなければならないのではないでしょうか。偶然を待っていては危険ではないかと思うのです。

■人材プールを作り、そこに経験を流し込む

そもそも人はどうして成長していくのでしょうか。

米ローミンガー社は仕事7割、上司2割、研修1割と言いました。それは実感にも合います。人は結局、仕事経験を通じて、そこで揉まれることによって育つのです。

そうであれば、企業は自社の次世代リーダーに必要な能力は何で、それはどんな経験によって身につくのか、その経験は自社のどこに存在しているのかをまず把握しなければなりません。そして、そのリーダーに必要な経験を、全社を見渡して発掘してプールされたリーダー候補たちに計画的にアサインしていかなくてはならないのです。

■「自由」を失うかわりに、「責任感」と「誇り」を得る

つまり、次世代リーダー候補の人材に限っては、個人の自由にさせるのではなく、会社側から次々と成長できる難ミッションを与え続け、それをアサインする現リーダー達が意味づけし、動機づけていくということの方が重要なのではないでしょうか。

そのためには、常に社内のタレント(才能)を見逃さないようにしておくとともに、彼らのキャリアについては、中央で集中管理をしなくてはなりません。このあたりが、タレントマネジメントシステムの興隆にもつながっていると思います。

時代の雰囲気に呑まれると、自由に走ってしまいそうですが、そうしてはいけない部分も、人材育成にはあるのではないでしょうか。