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企業が重視する「意欲」にも2種類ある〜高い理想を掲げることと、バイタリティに溢れること〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
高いハードルを掲げることだけが意欲ではない(写真:アフロ)

■意欲を大事にする時代

既に何年も前から、「モチベーション」(動機付け)という言葉は、「意欲」「やる気」というような意味で人口に膾炙しています。細かい話をすると、「動機付け」=「意欲」ではなく、「動機付け」により「意欲」が生まれる「原因→結果」の関係ですが、世間的にはほぼ同義で使われていますので、ここでもそうしておきます。

ビジネスパーソンからアスリートまで、いろいろな人が「モチベーション」「意欲」に日々言及しています。なぜ、この言葉がよく使われるようになったのでしょうか。

■使命感や責任感重視から意欲重視へ

まず、昔ながらの「仕事とは責任感、使命感によって行うもの」「意欲とかやる気とかは関係なく、やるべきことはやるのだ」という考えから(私は古い人間なのか、この考えは好きですが)、時代が変わるにつれ、働く人々の気持ちを重視するようになり、どうすれば「意欲」「やる気」を持って仕事をしてくれるのだろうかということが課題になってきたことがあるように思います。

また、どんどん創造性を求められる仕事が増えてきたことも関係あるかもしれません。創造性には、個々人の「意欲」「やる気」が関係していると言われます。義務的にやらされ感で行う仕事では、単純作業は行うことはできたとしても、創造性はなかなか発揮できないでしょう。

■意欲にも二つの種類がある

さて、そんな「意欲」ですが、人事や採用の皆さんがよく使われているのを見ると、大きく分けて二つの意味があります。一つは、「精神的な(メンタル面での)意欲」、一つは「身体的な(フィジカル面での)意欲」です。

「精神的な意欲」とは、その人が心の中で抱く理想や志、目標の高さのようなものです。どれだけの高みを目指しているかということです。「目標達成意欲」等とも呼ばれます。最近の俗語で言えば「意識が高い」というのもこれに当たりそうです。

「身体的な意欲」とは、その人が何かをする際のエネルギー量やバイタリティのようなものです。どれだけのパワーでそのことを行おうとするかという程度の甚だしさの度合いです。「身体活動意欲」等とも呼ばれます。何をするにしても、人によって「当たり前水準」は違うものです。「身体的意欲」の高い人は、多くの人が「これぐらいでいいか」と思うレベルをはるかに超えて、物事をやりとげてしまうものです。

■一般的には「精神的な意欲」が高い評価

この二つの「意欲」についての注意点は、ややもすれば「精神的な意欲」が過分に評価されることが多いということです。採用面接などでは典型的ですが、高い理想を張り切って述べる応募者が評価されることが多々あります。

「私は御社に入社できたら、必ずや営業でトップに立って見せます」と応募者が言うと「素晴らしい」となるわけです。もちろん、そういう「精神的な意欲」が高いのは悪いことではありません。

■しかし、それは「空回り」を生む

しかし、「身体的な意欲」がそれに応じて高くなければ問題が生じます。理想が高ければ、それを実現するためにはよりたくさんのパワーが必要になります。

一方、「精神的意欲」>「身体的意欲」の人の場合、パワーが不足して、理想への長い道のりの途中で折れてしまう可能性があります。こういう人のことを俗的な表現では「空回りタイプ」「口だけの人」と言ったりします。

■「小さなことで喜べる」ことはメリット

逆に、「身体的意欲」>「精神的意欲」の場合は、意外にうまくいくことが多いと言われています。

言葉に出して表現する理想や目標は小粒でも、結局秘めたエネルギーがものすごい人は、結果を出すものです。「理想や目標が高くない」というのは、あまりよくないことのように聞こえますが、裏を返せば「小さなことで喜べる」とも言えます。

そういう人に大きなエネルギーが備わっていれば、本人も気づかないうちに、遠くまでやってきている、大きなことを成し遂げている、ということがあるからです。

以上のように、同じ言葉「意欲」であっても、いろいろ意味があるものです。少しでもご参考になりましたら、幸いです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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